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第三部 トゥー・ワールド・ウォーズ

エンパイア・ハミルトンの支配者

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ジョルジ・マルゲリータはヴィトに一瞬だけ目をやると、次にルーシーを舐め回すように見つめる。
「ふふふ、ドン・カヴァリエーレ。キミもやるね、こんな美人の愛人を連れてくるとはね……」
ジョルジは二人に会う他の初対面のボスと同様に案の定ヴィトをファミリーのボス、ルーシーをその愛人だと思ったらしい。
「いいえ、彼女こそが、私の上司であるドン・ルーシー・カヴァリエーレです。私はファミリーの相談役コンシリエーレのヴィト・プロテッツオーネです」
その言葉にジョルジは気まずそうに頭を触ると、すぐにルーシーに握手の手を差し出す。
「すまなかったね、私がマルゲリータ・ファミリーのジョルジ・マルゲリータさ、さっきはすまなかったね」
「とんでもありませんわ、大抵の人が勘違いなさるのは当然だと思います。だって、いかにもボスっぽい感じの男の側に女性がいたら、誰だってあなたのような反応を示すでしょうし」
ルーシーは笑っていたが、舐めまわされるように見られ、内心不快だろうなとヴィトは考察した。
その割には、ルーシーは下唇を噛んだり、拳を小さく震わせたりしていない。ファミリーのボスとしての忍耐だろう。
ヴィトは短気な時代の事を考えると、本当に成長してるいるなと感心の表情を向ける。
「まぁ、上がり給えよ、私の屋敷は広大でね、三龍会の奴らから上納金を毎月取られる代わりに麻薬のルートや政府への賄賂は彼らが払ってくれるんだ。私は奴らの配下でも苦には思わんがね」
ジョルジは三段に出ている腹を抱えながら笑っている。
「まぁ、そんな事よりも私たちに話があった、部下を寄越したんでしょう?本題に入りましょうか……」
ヴィトの冷徹な目に怯えたのか、ジョルジは何も言わずに屋敷の豪華なリビングルームに二人を通す。
「おい、紅茶を持ってこい」
ジョルジは部屋のソファーに座ると、メイドを呼びつける。
メイドは可憐な女性であった。ヴィトは恐らく彼女はジョルジの愛人だろうと考察した。
「どうかしましたかな?」
ジョルジの言葉にヴィトは首を横に振ってみせる。
「何も無ければ結構ですが、彼女に見惚れていたんでしょう?私には解ります」
ヴィトは顔を引きつけながらも、何とか口元だけは笑わせようと努力する。そうする事で、自分も彼女に気があるように見せかけるから。
先ほどの自分の考察を目の前の中年男性に悟られれば、この場での空気を悪化させる事は間違いないからだ。
「あっははは~!そうでしょう !彼女は私のナイトクラブで働いていた所を私が雇ったんですよ !そこで、給料をうちの家に来れば、二倍出すと言ったら、彼女飛びつきましてね、幼い兄弟がいるから助けてやりたいんだと、喜んできましたよ、はっはっはっはっはっはっ !」
ヴィトはジョルジ・マルゲリータをとんだゲス野郎だと軽蔑していたが、それはルーシーも同じようだ。彼女は密かにジョルジに冷ややかな視線を向けていた。
「まぁ、それはともかく……私が窓から中華街を覗いた時に考えたんですよ、我々はどうするべきなのかと……つまり、三龍会が壊滅した後の今後ですよ、あなた方に取り込まれるのか、それとも我々が独立を保つのか……それを教えていただきたいですな」
ジョルジが呼びつけた理由はこの一点だろう。そんなものは最初からヴィトもルーシーも答えは決まっている。
「我々としては、あなた方が毎月三龍会に納めていた額と同様いや、それ以下の額でも構いませんから、上納金を貰うことが条件です。既に三龍会のボスたるリュー・ダントウとチェン・リーは死亡していますし、残るオウも我々の手中にありますので、あなた方が我々のファミリーに所属するのは当然の義務かと……」
ヴィトはジョルジの顔に真剣な表情で向かあいながら言った。
「ふふふ、気に入ったよ、ならばそれで手を打とうか……」
ジョルジが手を差し伸べようとした時だ。
「いいや、待ってください、我々としても条件があります。それはあなた方が今後麻薬と派遣ビジネスを放棄すること……それが条件です」
ヴィトの言葉にジョルジは信じられないという風に目を丸める。
「私の聞き間違いかな、今何て言ったのか、もう一度言ってくれんかね?」
ジョルジの言葉に答えてやるつもりで、ヴィトは半ば叫ぶように言った。
「麻薬ビジネスと派遣ビジネスを放棄する事が私の条件だと申し上げましたッ!」
それを聞くと、ジョルジは顎を高く上げながら、プルプルと怒りに震わせた手で壁に掛けてあった猟銃を持とうとする。
「ガキどもがッ!ワシが下手に出ていると思えば、つけあがりやがって !この場で殺してやるぜッ!」
ジョルジは猟銃の銃口をヴィトに向けたが、一瞬でその目論見は崩れ去る。
「一つだけ言っておくが、お前の今の態度は賢明とは言えんぜ、もう一度だけハッキリと言うぞ、この場でオレ達の傘下に下るか、ここで死ぬかを選ぶんだな」
ジョルジは結局傘下に下ると呟くことしかできなかった。
誰だって相手に向けたはずの銃口が一瞬のうちに剣で叩き落とされ、そのままその剣の矛先を自分に向けられれば、怯むに違いない。
「分かったよ、この街はお前らのものだよ、なんでも好きにしろ」
ジョルジは体を全身で震わせながら言った。
「そうか、飲み込みが早くて助かるよ、麻薬は人を破滅させる道具だからな、派遣ビジネスも同様だ。あれは人を傷つける。オレ達はこんな時代だからこそ、仁義や人情というものを持ったギャングでいきたいんだよ、時代の流れに逆らってな……」
ヴィトはジョルジを助け起こすと、部屋を跡にするルーシーの姿を見つめた。
「まぁ、オレらは帰るからな、この後にファミリーの人間を寄越すが、その時にウチのファミリーの人間に傷一つでも付いていたら、あんたらの反逆だと見なし、オレとファミリーが、あんたを叩き潰す。それは血の掟オメルタさ、あんただって理解してくれるだろ?」
ヴィトの問いかけにジョルジは必死に首を縦に動かしている。
「ようし、物分かりが良くて助かるよ」
ヴィトはそう言うと、ルーシーを追って部屋を跡にする。
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