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第二部 王国奪還
ある朝の出来事
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ルーシーは父が死んだ日のことを思い出すと、今でも胸が張り裂けそうだった。だから、ヴィトに全ての心境を暴露したのだ。
「すまない、辛い記憶を思い起こさせてしまったな……」
ヴィトは申し訳なさそうに頭を下げる。
「いいわ、いつまでも引きずってはいられないし、今日あなたに聞いてもらっただけでも満足よ、おやすみなさいヴィト」
ルーシーは扉を閉める。そして、数秒後には扉から漏れていた電気の光が完全に消えたのを見届けた。
ヴィトは部屋に戻り、寝る前に本を読んでいた。先ほどマリアを慰める時に読んでいた恋愛小説ではない、おどろおどろしい怪奇小説であった。
内容はニンジン嫌いの男の子がニンジンを好きになるために神様にお願いすると、目の前の食べ物が全てニンジンに見え、そのうちに周りの食べ物のみならず、周りの人や物までも全てニンジンに見えてしまうという恐ろしい内容であった。
ヴィトはこの小説を読んでいるうちに眠くなり、やがて電気を消すのも忘れ、ウトウトしてしまう。
「ヴィト !起きて !!」
ヴィトは突然耳元で何かが破裂したのかと、驚いたが、ベッドの横には元気な様子のマリアが立っていた。
「あぁ……キミか、どうしたんだい?」
「どうしたんじゃないわよ !!」
マリアはひどくご立腹な様子であり、頰を膨らましている上に手を腰に当てていた。
「何時だと思ってるのよ !もう十二時よ !!」
マリアの言葉にヴィトは壁に掛かってある時計を見る。本当だ。時計の針は確実に十二時を示していた。どうりで腹が減るわけだ……。
「すまない、これから何か作るよ……」
「やれやれね、それよりもあなた礼拝とやらに行かなくていいの?」
マリアの質問にヴィトは思わず頭を抱えた。今日は日曜日だ。クリスチャンならば、日曜日は礼拝に参加するのが当然だった。
だが、寝過ごしてしまったものはしょうがない。
「今はテレビでも見る事にするよ、どうせもう終わっているだろうしな」
ヴィトは階段を降り、リビングのテレビの元へと向かう。テレビを付けると、お昼のニュースをやっていた。マリアはそのまま庭に出た。
「それでは今日のニュースです。昨晩カリフォルニア州ヒルバレーにおいて、宇宙人に楓の木を壊されたという男性に取材を行いました」
ここで、画面が変わり、いかにも農夫風の中年の男性がインタビューに答えている。
「あれは宇宙人だ……間違いねえ !おれは嘘なんか言わねえよ !まるでおとぎ話に出てくるドラゴンみてえなものに中世の絶対王政時代の王様だか、皇帝だか、そんな格好の奴が上に乗ってんだッ!確か奴はサウス・スターアイランドシティーを目指しているとか言っていたな……」
農夫は顎に手を当てて答えた。
「サウス・スターアイランドシティー?確か、噂ではかなり治安が悪いと評判の場所ですよね?どうしてそんな場所に宇宙人が?」
「さあな、地球侵略の下調べでもしてたんだろ」
農夫の男はインタビューアーの質問に半ば冗談めかして答えたが、インタビューアーの答えは冷淡なものであった。
「成る程……それがあなたの意見と?」
農夫の男はあまりにも冷静な男の態度にたじろぎながら答えた。
「うっ、確かにこれはオレの意見だけどさ……あんたももう少し乗ってくれれば……」
だが、男は無情にもインタビューを切り上げる。
「これで、朝のニュースを終わらせていただきます」
ヴィトはテレビを消し終えた瞬間にこの事件は異世界の件が関わっているのだろうと推測した。少なくとも農夫のドラゴンという言葉が彼をその考えに至らせるのに充分過ぎるほどであった。
「興味深い案件だがな……ワザワザ、サウス・スターアイランドまで足を運ぶほどのものではないと思うな……」
ヴィトのその言葉は正論だった。あの農夫の証言が本当かどうかは分からないし、仮にかつてのルカのスポンサーだった男が、サウス・スターアイランドに向かったとしても、既にボスが死に相談役もこちらに捕らえられているのに、何ができるのだろう。
トーマスには妹がいた筈だが、言っては何だが、彼女にマリアやルーシーのような器があるとはヴィトには考えにくい。
