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第三部 トゥー・ワールド・ウォーズ

三龍会との決戦ーその⑤

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だが、リューはそんなヴィトに屈することもなく、くっくっと笑い出す。
「甘く見てるのは、お前さんの方じゃないか?ワシの魔法をこんなものと思ってもらわれては困るな」
ヴィトは反射的に後ろを振り向く。そこには、回転テーブルから身体を起き上がるチェンの姿が見えた。
「やっ、やろう……」
「剣に腹を刺したくらいで、ワシの魔法が解けるとでも思ったか?ワシの霧は強力でな、それから、ワシは自分の弱点を暴露するほどバカではないぞ、お前さん自身で考えるんじゃ」
(ありがとよ、オレ自身で考えてみるさ、腹を刺してもダメなら、頭だ。脳をぶっ壊す !流石のゾンビも体の中枢とも言える脳を破壊されては、もう活動できん筈だからな……)
ヴィトがそう考えていると、目の前に一本のサイが飛んでくる。
幸い、サイはヴィトの頭を逸れ、空気を貫いたが、チェンが正気を宿らしていない目でサイを振っていた。
「さてと……第2ラウンドだ。やりあおう、お前もオレとの決着がこんなんで終わったらつまらないだろ?」
チェンは腹の傷をものともしないように平然と戦う意思を見せている。
ヴィトはチェンとは反対に脇腹の傷がうずいていた。それこそ、このまま逃げてくらい傷だった。
「やってみな、お前の傷なんかオレが更に広げてやるよ」
ヴィトは痛みを隠しながら、チェンに笑い顔を向ける。
「それでこそ、リュー老師がお認めになった男だよ、だがオレもワザワザ傷を広げられるためだけに立ち上がったわけじゃあないぜッ!」
チェンは不敵に笑いながら、サイを一本一本着実にヴィトの方へと刺そうとする。
その度にヴィトは剣で防ぐので大変だ。
「ぐっ、このやろ……」
ヴィトは剣を横に大きく振りかざす。
だが、チェンは飛び上がって避け、ヴィトにサイの一本を刺そうとする。
「クソッ」
ヴィトは咄嗟に地面に転がり、サイを回避したが、チェンはその隙を逃さない。
「もらった……」
チェンは飛び上がり、ヴィトを刺そうとする。
「くっ、あの久しぶりにあの魔法を使うしかない……」
ヴィトは久しぶりに一つの世界の移動魔法ワン・ワールドテレポーテーションを使う事に決めた。
「何、ヴィトの奴が姿を消しただと……」
チェンはサイを引っ込め、辺りを見渡す。
「落ち着かぬかッ!姿を消したと、ワシらの方が強さの方では上じゃ !それにヴィトの奴がどこから攻撃してくるくらい予想を立てれば怖くはないわ !」
リューの叱りつける声にチェンは死んだ体ながらも全身を震わせ、後ろや真横を警戒する。

ヴィトはその様子を確認しながら、空間の中でチェンとリューの現在地を確認する。
(ずっと、ここに留まるわけにはいかんからな、どちらかを攻撃させてもらうぜ……)
そう考えていた時である。ふと、右腕を押さえているルーシーの姿が見えた。
(るっ、ルーシー !)

「ねえ、もう終わりなの、リュー老師とチェンさんは、まだヴィトとの決着は着きそうにないけど、キミと私との決着は着きそうだよね」
オウはルーシーに椅子の脚の尖った部分を見せつける。
(やっぱり、わたしじゃあ無理だわ、なんとかないかしら……)
ルーシーは腕をやられた上にベレッタの弾も一発しない事に気がつく。
(いっ、一発だけなの……わたしはどうすればいいのよッ!アイツを倒すための良い打開策はないのかしら?)
ルーシーは懸命に頭を振り絞って考える。
(そう言えば、わたしが中学校の頃に喧嘩が強かったのは何故だったかしら?そうよ、相手の急所を突いてから、痛め付けていたからだわ、だから、男の子相手にもケンカができたのよ !)
ルーシーはオウがもう少し自分に近づくのを待つ。
「ふふふ、キミも頑固だよね、大人しく老師の言うことを聞けば良かったのにさ」
(もう少し、もう少しよ、お前が、わたしの前にもう少し体を伸ばしてくれれば……)
ルーシーの願いが通じたのか、オウはルーシーの真上に立ち、椅子の脚をルーシーの頭を振り上げようとする。
(今だッ!)
ルーシーはオウの腹を左手で思いっきり殴った。オウは悶絶し、体を押さえつけその場に崩れ落ちる。
すかさずルーシーはオウの頭にベレッタを突きつける。
「形勢は逆転かしら?」
オウは腹を押さえながら、ルーシーを睨みつける。
「どうして……あんな鋭い一撃が……」
ルーシーは得意げに笑ってみせた。
「わたしは中学校を卒業するまでは、ケンカ早くて短気な性格だったのよ、今のようにお淑やかな性格じゃなかったの、人は見かけによらないとも言うでしょ?」
オウは頭に銃を突きつけられてはどうしようもないと考えた。
チェンのようにゾンビなら、いやゾンビでも頭を撃たれては終わりだ。
オウは大人しく頭を上げた。

ヴィトは空間からその様子を眺めながら、安堵の息を吐く。
(どうやら、オレが加勢する必要はなかったようだな、あとはチェンかリューのどちらかを攻撃するだけだ)
ヴィトはチェンとリューの二人を眺めた。


「クソッ!オウの奴め負けやがったッ!」
チェンは悔しそうに地団駄を踏んでいる。
「落ち着け、我々が残っておるではないか、お前とワシとで充分に小僧と小娘を殺せるわい」
リューは相変わらずの笑みだったが、チェンはどことなく不安げな顔だ。
「老師 !ヴィトの奴が姿を消したというのは、我々を何処からでも狙えるという事ですよね?」
「それがどうしたッ!我々の方が数が上だッ!ルーシーの小娘はオウを抑えているから、ワシらを殺す余裕などない筈じゃ !」
リューは唐剣の柄を握りながら言った。
「だがな、リュー老師 !カルロ・ミラノリアや甥のルカ・ミラノリアが殺されたのは知ってるだろ?それにサウス・スターアイランドシティーのマーニー・ファミリーの全滅事件はアイツらの仕業だという噂も聞きますぜ !だからこそアメリカの政府がギャング撲滅宣言したわけで……」
リューはチェンの落ち着かない態度に苛立ったのか、空の鞘を地面に打ち付ける。
「いい加減にせんかッ!これ以上ワシを鬱陶しくさせてみろ、貴様の顔と胴が分かれる羽目になるぞ !」
リューの恐ろしい宣言にチェンは何も言えなかった。
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