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第二部 王国奪還

サウス・スターアイランド事変ーその⑦

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その後に街に派遣した部下が話す内容を聞くと、カヴァリエーレの方が夜襲を仕掛ける心配はなさそうだ。
「一先ずは安心という事かしら」
メアリーは近くの棚からタバコの入った袋を取り出す。
「吸ってもいいかしら?」
その言葉に目を丸くしたのはルイだった。
「女性が、嗜好品を!?あり得ん !我々の価値観に反するぞ !」
メアリーは向こうは考え方が硬いらしいわと苦笑する。
「悪かったわ、でも気分を落ち着けたくてね」
メアリーはそう言いながらもタバコの箱を棚に戻した。
「まぁ、今晩はゆっくりとしてね、敵は夜襲を仕掛けてくる可能性は少ないらしいし、明日の朝は街をしらみ潰しに歩いて、奴らを見つけて潰すとするわ、わたしを殺そうとしている人間も、今のわたしを見れば、怯えるに違いないもの」
メアリーの表情には確信に迫ったものがあった。
彼女がニューホーランドのルカ・ミラノリアと違うところは、この大胆さだろう。少なくともいくら、街がこんな状況に陥ったとはいえ、ルカならこんな決断はしなかった。
「取り敢えず今晩はロマネ・コンティでも楽しもうとしましょうか」
彼女はかつて兄が買って、このホテルのワインセラーに買ってあったのを思い出したのだった。

ヴィトはその朝の三時に目を覚ました。いや、この表現は正しくない。正確に書くのならば、ヴィトはその朝の三時二十五分に本能的に目を開けたと書くべきだろう。
何せ、少しだけ寝坊してしまったのは否定しようがない事実なのだから。
「おはよう、いや、というべきかしら、相談役コンシリエーレさん……」
ルーシーは嫌味っぽく言う。
「うん、本当だな、今は三時二十五分だ。あっ、そうだ !おれ達が行く前に頼んだ武器は!?」
「とっくに配達してるわよ、あらから直ぐにマルロに取りに行かせたでしょ?覚えてないの?」
ヴィトはどうも夢と現実の区別がついていないなと苦笑する。
「ねぇ、武器の箱に沢山入れたわよね、色々あり過ぎて、攻めるみんなには色々好きなのを選ばせたんだけど……」
「構わんさ」
ヴィトは何ともないという調子で言ってみせた。
「おれはこれが残っていればいい」
ヴィトは両手でトンプソンの機関銃を持つ真似をしてみせた。それから、パジャマから自分のお気に入りの青色の背広と青色のコートと青色の中折れ帽を被り、いつもの姿になる。
「あなた着替えるのが早いわね、それに大丈夫よ、わたしもそれだから……」
ルーシーは部屋の端に立てかけてあるトンプソン機関銃に目をやる。
「そうか、なら安心だ。いいか、今回の戦いは相手は油断しているとはいえ、かつてルカのスポンサーの護衛についていたガーゴイルの怪物や駅の奴みたいに魔法を使ってくる奴もいる。油断はするなよ」
ヴィトはルーシーの肩に手を置く。
「大丈夫よ、わたしが死ぬと思ってるの?」
ルーシーは安心させるように笑う。今回は襲撃に備えて動きやすいように男性用の黒のスーツを着ているので(ネクタイは外してはいるが)、彼女のモデルのような体型にそれがピッタリと似合っている。
そんな彼女はいつもヴィトが見ている彼女より、少し魅力的に思えた。
「いいや、そんな事はないさ……さぁ、行こう !アメリカの介入が始まる前にケリをつけるッ!」
ヴィトは二人用のベッドのサイドテーブルの上に置いてあった拳銃を懐に入れ、その側にかけてあった剣を手に取り、食堂で簡単な朝飯を済ませ、玄関へと急ぐ。
「遅いわよ、ヴィト !」
マリアは小さな杖を持ちながら叫ぶ。
「すまない、少し寝坊してしまってな……それよりも、全員の準備は?」
ヴィトの声に全員が武器を天に掲げて賛同する。
「よしッ!今から行う戦いは単なる抗争じゃあねぇ!この戦いでアメリカが潰れるか、どうかが決まるんだッ!それにもし、この戦いでおれ達が勝利すれば、おれ達は別の世界に足を踏み入れた唯一のギャングとなるッ!だぞッ!コミッションの奴らでもキューバのカジノで金儲けをしている連中にも踏み入れられない場所だッ!そして、おれ達は公認の組織となるのだッ!フランソワ王国の正統なる騎士として、ゆくゆくは王国で暮らせるさッ!」
ヴィトの構成員に向けての演説は大成功だった。彼らは異世界でのビジネスという報酬に目を輝かせていた。
「その通りだッ!おれ達に不可能はねぇ!それに戦いで勝てばこの街さえもおれ達に手に入るんだッ!」
マイケルは興奮したのか、大声で叫んでいる。
「うむ、今からおれ達はあのホテルへと攻め入るッ!あのホテルにマリアの従兄弟であり、王国の民を苦しめたであるエリザベスがいるッ!奴こそが元凶だッ!奴さえ倒せば、おれ達の勝ちだッ!」
ヴィトはトンプソン機関銃の銃口を遠くにそびえ立つホテルへと向け、それからホテルへと向かって行く。

ルーシーはヴィトに追いつくと、こっそりと耳打ちする。
「ねぇ、あなたは本当にあんな事のために戦ってるの?」
ヴィトは首を横に振る。
「まさか、あれはあいつらを鼓舞するために言っただけさ、本当はマリアの事を考えると、どうもオレはエリザベスって奴が許せなくてさ……でも、あいつにはマーニー・ファミリーの連中と他にも自分の国の兵やら化け物やらが味方している。だから、あんな事でも言って元気を出させたのさ」
ヴィトの言葉にマリアは構成員たちを押しのけて入ってきて涙目で「本当?」と尋ねる。
「そうさ、オレは嘘なんか言わない……オレはお前の王国を取り戻してやりたいし、それにお前のことも大切に思っているさ」
ヴィトは真剣な顔でマリアの瞳を見つめる。マリアにはその瞳が嘘ではないと信じられた。ヴィトの瞳には優しいものが映っていたし、何より彼がそんな事を本気に言うとは考えられなかったからだ。
「それよりも心配なのはお前の方さ、お前を追い詰めた元凶であるエリザベスと会うかもしれないんだぜ、お前は怖くないのか?」
マリアは涙を引っ込めて首を縦に動かす。
ヴィトはその様子を眺め、やはり彼女こそが、女王に相応しい器だと認識した。その気高さと心の強さは誰も否定はできない。少なくともヴィトにはそう思われた。
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