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第二部 王国奪還

ゴッドファーザーと呼ばれた男ーその⑥

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男は取り敢えず二人を自分の応接間へと案内する。こんな夜分に未成年二人を追い返すのもいけないと感じたのか、それとも夜分に送り返しては、流石にドン・カヴァリエーレに失礼だと思ったのだろうか。
「お招きいただいてありがとうございます」
ヴィトとルーシーは丁寧に頭を下げる。
「ふん、とにかく座れ、組合問題の話はそれからだ」
応接間の柔らかいクッションのついた赤い椅子に座り、その向かい側にある三人がけのソファーに座る。
「夜分に遅く申し訳ありませんが、早速本題に入らせていただきます」
ヴィトはルーシーに耳打ちし、書類を男との狭間にある黒造の長テーブルに上に置く。
「これは?」
男は目を細める。
「今朝も出したウチの労働条件です……ウチの港は他の街よりも断然条件が違いますし、給料もあなたの前の職業よりは少ないですが、確実に安定した収入であると思われます」
ヴィトは書類の内容を淡々と説明する。
「ふん、何度も言った通り、私は考えを改めるつもりはないし、キミらの言いなりになる気もない !もう帰ってくれんかッ!」
男は椅子を勢いよく立ち上がる。
「待ってくださいよ、私はもう帰ってもいいんですがね、あなたの言い分も少しは聞いておきましょうと思って……もう少し具体的に説明していただけると助かりますわ」
 ルーシーのたしなめる声に男も観念したのか、自分の具体的な主張を繰り返す。朝から変わらない、相変わらずの自分勝手な主張であったが、ヴィトとルーシーは辛抱して聞いていた。
「さぁ、もう分かっただろう!?出て行ってもらおう !さぁ !!」
男は応接間の空いているドアを指差す。
「そういう訳にもいきませんよ」
ヴィトが首の後ろをかいていた時だった。
「ねえ、父さん大事な話が……」
その入ってきた男とルーシーとヴィトとの間に「あっ」という声が上がる。
「ヴィト……どうしてキミがここに?」
「ジョセフ……キミこそどうしてここに?いや、大体分かったような気がするよ」
要するにジョセフは目の前の男の息子だったのだ。ヴィトは複雑な関係になったなと苦笑する。
「おい、ジョセフ、お前コイツらと知り合いのか?」
ジョセフは首を縦に振った。
「うん、今日ソーダショップでルーの奴に絡まれてたところを助けてくれたんだよ」
ジョセフは弱々しい声で説明する。
「ルー !ルーだと !またあいつなのか!?ちくしょうあの野郎め、いつもいつもウチの息子をいじめやがってあのクソ野郎ッ!」
男は組合問題の事も忘れ、いじめっ子相手に拳を上に挙げる。
「落ち着いてくださいよ、あまり怒りすぎるのもどうかと思いますよ」
ヴィトは微笑したが、男は面白くなかったようで、拳を長テーブルに思いっきり叩く。
「ふざけるなッ!貴様らのと問題がまだ解決していないぞッ!大体、私のストレスの原因はお前たちじゃあないか、私は戦いを続けるぞ、私は……」
その時だった。ジョセフの弱々しい声がヴィトと男との争いに介入した。
「父さん、いい加減しなよ、彼らだって困ってるじゃあないか」
だが、折角の援護射撃にも関わらず男はヴィトに譲歩する気はないらしい。
「ふん、私は嫌だと言っているんだ !」
「父さん !」
「お前は黙ってなさい!私は今目の前の小僧と小娘とで話しているんだッ!」
男はジョセフを怒鳴りつけ、半ばヒスリテーを起こすかのように喚き散らす。
「まぁ、あなたの用件はドンには伝えておきますよ、とにかく我々はこれで帰らせていただきます」
ヴィトとルーシーは席から立ち上がり、玄関の方へと向かっていく。

「どうするのよ、彼の言うことを聞けば、ウチの港は赤字になるわッ!ただでさえ、他の港よりも甘いのに、それよりも甘くしたら、お終いだわ !」
ルーシーの言葉は正論だろう。実際にこれ以上労働条件を良くすれば、損益を被るのはファミリーなのだ。ファミリーの害になることだけは避けなければならない。
だから……。
「とにかく何とかしてみるさ、それにオレはこう考えているんだ『できる、できないじゃあなくて、やるか、やらないか』だとね」
ヴィトは安心させるように目をウィンクさせてみせる。
それから、車に戻ろうとするが、その時に背後から声をかけられた。
「ヴィト !キミが来るなんて予想だにしなかったよ !!来てくれてありがとう !」
ジョセフはヴィトに握手を求める。それにヴィトは嫌がることなく応じた。
それから、ジョセフはルーシーを見つめ。
「どうも、ボクの名前はジョセフ・マーク、母さんからはジョーと呼ばれているよ」
「そうなのね、じゃあ、わたしもジョーと呼んでいいかしら」
ルーシーは笑顔で提案する。ジョセフからすれば、それこそとろけるような女神のような笑顔だった。
「勿論だよ !これからもよろしく !父さんからはぼくから良く言っておくよ……だからさ、これからもぼくと……」
「何言ってんだよ、オレらはもう友達だろ?例えお前が警察官になろうとも、或いは検事になろうともオレとルーシーはお前を友達だと思い続けているよ」
ヴィトの言葉にジョセフは左手もヴィトの右手に握手させる。
「ありがとう !実はぼく弁護士になろうと思っててさ、でも父さんは外資系の企業に勤めろとうるさくて……法律関係の大学には行かせないと言っているんだ !」
「大丈夫さ、オレの方から親父さんには何とか言っておいてやるよ !」
ヴィトはジョセフの肩をポンと叩き、車へと戻っていく。

それは、二人が帰った翌日の事だった。男はいや、ジョニー・マークは自分のベットが何か赤く汚れていると感じた。
一瞬、自分はあの二人に殺されたのだろうかと考えた。だが、自分のパジャマには血が付いているものの、体の中は一切汚れていない事を確認すると、何なのだろうと、掛けていた毛布をベッドの下に弾き飛ばす。すると……。
「ウギャァァァァァァァ~!」
ジョニーは悲鳴を上げずにはいられなかった。何故なら、彼のベッドに牛の死体が入っていたからだ。

「今頃、驚いてるわね、彼」
ルーシーは車の中でコーラを飲みながら言った。
「そうだな、お前も考えるな、近くの食肉工場から、牛の首の死体を拝借しようなんて」
「そうよ、これで彼もファミリーの血の掟オメルタの事を知ったでしょうね」
ルーシーの言葉に偽りはなかった。事実、彼が家を訪ねて行った日には、彼はヴィトルーシーの要求を素直に聞いのだから。ついでにジョセフの進学もヴィトが尋ねてみたところ、アッサリと許可を出した。
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