女王陛下と護衛兵たちの日々〜ワガママ女王陛下の騎士たちは王国の独立を夢見る

アンジェロ岩井

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第二部 王国奪還

ゴッドファーザーと呼ばれた男ーその②

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ドメニコはエマから魔法の拳銃を受け取り、それとジーノに渡すお金を懐に入れ、ジーノを自分の部屋へと招き入れる。
「ありがとな、だが別にオレはお前が憎くて、金をせびってるんじゃあない事を分かってくれよ」
ジーノはドメニコから金を受け取り、部屋を跡にする。
ドメニコは無事にジーノが部屋から出ていくのを確認し、それから窓を開け、屋根伝いにジーノを尾行した。
下界のジーノが自分のアパートに入るのを見届けると、ドメニコはアパートの中に入り、部屋に入ろうとするジーノを呼び止めた。
「すいません……一ドル入れ忘れていた可能性があるので、財布を確認させていただけませんか?」
ドメニコの言葉にジーノは何の疑問も受けずに財布を手渡す。
「ありがとうございます……」
ドメニコはジーノから財布を受け取ると、ジーノを思いっきり蹴り飛ばし、いち早く魔法銃を取り出す。その銃口は真っ直ぐジーノの心臓を狙っていた。銃口から小さくて原始的な黒の塊が発射される。
その銃弾が、ジーノに直撃した瞬間に彼の体が燃え上がり、ジーノは物言わぬ灰になってしまった。
ドメニコは魔法銃を懐に仕舞い、それから同時にジーノの財布も奪い取る。ドメニコは元来た道を戻り、朝のうちには自分のアパートへと戻った。
「やったの?」
自分のアパートの部屋に戻ると、エマが微笑みながら尋ねてきた。
「やっつけたよ」
彼は簡潔に答えた。
「なら、これからの顔役はあなたね、少なくともショートアイランド・ビーチの支配者はあなたよ」
その言葉にドメニコは胸を躍らせた。

エマの言葉は嘘ではなかった。
翌日になってジーノの失踪(彼は死体がみつからなかったために行方不明とされた)により、覇権争いが行われようとしたが、そこにドメニコが名乗りを上げ、ジーノを殺した事を宣告すると、街の乱暴者とファミリーは彼を街のボスだと認めた。
彼はヴィツィオ・ファミリー配下のイタリアンギャング団を結成し、街で確実に勢力を広げていく。
相談役コンシリエーレには、ジーノ殺害のもう一人の功労者であるエマ・ロマゾワーノを置いた。
彼女はシシリー人ではなかったが、優秀な人材であり、若かったが、本当に何処かの騎士団の騎士のように戦略を考え、ドメニコとシシリー人を相談役コンシリエーレにしろという周囲の人間を黙らせた。彼女の戦略でドメニコは自らのギャング団を拡張させていき、1925年にヴィツィオ・ファミリーに独立戦争を仕掛けた時も、彼女はドメニコに的確なアドバイスを与えた。やがて、彼は街の殆どを牛耳るようになり、街の一地域であるブランドニュース・タウンをルカ・ミラノリア率いるミラノリア・ファミリーが、他の全ての地域をカヴァリエーレ・ファミリーが牛耳った。
彼のやり方はかつての街のボスであった。ドン・クリミーネのやり方を真似しないように、彼は別の地域のマフィアやギャングたちに倣い、カタギには手を出さない事、麻薬やその他の汚い犯罪で金を稼ぐ事を禁止した。事実彼の村には麻薬が蔓延しており、ディアボロ・クリミーネはその金で儲けていたから……。


やがて、ドメニコは1930年にイタリア人の美しい黒髪を備えた愛嬌の良い女性と結婚した。その事実は彼とエマ・ロマゾワーノとの仲を知る周囲を驚愕させた。
「ドン・カヴァリエーレ !一つお聞きしたいのですが、あなたは何故相談役コンシリエーレと契りを交わさなかったのですか?」
尋ねたのは、部下の一人であった。その問いに対し、ドメニコは口元を一文字に歪めた答えた。
「私は彼女は大好きだよ、だけどね、彼女のからは振られてしまったんだ……だから、彼女とは良い友人であり、良い相談役コンシリエーレ首領ドン……それでいいんだよ」
ボスであり、地元では尊敬の念を込められてゴッドファーザーと呼ばれているドメニコに彼はそれ以上何も聞けなかった。

1932年に彼女は妻であるミカエラとの間に女の子を設けた。
女の子の名前はドメニコはカリーナという名前を押し、母親はアメリカ風にルーシーと名付ける事を提案した。結局どちらも採用し、彼女の名前は"カリーナ"・ルーシー・カヴァリエーレとなった。
彼女は赤ん坊の頃から、美しいと周囲では評判であり、ドメニコも親の贔屓目なしに見ても、美しい子である事は認めざるを得ない。
成長していくにつれ、ミカエラは専門の家庭教師を雇ったり、自分の経験生かしたりして、娘に"良きお嫁さん"になれるように教育を施す事にした。ルーシーは物覚えの良い子であり、料理や裁縫それに礼儀作法などを次々と飲み込んでいく。
ドメニコが自分の娘の異変に気が付いたのは、彼女が第二次性徴期を過ぎたあたりからだった。彼女は父親の後をついて回るようになり、家を訪れるドメニコの部下に色々と聞くようになったのだ。もしや……と、ドメニコがルーシーを問い詰めると、ルーシーは自分が後釜に坐ることを言ってのけた。
ドメニコはルーシーの提案に反対した。お前には無理だと。
「なら、わたしに一つだけ仕事を与えてちょうだい……それでわたしができるかできないかを判断してちょうだい」
ルーシーの言葉にドメニコは試してみたくもなり、組合の程度の低い問題の解決を彼女に問う。
すると、ルーシーは即座に完璧な答えを言い、実際にドメニコが部下にそのようにしろと命令すると、その問題はアッサリと解決したのだ。
ドメニコはその鮮やかな出来栄えに感動し、それからは"良いお嫁さん"になるための修行を辞めさせ、代わりに自分の後釜を坐れるようにマフィアのドンとしてイロハを教え込む。
その途中で、彼は一人の男を連れてきた。男の名前はヴィト・プロテッツオーネといい、ファミリーが管理するキャンドレア・カナベル港に住んでおり、彼はイタリア系の男であり、父親を戦争で亡くし、今は母親と二人で暮らしているらしい。
「キミは娘の役に立つらしいが、本当かね?」
「本当よ、彼と共同で港の組合問題を片付けているのよ、彼は本当に優秀なのよ」
ルーシーの言葉と男の虎のように野生に飢えた目を見るに、それは本当だろう。
「では、キミに娘を任せよう」
ヴィトはそれを聞くと、無言でドメニコの手の甲に中世の口づけを交わした。
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