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第三部 トゥー・ワールド・ウォーズ

世界審判教の乱心ーその⑦

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ヴィトは急いで世界審判教とファミリーの構成員が衝突している現場に急行した。
「くっ、このままじゃあ教団の連中に全て破壊され尽くされちまうぜ」
ヴィトは木の棒で殴り合っている構成員と狂信者たちを見ながら、思わず口元を覆う。
「どうするの?ルーシーが帰ってくるまではキミが代理だよ」
オウの言葉にヴィトは屋敷のクローゼットから取り出した新しい帽子の唾を下げながら何かを考えている。
(もしかして彼はこの惨劇の打開策を考えているのかな?無理だよ、ライター・ヘンプを倒さない限りは、この地獄のような状況を打開するのは不可能さッ!)
すると、ヴィトはコートの下から拳銃を取り出して、空中に向かって発砲する。
流石の狂信者も拳銃の音に怯え切ったようで、何人かがヴィトの方向を凝視する。
「落ち着きな、今のお前らは到底十字軍には見えねえ !今の家に火を付けようとしたり、無関係の人から宝石を奪おうとしているお前らはオレからしたら、お前らの方がよっぽどッ!」
ヴィトの言葉に何人かの狂信者は我に帰ったのか、お互いに聞き合ったりしている。
(よし、これで奴らの目が覚めれば……)
ヴィトがそう考えた瞬間だった。
「信徒の皆さん !コイツの言うことに騙されてはいけませんッ!我々の神はコイツらこそが、悪魔だと言いましたッ!コイツの嘘に騙されてはいけませんッ!」
ヘンプはそう言うとヴィトを指差す。
「コイツは本当の悪魔崇拝者です !騙されてはなりませんッ!」
ヴィトは動じることなくコートから、剣を取り出し、鞘から剣を引き抜き、ヘンプに向かって斬りかかる。
「貴様……真の教祖に逆らうのか……」
ヘンプは全身髭に覆われた醜い顔からも、分かるくらいハッキリと口元を一文字に歪めている事にヴィトは気がつく。
(アイツめ、よっぽど自分に斬りかかられた事がショックだったんだな)
ヴィトは自分の剣を握る手を震わせながら、そう考察する。
「まぁ、キミも終わりだよ、このライター・ヘンプことゴッドゴールに逆らうと言うのが、間違いなのさ、お前のような小僧になッ!」
ヘンプは自分の剣を光らせながら叫ぶ。その光はヴィトの剣が放つ黄金の輝きとは対照的に黒く光っていた。
(まっ、まさか……爆発を起こすつもりかッ!)
ヴィトは下唇を噛み締めながら、その場から勢いよく離れた。
「ふふ、危機回避能力だけは早いな、キミのファミリーはそんな逃げ腰の相談役コンシリエーレを持って気の毒だね」
ヴィトは下品に笑うヘンプの言葉に動じることなくヘンプに剣を向けながら呟く。
「なぁ、お前血の掟オメルタは知ってるか?」
ヘンプは予想外の言葉に片眉を動かす。
「知らないが、それがどうかしたのか?」
ヘンプの言葉にヴィトは唇を緩めせながら答える。
血の掟オメルタというのは、報復、或いは血の制裁さ、自分たちのファミリーを害した者へのな……」
ヴィトはそう言うと、何か唇を動かす。
(どうしたんだ?奴は一体何を唱えていると言うんだ……)
ヘンプは初めは訳が分からなかったが、すぐにヴィトが唇を動かしていた理由を察した。
「まさか、アイツめッ!」
「遅いんだよッ!」
ヴィトは自分の剣の先から雷の球を放つ。
「くっ、水で押し返してくれるわッ!」
ヘンプは自分の剣から雷を勢いよく水を放出したが、ヘンプはすぐに自分の過ちに気がつく。
「かかったな、んだぜ……そのまま勢いよく雷に含まれた電流はヘンプに襲い掛かる。
「グァァァァァァァァ~~!!!」
ライター・ヘンプは皮肉な事にも自分自身の魔法で自分の人生の幕を閉じたのだ。
「よし、世界審判教の教祖はあの世に行ったか……後は信者たちを……」
ヴィトは教祖ヘンプの周りに群がっていた信者たちに刃を向けようとしたが、次の瞬間に自分自身にものすごい勢いの水流が飛んでくるのを確認した。
「ぐっ……」
ヴィトは咄嗟に自分の剣で水流を防いだが、それもギリギリの状態で、ヴィトの右脚は懸命に地面を擦っている。
「ふふふ、今のは見事だったよ、ヴィトくん……キミを我々の宗教に入信させたいくらいだよ、キミは私のボーディカードに相応しいと思うよ」
ヴィトは必死の思いで剣を横にずらし、水流を違う方向に回避されると、そのまま剣先をヘンプに向ける。
「バカなのかお前は?オレがファミリーやフランソワ王国を売ってお前の元に下るとでも思うのか?」
ヴィトの言葉にヘンプは大声で笑い出す。
「それもそうだね、キミは偉いよ、忠臣の鑑とも言うべき人物だよ」
ヘンプは自分自身の剣先をヴィトの剣に対抗するように向ける。
「しかしだね、今のキミの選択は正しいものとは言えないと思うな、だってそうだろ?」
そう言った瞬間にヘンプは自分自身の剣先を近くの道路に突き刺す。
するとどうだろう。次の瞬間に地面が勢いよく爆発した。
「それが、貴様の魔法か……?」
ヴィトは怪訝そうな表情を浮かべながらもヘンプへの敵対心を忘れてはいなかったのか、鋭い宝剣の剣先はヘンプに向いたままだ。
「そうだよ、私は三つの魔法を使えるんだ。一つは水魔法、次に爆発魔法、最後に回復魔法ヒール・マジック……こんな所かな?おっとそうだ、私がこんな風に丁寧に自分自身の能力を開設した理由はね……」
と、彼は次の瞬間にはヴィトの懐に入り込んでいた。
ヴィトは咄嗟に剣をヘンプが突っ込んできた左方向に向け、難を逃れる。
「私がキミをなんだよ」
ヘンプは不敵な笑みを浮かべる。
「ならよぉ~オレもお前を倒せる……そんな自信があるんだ。それにお前に構っている時間は少ないんだ。この後はフランソワ王国に行く予定だからな」
「何故だい?」
ヘンプは半ば嘲笑うかのように鼻を鳴らしながら尋ねる。
「簡単な推理だよ、お前らがこのニューホーランドに総攻撃してきたのは、理由があっての事なんだろ?オレはその理由はエドワードが王国を攻撃したからだと推測したよ」
「ごもっともな指摘だ」
ヘンプは口元を緩めた。
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