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第三部 トゥー・ワールド・ウォーズ

保護された宗教

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その僅か一ヶ月後に全治に三ヶ月は必要だと言われたピーターの怪我は全快したのだった。
「ありがとうございます !ゴッドーゴール  !!あなた様が宇宙人に祈ってくれて頂いたお陰です !」
退院したピータは、誰よりも先にヘンプに御礼を述べた。
「はっはっはっ、ようやくキミも彼らの偉大さが分かったようだね」
ヘンプは声を上げて、新たな信徒を歓迎した。
「これからは、ゴッドーゴールに忠誠を尽くします !」
ピーターはヘンプの右手を自身の両手で握った。
それから彼は、教団の熱心な応援もあって、ヘンプの卒業と同時に弁護士資格を取得し、教団の顧問弁護士となったのだ。
それからヘンプは僅か25歳の時点で、既にアメリカの新興宗教の中で一番大きな教団となっていた。
「今のアメリカ政府は腐っているッ!アメリカ政府はこれからも諸君らの子供たちを戦場に送る気だッ!間違いない !彼らがわたしに教えてくれたッ!奴らを潰さない事には、わたし達の未来はないッ!」
ヘンプの演説は反骨精神を持っていた。そして、そんな反体制的な演説はアメリカ政府への反骨心を持っていた若者たちの心を奪っていった。
「ゴッドーゴールの演説に間違いはないよ !」
と、一人のチンピラの男が街中で話せば、側にいた別の男たちも同意する。
「その通りだよ !ゴッドーゴールは間違ったことを仰っている訳がないんだ !」
チンピラの男たちが噂するたびに、ヘンプの存在は大きくなっていく。
そして、彼は各地の街で講演を行うようになった。ここまでは順調であった。ここまでは……。
「信徒の皆さんッ!我々は……」
と、ヘンプが街の公民館で演説を行っていた時だった。
「おい、テメェら誰に断ってこの場所で講演をやってんだッ!」
入口の方で空いている椅子を蹴り上げ、ギャングの男が乱入してきたのだ。
「なんなんですかッ!あなた達は……」
ヘンプは勿論抗議したが、相手の男は受け入れる様子もなく、更に鼻の穴を膨らませて怒鳴った。
「オレらの街でお前らのような教団どもはいられねえんだッ!帰れッ!帰れッ!」
ギャングの男は懐に手を入れた。
それに気がついた大衆たちが悲鳴を上げる。パニックになって椅子から立ち上がり、転げ落ちそうになった人もいる。
「出ていかねえと、このオレが黙ってはいねえぞ !」
この一言で講演は中止となった。
この一件から、ヘンプはギャングなどの自分よりも強い存在には手出しができないのだと思われ、今まで黙っていた元信者などの被害者たちが立ち上がった。
家族を返せデモは連日ヘンプの屋敷の前で行われ、彼が演説を別の街で行うとする時も、必ずデモ隊がやってきた。
ヘンプは頭を抱えた。
そして、教団の実態を勇気ある信者により告発され、ヘンプは窮地に立たされた。
「あなたの宗教はインチキだと言っているんです !あなたは嘘の天才だ !アドルフ・ヒトラーと同類の悪党だッ!」
そう発言したのは、ヘンプとの対談で教団被害者側の弁護士として活躍していたトム・ジョーズであった。
「何故、あなたにそんな事を言われなければならないんですか!?そうやって人を独裁者扱いするあなたこそ、独裁者だッ!」
ヘンプはトムを指差して、抗議するが、トムは怯む事なく畳み掛ける。
「いいえ、あなたの教団の実態は、まさにナチス・ドイツと同類だッ!告発した信者によると、あなたは自分の家の広い庭で信者たちに畑仕事をさせているらしい、それに修行と称して安いファーストフード店を経営している事もッ!」
トムの発言にテレビを聞きにきていた人たちだけではなく、それまで教団を好意的に見ていた聴衆たちもヘンプの世界審判教に疑念の念を抱くようになったのだ。
こうして、ヘンプは勢力縮小を余儀なくされていったのだった。
「くそう……あの忌々しい弁護士めッ!オレを詐欺師呼ばわりしやがって……ムカつく野郎だ。あの方々にお祈りして、宇宙へと導いてやろうか……」
ヘンプがワイングラスを揺らしていた時だった。ヘンプの目の前に一人の中世ヨーロッパの皇帝のような男が現れた。
「誰だッ!?ここを世界審判教の本拠地として侵入してきたのか!?」
ヘンプはサイドテーブルに隠してあった38口径のリボルバー拳銃を取り出す。
「お前はCIAの人間なのか!?それともFBIの……」
男はどちらの質問にも首を振る。
「じゃあ……」
ヘンプは銃口を向けながら、頭をかいている。
「分かんのか?余は別の世界の人間だ。いや、「人間」というか表現は正しくないかもしれんな、正しくは「生きる神」と称するべきだろうな」
ヘンプはその言葉にくちびるを震わせている。
「お前が「神」だと!?あの方々が言っていた。いずれ、偽りの神が現れるので、気をつけろと……それが、お前だな!?」
男はヘンプが笑う姿を見て笑う。それを楽しんでいるようにも感じられた。
「何がおかしい!?」
ヘンプは38口径のリボルバーの引き金に手を当てようとする。
「いいや、そんなおもちゃに頼るお前を笑わずにはいられなくてな……やってみるといい、余に当たるかどうかは分からんが……」
ヘンプはその男の言葉通りに銃を発砲したが、男は弾が当たる前に姿を消し、ヘンプの後ろに回り込む。
「ばっ、バカな……どうして、お前がオレの背後に回り込んでいるんだッ!」
ヘンプの質問に男は慌てずに答える。
「キミは宗教家だったな?丁度いい……余の国では、フランソワ王国が再び、奪還された事により、余をバカにする運動が広まっておる。少し困っておるのでな、お前に余を助けてもらいたいのだ。無論、余の国で布教をするのは自由だ。お前の神を広めてもらって構わないが、その代わり……」
「あんたを敬えとあんたの国の国民に言えばいいんだろ?」
頭の良いヘンプは男の声を遮った。
「その通りだ。お前が信頼する神と一緒にな……」
ヘンプが男の手を取ると、男はこの世界から姿を消してしまった。
後に部屋に入ってきた男は、ヘンプの失踪はFBIによる犯行だと認識したが、それはもっと後に間違いだと分かった。
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