彼女が仮にマフィアの首領として適切に行動するのなら、兄を殺された報復であるデパートの襲撃の時にサウス・スターアイランドに監視に部下を残し、こちらに彼女が向かってきただろう。少なくともアールが単独でルーシーやカヴァリエーレ・ファミリーを倒すのは不可能なはずだ。彼の記録を調査せたが、彼は相談役には相応しくない器であった。彼の能力と言えば突撃とボスであるトーマスの言うことを聞くだけの男だったから。彼に単独で始末を任せるのは半ば不可能という事なのだ。彼女には見る目がないし、首領に最適とも言えない。
つまり、彼女に現在サウス・スターアイランドを手に入れるべく奮闘しているハリー率いるカヴァリエーレ・ファミリーの勢力を取り除くなど不可能に等しいだろう。
「現在も抗争が続いているのは、手紙や電話で伝わってくるが、戦況はこちらに有利な報告ばかりだ……ルーシーがハリーを抜擢したのも分かる。彼はまさに支部長に相応しいよ……」
ヴィトは朝飯といや、朝と昼の兼用食を準備しながら呟く。
「さてと、今朝の食事は目玉焼きとベーコンとパンかな……ミートローフも用意して……」
ヴィトはお盆に乗っている朝食に我ながら見事なメニューだと目を輝かせた。
「さてと、食うか……」
ヴィトは食事の前にお祈りをして、それからかぶりつく。美味いその一言だった。自分は料理人になれるかもしれない。結局は彼の自画自賛だったが、それだけ目の前の空腹の彼には美味しかったのだ。
「うん、このミートローフも絶品だ !」
ヴィトがミートローフをフォークとナイフを弄っていると、後ろから「帰ったわ」という言葉が聞こえた。
「ああ……ルーシーか、おはよう」
「おはよう、よく眠れたかしら?」
「勿論さ」
ヴィトはその声が別に嫌味も皮肉もなく言っているのに好感を持った。
「それで、ミサは済んだのかい?」
「ええ、今終わったわ……それよりもニュースは見たかしら?」
ルーシーは眉をひそめる。
「勿論さ、テレビでは宇宙人だの、火星人だのと言っているが、あれはかつてのルカのスポンサーに違いないぜ」
ヴィトはミートローフをいじくる手を止める。
「そうね、サウス・スターアイランドに向かっているらしいわ、わたし達も気をつけなければならないわ」
ルーシーは庭に向かう。ただいまを言うつもりなのだろう。
「あの二人、仲が良いのか、悪いのか分からんな」
ヴィトは苦笑した。
「すまない、辛い記憶を思い起こさせてしまったな……」
ヴィトは申し訳なさそうに頭を下げる。
「いいわ、いつまでも引きずってはいられないし、今日あなたに聞いてもらっただけでも満足よ、おやすみなさいヴィト」
ルーシーは扉を閉める。そして、数秒後には扉から漏れていた電気の光が完全に消えたのを見届けた。
ヴィトは部屋に戻り、寝る前に本を読んでいた。先ほどマリアを慰める時に読んでいた恋愛小説ではない、おどろおどろしい怪奇小説であった。
内容はニンジン嫌いの男の子がニンジンを好きになるために神様にお願いすると、目の前の食べ物が全てニンジンに見え、そのうちに周りの食べ物のみならず、周りの人や物までも全てニンジンに見えてしまうという恐ろしい内容であった。
ヴィトはこの小説を読んでいるうちに眠くなり、やがて電気を消すのも忘れ、ウトウトしてしまう。
「ヴィト !起きて !!」
ヴィトは突然耳元で何かが破裂したのかと、驚いたが、ベッドの横には元気な様子のマリアが立っていた。
「あぁ……キミか、どうしたんだい?」
「どうしたんじゃないわよ !!」
マリアはひどくご立腹な様子であり、頰を膨らましている上に手を腰に当てていた。
「何時だと思ってるのよ !もう十二時よ !!」
マリアの言葉にヴィトは壁に掛かってある時計を見る。本当だ。時計の針は確実に十二時を示していた。どうりで腹が減るわけだ……。
「すまない、これから何か作るよ……」
「やれやれね、それよりもあなた礼拝とやらに行かなくていいの?」
マリアの質問にヴィトは思わず頭を抱えた。今日は日曜日だ。クリスチャンならば、日曜日は礼拝に参加するのが当然だった。
だが、寝過ごしてしまったものはしょうがない。
「今はテレビでも見る事にするよ、どうせもう終わっているだろうしな」
ヴィトは階段を降り、リビングのテレビの元へと向かう。テレビを付けると、お昼のニュースをやっていた。マリアはそのまま庭に出た。
「それでは今日のニュースです。昨晩カリフォルニア州ヒルバレーにおいて、宇宙人に楓の木を壊されたという男性に取材を行いました」
