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第三部 トゥー・ワールド・ウォーズ
愛のテーマを歌って
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ヴィトはその後もダンスを踊り続けた。
二人のダンスは息ピッタリで、二曲目が終わるまでの間、パットとマイケルの二人は踊るヴィトとマリアを見て舌を巻いているほどであった。
「すごいな、でも、これはオレのお気に入りの曲であり、オレ達が一番ピッタリと踊れる曲なんだぜ」
マイケルはレコード盤にセルマ・アランチーニの代表曲『恋の街ニューヨーク』を流す。
セルマの癒されるような歌声が会場に響く。
(いい曲だわ)
マリアは流れてくる曲に耳を奪われている。勿論、ダンスの方にも意識を向けていたが、曲が良すぎるために集中できない。
(こんな歌、今までに聞いたことないわ……)
流石にかつての全米一の人気歌手の代表曲だけあって、名曲であった。もしかしたら、これから先も永遠に語り継がれていくかもしれない。
(ニューヨークは恋の街よ、いつでも素敵な恋に出会えるわ。でも、私は一度だけ……。あなたに会えた事、それは神様が多くの恋の中で巡り会わせてくれた奇跡なの)
この歌い出しをマリアは頭の中で何度も復唱している。
(思えば、あたしがヴィトと出会えたのも神様がめぐり合わせてくれた事なのかしら……神様があたしを守る騎士をいや、素敵な王子様を用意してくれていたのかしら)
マリアはふと、ヴィトの顔を見つめる。
ヴィトはやはり、美しい。こういうマリアも決して顔が負けているわけではない。
むしろ、マリアの顔は充分パリの街でもモデルをやれるくらい美しい。
だけれど、ヴィト・プロテッツオーネとその上司であるカリーナ・ルーシー・カヴァリエーレはまさにギリシャ神話の彫像と呼んでもいいくらいの美しさだろう。少なくともマリアはそう感じていた。
そんな風にヴィトの顔を見ていると、すると、やはり不自然だったようで、ヴィトは両眉を上げている。
「どうかしたのかい?」
「ううん、何でもないわ」
マリアは首を横に振った。
「ならいいんだ。それともセルマの代表曲に惚れちまったか?」
ヴィトの言葉は半分正解で、半分間違いであった。
セルマの曲に聞き惚れたのは本当だったが、その途中でヴィトとの出会いのことを思い出したので、自分は今こんなにも苦悩している……。
それをヴィトに思いっきり叫んでやりたい。そんな衝動にマリアは駆られた。
「そんなところかしら」
マリアは苦笑して答えた。
「それよりも、そろそろ曲が終わるぜ、気合いを入れろよ」
ヴィトはマリアの腰を持ちながら、曲が終わる事を優しく教えてやる。
「分かったわ、あたし気合いを入れて頑張るんだから !」
マリアはやる気を振り絞って『恋の街ニューヨーク』を踊り終える。
終わった時は周りの人たちから、雨あられのような拍手を送られた。対戦相手であったパットとマイケルさえも拍手を送っている。
「見事だったよ、今回はオレらの完敗さ、だけど次は絶対に勝つからな」
パットは笑いながら、だが、どこか悔しげに唇を噛みながら言った。
「さてと、パーティはまだまだ続くんだろ?オレは腹減ったから、メシ食ってくるよ」
マイケルは会場の中央の立食スペースへと消えた。
「さてと、オレはどうする?」
「そうね、あたし達も何か食べる?今回はあなた達の世界の料理も揃えてるのよ」
ヴィトは確かに……。と、冷静のビーフ・コンソメや七面鳥のローストや鹿肉のポルトソースとカンバーランドソース添えなどといった、いわゆる舞踏会伝統の料理と一緒に並べられたカッペリーニのイタリアンオムレツやジャガイモのガレット・フリコやボロネーゼが並んでいる。
その料理を貴族たちは物珍しそうに眺めている。
「ふむ、こんな料理は食べたことがなかったな、それにソースと麺が並んで入っているとは、妙な料理じゃ」
男爵と思われる立派な髭を生やした紳士が、ボロネーゼを覗き込んでいる。
「ふふふ、これは本当に美味しいぞ、悩む前に食べてみなされ」
