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第二部 王国奪還

フランソワ王国の正統なる女王

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ヴィトは燃え盛る炎に怯むことなく、ドラゴンの扉の前まで辿り着く。
「あとはこのドアを破るだけ……」
その時に、ドラゴンが体を大きく揺らす。やはり、彼もこんな状況に耐えられなくなったのだろう。
彼の悲鳴が大きくこだまする。鼓膜が潰そうだ。ヴィトは咄嗟に耳を塞ごうとしたが、右手に剣を持ち、左手でエリザベスを背負っている事を思い出し苦笑する。
「ふっ、これじゃあ、オレは耳も防げんらしいな」
と、マリアが咄嗟に自分の耳を防ぐ。
「あなたが防げないのなら、あたしが防ぐわ !困っている騎士を救うのは、女王の宿命だものッ!」
ヴィトはマリアに感情に溢れた声で短く答えた。
「ありがとう……」
マリアはその声を聞くと、心臓がドキドキして破裂しそうになる。
「よし、退いてな……」
ヴィトはマリアを下がらせ、エリザベスをマリアに預けると、剣で白い大きな扉を破壊する。
後には外にあるみんなの姿が見えた。
ヴィトは再びエリザベスを背負い、マリアの手を引き、みんなの元へと戻る。
「お帰りなさい……ヴィト」
ルーシーが瞳に涙を浮かべせながら、それでも笑顔でヴィトを出迎える。
「ただ今……聞いてくれよ、いや、聞いてください。ゴッドマーザー。たった今フランソワ王国で反乱を起こしたマリアの従兄弟であるエリザベス・ド・フランソワを捕縛しました。これで、マリアは名実ともにフランソワ王国の女王に返り咲いたわけです。そこで……」
ヴィトはルーシーの耳元で囁く。
「我々で、異世界に進出しましょう。そこでも国民に友情と尊敬を集めさせるんです !」
ヴィトの言葉にルーシーはクスッと笑う。
「そうね、カヴァリエーレ・ファミリーが異世界に進出してもいい筈よ、なんたって我々はフランソワ王国の騎士団だものッ!」
それから、ルーシーはマリアに向き合い、彼女の手を取り、その手に忠誠の口づけをした。
「ルーシー……あなた……」
「マリア・ド・フランソワ女王陛下……今後我々はフランソワ王国の騎士団として、あなた様に忠誠を誓わせていただきます !」
マリアは笑顔でそれを了承した。
それから、マリアもルーシーの頰に口づけをする。
「これが、あめりか式の友情を表す動作なんでしょ?わたしはそれに従っただけよ !」
マリアは照れているのか、顔を横に背けている。
「ありがとう」
ルーシーは未だに子供に近い女王に苦笑する。
「ドン・カヴァリエーレ !我々の手で勝利を祈りましょうよ !!今は我々が喜ぶ時ですよ !」
マイケルの提案にヴィトとマリアとルーシーは満面の笑顔を見せた。
と、ここで……。
「それよりも、こいつらをどうするんだ?」
マルロがクローゼットに隠れていて、ヴィトとマリアがドラゴンの中で戦っている時に捕縛し、全員に監視されているルイを指差す。
「忘れてた。こいつを裁くのは我らが女王陛下だ……帰った時に検分して……」
その時だった。ドラゴンがいつもより一層大きな悲鳴を上げた。 
「どうしたんだ?そろそろ限界か……」
ヴィトがそう呟いた時だった。ルイが大きな声を上げる。
「いかんぞ !奴は爆死するッ!この建物を吹っ飛ばすくらいの爆発が起きるッ!」
その声で全員に混乱が起きる。
「大変だッ!大変だッ!どうすれば……」
パットが頭を抱えている。
「落ち着けッ!お前らそれでもカヴァリエーレ・ファミリーかッ!ゴッドファーザーから何を学んだんだッ!こういう時こそ、落ち着いて行動するんだ。今からオレ達で階段を降りていく……その時に落ち着いて、だが、急ぎながら行動するんだ……いいな?」
ヴィトの言葉に全員が首を縦に動かす。
「よし、オレから先に階段を降りる。お前らはオレとルーシーとマリアの後に続いてくれ」
ヴィトは先端を切って階段へと降りていく。その後にルイとエリザベスを捕縛した部隊にその後の襲撃部隊も続く。
そして、全員が階段を降り、ホテルから離れた時だった。巨大な爆発音がした。
まるで、ガソリンスタンドが爆発した時のような爆発だった。
「危なかったたわ、ヴィト……あなたがあの時に発破をかけてくれなければ、わたし達は死んでたかもしれないわ」
「いいや、オレは先代なら、こうするだろうなと真似しただけさ、お前だってゴッドファーザーなら、こうするだろうと思っただろ?」
「自分の功績くらい、素直に評価してもいいと思うのに……」
ルーシーは唇をつまむ。
「まぁ、どっちにしろいいじゃあねえか、オレ達は全員命が無事なんだからなッ!」
そう笑ったのは、マイケルだった。
「大したもんだよ、相談役コンシリエーレ !ミラノリアとの抗争の時といい、今回の時といい……あんたは戦闘時にも平時にも優秀な、相談役コンシリエーレだよ !」
マイケルは自分の腹を抑えながら笑っていた。ヴィトもそれにつられて笑顔になっていく。
「ありがとな、マイケル……」
ヴィトはマイケルの右手をギュッと握り締める。
「いいって事よ、それにあんた……オレに仮があるだろ?」
「仮だって?」
ヴィトは初耳だった。
「ああ、そうさ !ダンス対決の事だよ、前はオレとパットが勝ったけどよぉ~なんか釈明しないんだよな、だから……」
マイケルはホテルの近くにあった無人の電気屋のショーウィンドウにレコード盤と一緒に飾られているセルマ・アランチーニの楽曲『恋の街ニューヨーク』を指差す。
「あれで勝負しようぜ !そう言えば、恋愛の曲ってオレら踊った事なかったよな?」
マイケルはパットに目を向ける。
「そうだったな、でも……男同士でラブソング踊るなんてキモいだろうがッ!」
「いいだろうがッ!別に何を踊ろうが、ダンスが上手く踊れれば、オレは気にしねえんだよ !」
ヴィトはそんな二人の痴話喧嘩を見ながら、かつてミラノリアとの抗争で自らが、死に追いやった女の曲を聴くのか。と苦笑した。
「いいわね、わたしもこれ好きだったわ」
ルーシーは満面の笑みをレコードに向ける。
「おいおい、いいのか、そいつはオレ達の命を狙ったんだぜ」
「歌とは関係ないでしょ?それにこの曲を聴いて二人で踊ったら、完璧に踊れると思わない?」
と、ここでマリアが会話に乱入する。
「ちょっと、その曲はあたしの何だからッ!」
「残念ね、お嬢ちゃんにこの曲の良さは分からないわ」
「何よォォォォ~!大人ぶっちゃって !」
そんな二人の喧嘩をヴィトは優しく見守っていた。
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