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第三部 トゥー・ワールド・ウォーズ

三龍会との決戦ーその②

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「待っておったぞ、入れ」
手招きをする愛想の良い老人はリュー・ダントウだろうとヴィトは推測した。
「そうだな、待ちくたびれた」
リューの横でタバコをふかしている若い男はチェン・リーで間違いなさそうだ。
「遅れて申し訳ありません。行きの道にFBI捜査官の奴が待ち伏せしていたもので……」
ヴィトは申し訳なさそうに頭を下げる。
「まぁ、それは大変だったな、FBIの奴らめ、こんな所にまでやってくるとは……」
リューは同情するような二人に向ける。
「ええ、それよりもあなた方が三龍会のメンバーで?」
ヴィトの言葉にリューと思われる男は首を縦に動かす。
「いかにも、ワシがリュー・ダントウじゃ、このメンバーの中での一番の実力者じゃよ」
リューは自家製と思われる長くて赤いキセルをふかしながら答えた。
「オレがチェン・リーだ。三龍会の中で最も若い人物だ。無論、キミ達より二つか三つは年上だろうがな」
チェンはタバコを手元の赤い灰皿に落としながら言った。
「ところで、ドン・カヴァリエーレ。隣にいるのはあなたの愛人かな?随分とお綺麗だが」
その言葉にルーシーはピクリと眉を動かす。
「リューさん、違うよ、彼女こそが、カヴァリエーレ・ファミリーのボスさ、名前は……」
「カリーナ・ルーシー・カヴァリエーレです。カヴァリエーレ・ファミリーの首領ドンです」
ルーシーはオウの代わりに答えた。
「そうか、そうか、それは失礼したな、こんな美男美女と話せるなんて、ワシは幸せ者だよ」
リューはキセルの灰を灰皿に落とす。
「それよりも話は?」
ヴィトが二人を睨む。
「おっと失礼したね、こちらのコート掛けに二人のコートをかけるといいよ」
ヴィトは青色のコートをルーシーは毛皮のコートをコート掛けに掛けた。
「なら、早速話を進めるとするとか」
チェンは視線をルーシーに移す。
「それよりもじゃ、お前さんの日本進出の件はどうなった?」
そう言ったのは、リューだった。ヴィトは話を変えられ、不機嫌そうな顔を浮かべたが、同時に日本のヤクザには興味があったので聞いてみることにした。
「いいえ、日本のヤクザに阻まれて上手く進出できないんですよ、アイツらの団結力の強さには本当に感服するばかりで……」
チェンが話すには、日本のヤクザは見せしめに指を切ったり、血の繋がらない親分のために命捨て特攻する人間もいるらしい。
「銃の強さを示したらどうだ?」
リューの提案にもチェンは首を振る。
「いいえ、奴らも銃を輸入しているらしいですし、それに上手いこと商売を纏めるんです。当分我々が日本に進出するのは難しそうですね」
チェンの言葉にリューは残念そうに視線を下に落とす。
「残念じゃ、日本はまだまだ発展しそうだから、乗っ取りが有ると思ったのだが……」
「また機会がありますよ、それに韓国に進出しようとも試みたんですが、向こうの勢力がヤクザ同様に強くてね……」
「アジアをものにするのは、遅いというわけか……」
リューは諦めがついたのか、視線をテーブルに置かれていた料理に向ける。
「うむ、北京ダックか、お前の好物だったな、オウ」
オウは「ええ」と呟く。
「うむ、北京ダックの美味さは保証済みじゃよ、お二人さん食べなされ」
リューは笑顔で二人に北京ダックを勧めるが、二人は口を付けようとはしない。
「まずは話からというわけか?」
チェンの言葉に二人は首を動かす。
「ふふ、若い人間はせっかちでいかんな、ワシのようにノンビリといかんとな」
リューはそれから、二人に部屋の飾り付けを見るように指示する。
ヴィトもルーシーも部屋の飾り付けなどに別段興味はなかったが、改めて見て見ると、豪華な部屋であった。
テーブルと椅子の後ろにある棚には、商売繁盛を祈る三つ足のヒキカエルの置物があったし、その隣には水晶で作られた龍の置物が置かれていた。
壁には中国伝統の掛け軸が飾られていたし、何より彼が力を表したいと思っているのは、後ろにいる若いチャイナドレスの女性五人だろう。
三人がリューの後ろに二人がチェンの後ろに立っている。
(愛人兼護衛なのか……それとも、片方だけなのか、気になるところだな)
ヴィトはチャイナドレスの女性を観察してみる。
今のところチャイナドレスの脚などに銃を仕掛けているようには見えない。
(となると、やはり愛人だけなのか)
ヴィトは目の前に運ばれてきたスワラータンと呼ばれる酸味と辛味が混じっていると言われているスープを見つめた。
「うん、北京ダックも美味いが、これも美味いな」
リューとチェンとオウはスワラータンに舌を鳴らしているが、ヴィトは今の所はどうしても食べる気にはなれない。
「どうした、美味しいよ」
オウの女性のような優しげな声に誘われ、ヴィトも一口いただこうかと思案したが、警戒のためにやめておいた。
「まぁ、食わんのならいいだろう、それよりも話は一点だけだ。今後はワシらにもニューホーランドに進出する機会を与えてほしいのだよ」
「そうやって中華街が無い街にも片っ端から声をかけるつもりですか?」
ヴィトの声にリューは声を立てて笑う。
「あっはははははは~!そんなつもりはないよ、ただニューホーランドにおける利益を上げたくてね、最近アメリカではコミッションとの抗争で忙しくてね、その中でコミッションにもウチにも入っていないファミリーは本当にごく少数なんだ。第一次世界大戦での中立国が少なかったようにね、キミはどうする?コミッションに付くか、我々の傘下に下るか、好きな方を選びたまえよ」
その言葉にヴィトは深呼吸を大きくして間を置いてから、答えた。
「我々の答えは一つだけです。我々はコミッションに属する気もないし、あなた方の配下になる気もない、もう帰っても良いでしょうか?」
ヴィトの言葉にチェンが険しい目つきを向けている。
「我々の聞き間違いかな?キミらはどちらにも付く気はないと……」
「聞き間違いではありませんよ、我々は中立を保つだけです。コミッションにも属する気はないから、あなた方と敵対もしないとも言ったんです」
「よろしいならば、ここであの世へ行ってもらおうかッ!」
リューの合図でチェンとオウが二人に拳銃を突きつけた。
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