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第二部 王国奪還

アーサー王の死

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マリア・ド・フランソワは夢を見ていた。彼女の夢は現実的なものである。その夢とは数ヶ月前に彼女の父親であるアーサーが病気で亡くなる際の夢であった。
「お父さん !しっかり !」
マリアはやつれ切った父親の顔を見て涙を流す。
「マリアか……すまんな、私はもう助かりそうにない……」
アーサーは弱々しい手を震わせている。
「大丈夫よ !お父さんにはまだまだ生きててもらわないと、国民だってお父様が生き残ることを望んでいるに決まっているわッ!」
マリアの励ましにアーサーは思わず涙を流していた。
「そうか……国民が……ありがたいな、私はずっと国のために民のために頑張ってきた……だが、中々後継者には恵まれなかった……が、お前が現れた……フランソワ王国はお前に任せるよ」
アーサーはマリアの手をギュッと握り締める。
「もっ、勿論よ……絶対に誰にも渡したりはしないわ !」
「はは……我が娘ながら頼もしい子だ……そうだ。一つ良いことを教えてやろう」
アーサーはゴホゴホと咳をした後にマリアの手を握り返す。
「代々我が王家には伝説がある……それは、悪しき者に乗っ取られし時にどこからか、国を守護する騎士たちが現れるだろう……仮にギシュタルリアやエリザベスが何かしようともその騎士たちがお前を守ってくれるよ」
マリアは未だに知らない騎士のことを考えた。その騎士たちはどんな姿をしているのだろう。ギシュタルリアの最新の鎧よりも頑丈な鎧を着ているのだろうか。武器は未だに誰も使っことがない伝説の武器なのだろうか。
そんな妄想を頭の中で駆け巡らせているうちに、アーサーが優しくマリアの髪を撫でた。
「大丈夫さ、きっといい人たちだよ」
父の言葉にマリアは勢いよく首を縦に振る。
「最後になるが……お前とマーリンに出会えて、本当に良かったよ、そして神に感謝する。戦場での名誉の戦死ではなく、全員に看取られて安らかに死ねることを……」
それが彼の遺言となった。彼は言い終わるのと同時にマリアの手から手を離し、かろうじて開いていた目を塞いだ。
そして、その目はもう二度と開かれる事はないだろう。臣下一同が悲しみにくれる中マリアはその中でも一番悲観に暮れていた。王女いや、今では女王か。そんな肩書きの事など忘れ、彼女は泣き続けていた。
その後は悲しみを払いつつも、女王として国を統治し続けていたが、その時にエリザベスがクーデターを起こし、自分を廃位に追い込んだのだ。それから"悪魔の門"に体を投げ込み……。
そこで、マリアを目を覚ます。辺りを見回してみる。ここは自分の今の城であり、今の騎士たちと暮らしている場所だった。
そうか、あれは夢だったのねと考え、涙を流していると、後ろから声を掛けられた。
「どうしたんだい?」
ヴィトの優しい声が背後から響く。
「何でもないわ !それよりも話は終わったの?」
マリアの問いかけにヴィトは首を縦に動かす。
「勿論さ、それよりもこんな所で寝てたら、風邪引くぜ……寝室へ行こう、オレらももう寝るところなんだ」
ヴィトはマリアの手を取ろうとしたが、マリアはそれを拒否する。
「悪いけど、一人にしてくれない……ちょっと辛いことを思い出しちゃって」
「そうか、だが寝るのは良くないぜ、話はどこか別の場所で聞くよ」
ヴィトはマリアの手を取り、立ち上がらせると、砂嵐の映るテレビを消し、書斎へと向かう。
「で、何故泣いていたんだい?僕で良ければ相談に乗るよ」
マリアと一緒に書斎のソファーに座り、ヴィトは優しく問いかける。
「うん、お父さんが死んだ事を思い出しちゃって……夢で鮮明に浮かんできて……」
マリアは本当に子供のように泣きじゃくっている。
「そうか……それは辛い夢だ」
ヴィトはマリアに気分を落ち着けるために葉巻を吸っていいかを尋ねる。マリアはそれを許可した。ヴィトはキューバ産の葉巻に火を点ける。いつも上手い葉巻だが、今日は何の味も感じない。
「辛いなんてものじゃあないわ、あの苦しみが二度も……どうして、思い出さなければいけないの!?」
マリアは自分でも驚くような大きな声で叫んだのがヴィトの驚く顔で分かった。そんなに大きかったのだろうか。
「……分かるよ、オレもお袋と親父を失った……親父は事故で、お袋は病気で……どうしようもなかった。そんな時に拾ってくれたのが、ドン・カヴァリエーレだった。オレは感謝したよ、忠誠も尽くした」
ヴィトは葉巻を口から取り、それをソファーとソファーの狭間にある長机の上に置いてある灰皿に押し付けた。
「ヴィト……」
マリアは返す言葉が思い浮かばなかった。
「気にするなよ、それよりも今晩はオレも付き合うよ、丁度オレも眠れなかったし、新しい本を買ったばっかりだったからな」
「そんなの悪いわ !」
マリアは抗議の声を上げたが、ヴィトは愛想の良い顔を向け、親指を上に挙げる。
「本を取ってくるよ……キミはここにいてくれ」
ヴィトは書斎を跡にする。
「ヴィト……」
マリアはヴィトへの感謝の気持ちで心が一杯であった。ヴィトは買ったばかりのアメリカの架空の街セントラル・ブルックリンシティーが舞台の恋愛劇が描かれた本を自分の本棚から、取り出し、書斎へと戻る。
「タイトルは『セトラル・セントラル』か……」
ヴィトはタイトルを再確認し、書斎へと戻る。
「お待たせ、本を持ってきた。あとは立っているついでに紅茶でも持ってこようか?」
ヴィトの問いにマリアは首を横に振る。何となく飲む気になれなかったからだ。
「いや、いいわ……」
「そうか……」
ヴィトは無言で本を読み始めた。しばらくはマリアもジッとしていたが、やがてヴィトの読んでいる小説が気になったらしく、やがて、彼女を灼けつくような好奇心が襲った。
「ねえ、どんな話なのよ」
ヴィトは簡潔に話の内容を話す。物語は架空の街に住む男女の話で、学生生活をしているうちに恋が芽生え、やがて結ばれていくという内容だった。
そしてこの小説の中で一番面白い点は、主人公とヒロインをめぐるライバルがサッカーでもライバルで、競い合うという内容だった。
だが、マリアはサッカーを理解できなかったようで、首を傾げていたが、それでも恋愛の部分にはかなりの興味を示していた。
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