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第三部 トゥー・ワールド・ウォーズ

舞踏会の夜

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部屋から出てきた二人を見て、二人は言葉を失ってしまう。
「どうかしたのか?」
だが、当の二人はそんな事に気がつくことなく、首を傾げている。
「もう用意はできたけれど……」
ルーシーも言葉を失っている二人を見て、自分が二人の言葉を奪った元凶とは露ほども思っていないようだ。
「変だな、とにかく行こうぜ」
ヴィトは優しくマリアの手を取った。
「そうね、行きましょう」
ルーシーもマイケルの肩を叩いて、舞踏会の会場へと向かって行く。
(美し過ぎるわ……)
(美し過ぎるぜ……)
二人は実際に美しかった。いや、「美しい」なんて言葉では物足らないかもしれない。
ヴィトが身に付けていたマシュマロのように白いタキシードとその胸に付けている一輪の真紅のバラがヴィトの元来の美しさを引き立てていた。
特に白のタキシードが彼が元々持っていた夜の闇を思わせる漆黒の短い髪と合わさっていて、恐らく初めてヴィトを見る人はこの姿を見れば、誰もヴィトをギャングだなどと思わないだろう。
一般のパーティに紛れ込んだハリウッドスターとでも思うかもしれない。
それくらいに今日のヴィトは輝いていた。
それから、マリアはチラリとルーシーを見てみる。
彼女の着ている優しい白色のドレスが、彼女の美しい身体を覆っている。
そして長く美しい黒髪。これがドレスの背中の半分にまで垂れている。
まるで、今日のルーシーは童話に出てくる『シンデレラ』のシンデレラが魔法使いにより、美しく着飾った姿のようだ。
(叶わないかも……)
ルーシーの美しい姿を見て、マリアは思わずため息を吐く。
(ううん、諦めちゃダメよ !ヴィトはあたしの物にするって決めたんだからッ!)
マリアは首を横に振り、それから拳を握ってみせる。
「どうしたんだい?もう着くぜ」
そのヴィトの言葉にマリアは自分が会場の扉の前に立っている事に気がつく。
マリアは会場でのスピーチを終えるまでは、ヴィトとルーシーの事は忘れようとドアを勢いよく開ける。
既に舞踏会で談笑をしていた親マリア派の貴族たちが、一斉に扉の方を振り向く。
「ごっ、ごめんなさい……通してッ!」
マリアは自分の着ているピンク色のコサージュの付いた華麗なドレスの裾を握りながら、スピーチを話す舞台へと向かう。
マリアは台に登り、スピーチを話そうとする。
「あっ、あの……わたしは新たにじょ……女王にいや、女王にかっ……帰ったマリア・ド・フランソワよ !こっ、今回は賊たちに国を支配している間に、耐えてくれたほっ、誇り高き貴族の皆様に……」
マリアは充分にスピーチの練習を昼間に重ねた筈であったが、華麗なヴィトとルーシーの姿を見た瞬間に頭が真っ白になってしまい、内容を忘れてしまったのだ。
(どうしよう……ここからは分からないわ)
マリアが口ごもっていると、そこにヴィトが入ってきた。
ヴィトが台に立つ瞬間に婦人から歓声の声が上がった。いや、男性からも感嘆の声が上がっていた。
「初めまして……フランソワ王国の貴族の皆さん……私の名前はヴィト・プロテッツオーネです。もう一つの世界に迷い込まれたマリア陛下をお守りしておりました」
ヴィトは息を軽く吸って、続きを喋った。
「陛下は立派な人物であります。陛下は見知らぬ土地にも関わらず、怖がる事なく我々と共にギシュタルリアの侵攻や反逆者と共に戦ってくださいました」
その頃には、聴衆の殆どがヴィトの演説に耳を傾けていた。
「そして、我々騎士団を率いて、陛下は別の世界において逆賊エリザベス・ド・フランソワを捕縛し、見事に王国を奪還なされ、我々の世界からもご帰還なさいました。私はこんな勇敢な女王陛下に仕えられ、幸福であります !そして……」
ヴィトは台の下にいたウェイターに耳打ちし、ワイングラスを持ってこさせた。
ヴィトはワイングラスを持ち上げ、祝辞の言葉を叫ぶ。
「フランソワ王国の永遠なる繁栄を祝って、乾杯 !」
ヴィトの乾杯の声に観衆は一斉に自分たちの持っていたグラスを宙に上げ、フランソワ王国とマリアに向かって乾杯を叫んだ。
マリアはそれを見届けると、こっそりとヴィトに耳打ちする。
「ありがとう……」
「心配はいらないさ、それにボクはキミに仕えたと言ったろ?だとすると、キミのピンチを助けるのは、ボクの義務みたいなものさ」
ヴィトは安心させるようにマリアの肩を叩く。
「そうね……それよりも舞踏会が始まったわ !踊る予定だったでしょ?」
その言葉を聞き、ヴィトはマリアの手を手に取り、ゆっくりと台を降りていく。
「お疲れ様ね、見事な演説だったわ、相談役コンシリエーレ
「ふふふ、お褒めに預かり光栄ですよ、ゴッドマーザー」
ヴィトは手を斜めに下げ、頭を下げる。
「それよりも……あなた昼間にダンス対決をする予定じゃなかったの?パットとマイケルが足踏みをして待ってるわ」
その言葉に従い、ヴィトが会場の端を向くと、そこには着崩れた黒のタキシードを着ているマイケルとパットの姿が見えた。
「さてと……マリア行こうか !」
「勿論よ !今度はアイツらに負けないわ !」
ヴィトとマリアは二人の元へと駆け出していく。
「全く……いつまでも子供っぽい顔が抜けないのね、ヴィトは……」
ルーシーが腕を組んで見守っていると、肩を叩かれた。ルーシーが後ろを振り向くと、そこにはパットやマイケルと同様に黒のタキシードを着たマルロがワイングラスを持って立っていた。
「よう、追いかけなくていいのかい?」
マルロの言葉にルーシーは首を横に振る。
「ううん、ヴィトがわたしを見捨てるような真似をする筈がないわ、彼とはもうずっとファミリーを共に纏めてきたもの……」
ルーシーはヴィトと出会った日のことを思い出していたのか、遠い目で会場の白いローマ風の柱を眺めていた。
「そうか、あんたはヴィトの事をオレよりも知ってそうだよな」
「そうかもしれないわ、あなたよりも付き合いは長いはずだから」
ルーシーはマルロに微笑んでみせた。
マルロはルーシーの笑顔を冷静に見つめ、男が惚れる理由を見つけたような気がした。彼女に微笑まれるというのは、その次も見たくなる筈だった。
微笑むだけでこんなに魅力的なのだから、付き合ってもっと色々な表情を見たい。
そう思っても不思議ではないだろう。
マルロは持っていた赤ワインを一気に飲み干す。
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