ここで、画面が変わり、いかにも農夫風の中年の男性がインタビューに答えている。
「あれは宇宙人だ……間違いねえ !おれは嘘なんか言わねえよ !まるでおとぎ話に出てくるドラゴンみてえなものに中世の絶対王政時代の王様だか、皇帝だか、そんな格好の奴が上に乗ってんだッ!確か奴はサウス・スターアイランドシティーを目指しているとか言っていたな……」
農夫は顎に手を当てて答えた。
「サウス・スターアイランドシティー?確か、噂ではかなり治安が悪いと評判の場所ですよね?どうしてそんな場所に宇宙人が?」
「さあな、地球侵略の下調べでもしてたんだろ」
農夫の男はインタビューアーの質問に半ば冗談めかして答えたが、インタビューアーの答えは冷淡なものであった。
「成る程……それがあなたの意見と?」
農夫の男はあまりにも冷静な男の態度にたじろぎながら答えた。
「うっ、確かにこれはオレの意見だけどさ……あんたももう少し乗ってくれれば……」
だが、男は無情にもインタビューを切り上げる。
「これで、朝のニュースを終わらせていただきます」
ヴィトはテレビを消し終えた瞬間にこの事件は異世界の件が関わっているのだろうと推測した。少なくとも農夫のドラゴンという言葉が彼をその考えに至らせるのに充分過ぎるほどであった。
「興味深い案件だがな……ワザワザ、サウス・スターアイランドまで足を運ぶほどのものではないと思うな……」
ヴィトのその言葉は正論だった。あの農夫の証言が本当かどうかは分からないし、仮にかつてのルカのスポンサーだった男が、サウス・スターアイランドに向かったとしても、既にボスが死に相談役もこちらに捕らえられているのに、何ができるのだろう。
トーマスには妹がいた筈だが、言っては何だが、彼女にマリアやルーシーのような器があるとはヴィトには考えにくい。
彼女が仮にマフィアの首領として適切に行動するのなら、兄を殺された報復であるデパートの襲撃の時にサウス・スターアイランドに監視に部下を残し、こちらに彼女が向かってきただろう。少なくともアールが単独でルーシーやカヴァリエーレ・ファミリーを倒すのは不可能なはずだ。彼の記録を調査せたが、彼は相談役には相応しくない器であった。彼の能力と言えば突撃とボスであるトーマスの言うことを聞くだけの男だったから。彼に単独で始末を任せるのは半ば不可能という事なのだ。彼女には見る目がないし、首領に最適とも言えない。
つまり、彼女に現在サウス・スターアイランドを手に入れるべく奮闘しているハリー率いるカヴァリエーレ・ファミリーの勢力を取り除くなど不可能に等しいだろう。
「現在も抗争が続いているのは、手紙や電話で伝わってくるが、戦況はこちらに有利な報告ばかりだ……ルーシーがハリーを抜擢したのも分かる。彼はまさに支部長に相応しいよ……」
ヴィトは朝飯といや、朝と昼の兼用食を準備しながら呟く。
「さてと、今朝の食事は目玉焼きとベーコンとパンかな……ミートローフも用意して……」
ヴィトはお盆に乗っている朝食に我ながら見事なメニューだと目を輝かせた。
「さてと、食うか……」
ヴィトは食事の前にお祈りをして、それからかぶりつく。美味いその一言だった。自分は料理人になれるかもしれない。結局は彼の自画自賛だったが、それだけ目の前の空腹の彼には美味しかったのだ。
「うん、このミートローフも絶品だ !」
ヴィトがミートローフをフォークとナイフを弄っていると、後ろから「帰ったわ」という言葉が聞こえた。
「ああ……ルーシーか、おはよう」
「おはよう、よく眠れたかしら?」
「勿論さ」
ヴィトはその声が別に嫌味も皮肉もなく言っているのに好感を持った。
「それで、ミサは済んだのかい?」
「ええ、今終わったわ……それよりもニュースは見たかしら?」
ルーシーは眉をひそめる。
「勿論さ、テレビでは宇宙人だの、火星人だのと言っているが、あれはかつてのルカのスポンサーに違いないぜ」
ヴィトはミートローフをいじくる手を止める。
「そうね、サウス・スターアイランドに向かっているらしいわ、わたし達も気をつけなければならないわ」
ルーシーは庭に向かう。ただいまを言うつもりなのだろう。
「あの二人、仲が良いのか、悪いのか分からんな」
ヴィトは苦笑した。
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