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第三部 トゥー・ワールド・ウォーズ

世界審判教の乱心ーその③

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オスカー・マーロンはドン・ルーシー・カヴァリエーレをニューホーランド警察署の前で降ろし、そのまま取調室まで連行する。
取調室までオスカーは歩いていく彼女を見ながら、自分たちの勝利を喜ぶ。
もう、ホワイトハウスの件などどうでも良い。今は、ルーシーを逮捕する事が先決だ。
そのためには今まで妨害があって進まなかった調査をこの機会に更に進められる。オスカーは確信の笑みを浮かべた。
「さてと……今日はとりあえずあんたをこの部屋で取り調べる。いいなッ!」
オスカーは威圧的なーーーそれこそ、並みの女性なら泣くそうなくらいの剣幕で怒鳴ったが、ルーシーは相変わらず顔に不敵な笑みを浮かべているままだ。
「いいわよ、それよりもあなた顔が崩れていらしてよ、折角のハンサムが台無しだわ、わたしを取り締まるのもいいけれど、あまり暑くなり過ぎるのは体に良くないわよ、気をつけた方がいいわ」
だが、オスカーはルーシーの言葉に揺さぶられる事なく返答する。
「うるさいッ!お前がこの街とサウス・スターアイランドシティーを仕切っている暗黒街の大物だという事は割れてるんだッ!大人しく来やがれッ!」
オスカーは乱暴にルーシーを引っ張ると、取調室にまで連行した。
簡素な木製の机と椅子が並べられただけの無機質なコンクリートの部屋には既に4名の先客がいた。
全てオスカーの仲間で、この中での最高齢のブルーノ・イエローに、地味だが爽やかな印象を与えるジョージ・ウォルツと、財務省から派遣されたと言われているジム・マーチングの3名であった。
ルーシーが取調室の椅子に座らされた後に真っ先に口を開いたのは老警官のブルーノ・イエローであった。
「まずオレ達が聞きたいのは今朝に起きたホワイトハウス爆発事件の事だよ、これにあんたやコミッションや他のギャングの首領ドンが、ホワイトハウスに爆弾を送り付けたのは、あんたじゃないのかとね……」
その言葉にルーシーは口元を緩める。
「いいえ、わたしじゃありませんわ、そもそも証拠が無いのに横暴だと思います」
ルーシーの言葉は正論のようにも聞こえた。そもそも、各地のマフィアの首領ドンを捕縛せよと命令したのは、アメリカ大統領なのだ。自分たちが証拠を見つけて捕らえたのではない。
「だかね、キミもギャング撲滅宣言の事は知っているだろ?それに我々は諸君らギャングの血の掟オメルタというものにも目を止めた。つまり、ファミリーに害をなすものにはそれ相応の報いを受けさせるというものだな、キミも知っているだろ?」
ルーシーは動じる事なく知っているという旨をブルーノに伝える。
「つまりだな、我々はギャング撲滅宣言に対しての政府への報復だと睨んでいるんだよ、つまり、政府への血の掟オメルタという事になるな……」
「そんな事をしてわたしに何のメリットがあるの?」
ルーシーの声はハッキリと聞こえた。明らかに彼女はそんな事は何でもないという風に言ってのけたのだ。
「わたしは確かにこの街の権力者かもしれないわ、でもねわたしは建設会社の一社長に過ぎない身よ、そりゃあ税金をむしり取る政府に恨みがないわけじゃないわ、でもホワイトハウスの爆破なんて普通に考えたら、考え付かないわ !他のコミッションのメンバーやギャングの首領ドン達だってその筈よ」
ルーシーのその言葉にオスカーを始めとするメンバーは拳を震わせていた。
確かに彼女がこの街を牛耳るマフィアの首領ドンである事は間違いがない。
だが、同時に彼女を暗黒街の大物だと認定する証拠もない、それに彼女が直接ホワイトハウス爆破事件を指示したなんて証拠もないのだ。
「わたしを捕まえた理由はそれだけなの、全く不当逮捕もいいところだわ、わたしはこの街に尽くしてきたのに……住民にとってもカヴァリエーレの名は尊敬と友情の印の筈だわ、それをさも悪魔のように言い立てるのは、あなた達だけよ !」
ルーシーの言葉に一同は呆気に取られたが、唯一オスカーだけは怯む事なくルーシーを追求する。
「なら、聞くが……今年に入ったルカ・ミラノリアの殺害及びミラノリア・ファミリーの壊滅には一切関わりがないと言いたいのだな」
「そんな事を言った覚えはないけれど」
ルーシーは挑発するかのように言った。
「なら聞くのだが、今年にゴールデンストリートで起きたアメリカ一の歌姫だったセルマ・アランチーニの殺害にも関係はしているのか?」
オスカーは頭を撃たれて死んでいるルカの写真とまるで吸血鬼に血を吸われて死んでいるかのようなセルマの死体を見せたが、ルーシーは微動だにしない。
「いいえ、どちらの殺害にも関与していないわ、ルカの死は因果応報みたいなものよ、あなた達だって知っているでしょう?ルカ・ミラノリアがどうやって財を築いてきたのかを……」
オスカーは反論できないのが悔しかった。
事実、ルカ・ミラノリアには生前に脱税の容疑がかかっていたし、今年の四月から九月にかけてニューホーランドで麻薬が蔓延していたのも事実には違いない。
「それはそうだが……問題はお前だぜ、お前の収入に問題があってな、異常に収入が増えているな、今年に入ってサウス・スターアイランドシティーを手に入れてから……つまり、トーマス・マーニーとマーニー・ファミリーが壊滅してからだ。お前は南の街で何か嗜好品でも捌いているのか?」
オスカーの質問にルーシーは首を振る。
「いえ、わたしの会社がこの街にも進出している事は間違いありませんが、それは観光関係の建築を引き受けているだけに過ぎませんし、この街への進出をキッカケに観光事業にも少し手を伸ばしただけで……あなた方の言うような、大規模の収入を得た覚えはありません」
そこで助け舟を出すかのようにジムが一枚の書類を手渡す。
(彼女の言っている事は正しいよ、彼女はチャンと税金を払っているよ、書類にも辻褄が合う……間違いないよ)
(くそっ……奴は一体どこでこんな大きな収入を得ているんだ)
密かな声で囁き合う二人を見つめてルーシーは容易には帰られせてはくれないなと頭を抱えた。
(参ったわね、このホワイトハウス爆発事件の犯人は分かったような気がするわ、世界審判教よ、彼らFBIにも追われていたもの、きっと操作の目を撹乱するためにあんな事件を起こしたんだわ)
ルーシーはもう彼らの隅にも止まっていない犯人に目星を付けていた。
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