後ろから声を掛けたのはプイスだった。
「うむ、美味いなッ!異界の料理も中々美味だな」
紳士は机の下に置いてあった小皿を取り出し、少しだけ皿に盛ってから、ボロネーゼを一口すすり、感想を述べていた。
「それは良かった。それよりそちらのピザなる料理もオススメで……」
プイスは貴族たちにイタリア料理のレクチャーを施しているようだ。
別の場所では、ファミリーの構成員たちが、貴族の人たち相手に自分たちの経験を調子よく喋っていた。
「いいですか、そこでミラノリアの奴らが、オレ達に襲撃をしてきてですね……」
貴族の人たちは自分たちが触れることがない、マフィアやギャングの世界の話や、マリア女王がヴィトたちのいた世界に来てからの話を熱心に聞いている。
「ほうほう、それでそのメアリー・クイーンズなる女はどうしたの?」
一人の立派な貴婦人が質問する。
「そこはですね !相談役が、王家に秘めたる伝説の剣を用いて倒したんですよッ!」
その言葉で話を聞いていた貴族たちは盛況に盛り上がる。
「流石、女王陛下がお認めになった騎士だッ!彼は何があっても女王陛下をお守りになるのだな」
「勿論ですよ、相談役は無敵の男ですからッ!」
その言葉に再び万歳を叫ぶ声が大きくなった。
ヴィトは会場の近くの風が当たる小さなバルコニーに来ていた。
「ふう、やはり風は気持ちいい、オレは豪華なパーティや園遊会も好きだが、こうやって一人になるのも好きなんだよな」
マリアとルーシーに今日はしばらく一人でいたいのだと、告げこの近くのバルコニーに足を踏み入れた。バルコニーに出ると自分の正面にあたる風が心地よい。
「広い世界の片隅にやがて二人の朝が来る。溢れる想いが頬の涙を映し出す」
ヴィトが呟いていた言葉は、父親の故郷であるシチリアに伝わる古い民謡であった。男女の恋を歌った曲で、ヴィトは小さい頃に港の近くのアパートから、父に良く聞かされた覚えがある。
「オレにとっての二人の朝はどちらなんだろうな」
ヴィト・プロテッツオーネは頭にある二人の女性を思い出し、バルコニーで風に当たりながら、懐からキューバ産のタバコとライターを取り出し吸った。
二人のダンスは息ピッタリで、二曲目が終わるまでの間、パットとマイケルの二人は踊るヴィトとマリアを見て舌を巻いているほどであった。
「すごいな、でも、これはオレのお気に入りの曲であり、オレ達が一番ピッタリと踊れる曲なんだぜ」
マイケルはレコード盤にセルマ・アランチーニの代表曲『恋の街ニューヨーク』を流す。
セルマの癒されるような歌声が会場に響く。
(いい曲だわ)
マリアは流れてくる曲に耳を奪われている。勿論、ダンスの方にも意識を向けていたが、曲が良すぎるために集中できない。
(こんな歌、今までに聞いたことないわ……)
流石にかつての全米一の人気歌手の代表曲だけあって、名曲であった。もしかしたら、これから先も永遠に語り継がれていくかもしれない。
(ニューヨークは恋の街よ、いつでも素敵な恋に出会えるわ。でも、私は一度だけ……。あなたに会えた事、それは神様が多くの恋の中で巡り会わせてくれた奇跡なの)
この歌い出しをマリアは頭の中で何度も復唱している。
(思えば、あたしがヴィトと出会えたのも神様がめぐり合わせてくれた事なのかしら……神様があたしを守る騎士をいや、素敵な王子様を用意してくれていたのかしら)
マリアはふと、ヴィトの顔を見つめる。
ヴィトはやはり、美しい。こういうマリアも決して顔が負けているわけではない。
むしろ、マリアの顔は充分パリの街でもモデルをやれるくらい美しい。
だけれど、ヴィト・プロテッツオーネとその上司であるカリーナ・ルーシー・カヴァリエーレはまさにギリシャ神話の彫像と呼んでもいいくらいの美しさだろう。少なくともマリアはそう感じていた。
そんな風にヴィトの顔を見ていると、すると、やはり不自然だったようで、ヴィトは両眉を上げている。
「どうかしたのかい?」
「ううん、何でもないわ」
マリアは首を横に振った。
「ならいいんだ。それともセルマの代表曲に惚れちまったか?」
ヴィトの言葉は半分正解で、半分間違いであった。
セルマの曲に聞き惚れたのは本当だったが、その途中でヴィトとの出会いのことを思い出したので、自分は今こんなにも苦悩している……。
それをヴィトに思いっきり叫んでやりたい。そんな衝動にマリアは駆られた。
「そんなところかしら」
マリアは苦笑して答えた。
「それよりも、そろそろ曲が終わるぜ、気合いを入れろよ」
ヴィトはマリアの腰を持ちながら、曲が終わる事を優しく教えてやる。
「分かったわ、あたし気合いを入れて頑張るんだから !」
マリアはやる気を振り絞って『恋の街ニューヨーク』を踊り終える。
終わった時は周りの人たちから、雨あられのような拍手を送られた。対戦相手であったパットとマイケルさえも拍手を送っている。
「見事だったよ、今回はオレらの完敗さ、だけど次は絶対に勝つからな」
パットは笑いながら、だが、どこか悔しげに唇を噛みながら言った。
「さてと、パーティはまだまだ続くんだろ?オレは腹減ったから、メシ食ってくるよ」
マイケルは会場の中央の立食スペースへと消えた。
「さてと、オレはどうする?」
「そうね、あたし達も何か食べる?今回はあなた達の世界の料理も揃えてるのよ」
ヴィトは確かに……。と、冷静のビーフ・コンソメや七面鳥のローストや鹿肉のポルトソースとカンバーランドソース添えなどといった、いわゆる舞踏会伝統の料理と一緒に並べられたカッペリーニのイタリアンオムレツやジャガイモのガレット・フリコやボロネーゼが並んでいる。
その料理を貴族たちは物珍しそうに眺めている。
「ふむ、こんな料理は食べたことがなかったな、それにソースと麺が並んで入っているとは、妙な料理じゃ」
男爵と思われる立派な髭を生やした紳士が、ボロネーゼを覗き込んでいる。
「ふふふ、これは本当に美味しいぞ、悩む前に食べてみなされ」
後ろから声を掛けたのはプイスだった。
「うむ、美味いなッ!異界の料理も中々美味だな」
紳士は机の下に置いてあった小皿を取り出し、少しだけ皿に盛ってから、ボロネーゼを一口すすり、感想を述べていた。
「それは良かった。それよりそちらのピザなる料理もオススメで……」
プイスは貴族たちにイタリア料理のレクチャーを施しているようだ。
別の場所では、ファミリーの構成員たちが、貴族の人たち相手に自分たちの経験を調子よく喋っていた。
「いいですか、そこでミラノリアの奴らが、オレ達に襲撃をしてきてですね……」
貴族の人たちは自分たちが触れることがない、マフィアやギャングの世界の話や、マリア女王がヴィトたちのいた世界に来てからの話を熱心に聞いている。
「ほうほう、それでそのメアリー・クイーンズなる女はどうしたの?」
一人の立派な貴婦人が質問する。
「そこはですね !相談役が、王家に秘めたる伝説の剣を用いて倒したんですよッ!」
その言葉で話を聞いていた貴族たちは盛況に盛り上がる。
「流石、女王陛下がお認めになった騎士だッ!彼は何があっても女王陛下をお守りになるのだな」
「勿論ですよ、相談役は無敵の男ですからッ!」
その言葉に再び万歳を叫ぶ声が大きくなった。
ヴィトは会場の近くの風が当たる小さなバルコニーに来ていた。
「ふう、やはり風は気持ちいい、オレは豪華なパーティや園遊会も好きだが、こうやって一人になるのも好きなんだよな」
マリアとルーシーに今日はしばらく一人でいたいのだと、告げこの近くのバルコニーに足を踏み入れた。バルコニーに出ると自分の正面にあたる風が心地よい。
「広い世界の片隅にやがて二人の朝が来る。溢れる想いが頬の涙を映し出す」
ヴィトが呟いていた言葉は、父親の故郷であるシチリアに伝わる古い民謡であった。男女の恋を歌った曲で、ヴィトは小さい頃に港の近くのアパートから、父に良く聞かされた覚えがある。
「オレにとっての二人の朝はどちらなんだろうな」
ヴィト・プロテッツオーネは頭にある二人の女性を思い出し、バルコニーで風に当たりながら、懐からキューバ産のタバコとライターを取り出し吸った。
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