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第二部 王国奪還

麻薬王との戦いーその⑤

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トーマスはヴィトを蹴り飛ばし、外へと飛び出すやいなや、外で子分が全滅しているのを確認した。
「くっ、全滅かッ!クソッ!」
トーマスは忌々しく吐き捨てると、何か脱出に使えそうなものはないかと辺りを見渡す。そして……。
「ありやぁ、ファミリーの奴らがお世話しているというお姫様じゃあねぇか」
マリアだ。彼女は部屋にいた。トーマスは彼女がいれば、ヴィトやルーシーが手を出せないと考え、彼女の姿が見えるやいなや、部屋の窓ガラスを破り侵入した。
「お邪魔するぜ、お姫様……あんたの臣下が少しオレに対して無礼な態度ばかり取るんでね……あんたがいりゃあヴィトの小僧は手出しができん筈だ……」
トーマスはマリアを誘拐すると、部屋の窓ガラスを割り、出口へと向かって駆け出していく。
「へっへっ、ここまで来れば、ヴィトの奴は手を出せんだろ……」
トーマスは門の辺りにまで来て、ヴィトが来ないのを確かめ、固く閉ざされた門に剣の攻撃を当てようとした時に……。
拳銃の弾がトーマスの目の前に当たる。
「追い付いて来たのか……」
トーマスは苦虫をすり潰すように歯をギリギリと動かしていていた。
「……お前への警告はこの一度だけだ……もし、お前がこの警告に従わない場合は撃ち殺すからな」
ヴィトはあの場所から拾ってきたのか、45口径のオート拳銃を右手に構えながら言った。
「おいおい、オレを殺すだって?」
彼はおどけるように右手を曲げてみせた。
「お前がそんな事をすれば、お前のお姫様の命は無いんだぜ……そんな事はできんよな……」
トーマスは右手の剣の矛先を左手に拘束され、身動きが取れないマリアの顔に向ける。
「ヴィト !撃ちなさい !わたしは曲がりなりにもフランソワ王国の女王よ !こんな下賤の者に手を下されて死ぬのなんて、真っ平御免だわ !!」
マリアは声を震わせている。怖いのだろうか、冷や汗を流し、唇をギュッと噛み締めている。だが、それでも彼女はその思いを口には出さない。それが、彼女の女王としてのプライドなのだろう。
「テメェ !黙りやがれッ!」
トーマスは怒鳴りつけたが、マリアは主張を覆すことはなかった。
「ヴィト !早くわたしもろともコイツを撃ち殺しなさいッ!」
マリアは女王らしく凛とした表情で命令したが、ヴィトは首を縦に降ることはなかった。
「女王陛下……その命令は聞けませんぜ」
マリアはヴィトの言葉に呆気に取られていたが、次の言葉により、マリアは目を輝かせた。
「あんたを救い、反逆者を打ち倒せと命令していただけなければ、オレは動けませんぜ……」
ヴィトは口元を一文字に歪めながら言った。
「へん、不可能だぜッ!この状況でマリアを救い、オレを殺すだって!?不可能に決まってんだろッ!頭か心臓を狙うにしても、マリアの体が邪魔している状況なんだからよぉ~お前に女王陛下を救うことなんて不可能なんだよ、夢物語だッ!」
トーマスは心底愉快でしょうがないとばかりの笑みを浮かべていたが、ヴィトは動ずることなく拳銃をトーマスに向けていた。
「いいや、オレ達ギャングの世界じゃあ『できる、できないじゃあない、やるか、やらないか』さッ!今のとやらには理解できない言葉なのか?」
ヴィトの言葉は明らかに挑発する言葉だった。そして、その言葉により、彼の眉間のシワは一箇所に寄せられてしまう。
「いいだろうよぉ~新しい時代のギャングの底力を見せたやるよッ!」
トーマスはマリアに剣を突き刺そうとした。だが、その時に自身の左脚に何とも言えない激痛が走った。何が起こったんだとトーマスが剣を落とし、正面を見つめると、そこにはヴィトが拳銃を発砲していた。
(そうか、アイツッ!ワザとオレを挑発したんだなッ!オレの意識がヴィト
から、人質マリアに変わるのを見届けて……)
トーマスがバランスを崩すやいなや、トーマスはマリアを逃してしまう。
「あっ、クソッ!」
トーマスはマリアを逃してしまった事を悔やみ、追いかけようとしたのだが、すぐ側の地面に拳銃が発砲された。
「オレの愛銃だが、撃っている間に発射した回数を忘れちまうのが、オレの悪いところなんだよ、オートは十七発撃てたと思うが……お前は数を覚えているか?」
トーマスはこれがヴィトの最後の警告だという事を察した。
自分がこのまま動かなければ、何もしないが、もし動けば弾が飛んでくるかもしれないという事を表しているのだと。
同時に彼はこれを賭けだとも思った。もし、ヴィトの拳銃の銃槍に弾が無ければ、自分は反撃のチャンスを与えられたも同然だ。トーマスは弾は無いと判断し、剣に手を伸ばそうとする。
と、同時にトーマスの心臓を一発の銃弾が貫く。トーマスは賭けに負けたのだと悟り、その場に倒れた。

「ヴィト !!遅かったわよ !!!あんた何やってたのよ !!」
マリアは言葉こそ、棘があったものの、ヴィトは宥めるように優しくマリアの髪を撫でた。
「すまん、すまん……奴を戦っている間に逃してしまってな、まさかキミを狙うとは思わなかった」
マリアは「遅いわよ、バカ」とヴィトの胸元で泣き出した。
「すまんな、でもキミが無事で良かったよ」
ヴィトの優しい声にマリアは胸元で泣き出した。この年の少女としては当然の心境だろう。カルロとは違い、トーマスは本当に殺す気すらあったのだ。この年齢の子で怯えない方がおかしいだろう。ヴィトは泣いている間はずっと頭を撫でていた。
やがて……。
「泣き疲れて寝たのか、まぁ、今日はオレが悪かったよ、明日はチャンネル権を譲るし、好きなものを一つ作ってやるよ、それにひと段落したら、何処にだって連れて行くさ……」
ヴィトは申し訳なさそうに視線を落としながら、いわゆるお姫様抱っこでマリアを被害の少ないルーシーの部屋へと運ぼうとした時だった。プイスがヴィトに近づき、大声で怒鳴りつける。
「お主 !姫様を危険な目に遭わせてるとは、それでも騎士かッ!?この無能者めッ!」
「悪かったよ、姫様を危険な目に遭わせちまったよ、本当に申し訳ないッ!」
ヴィトは頭を深く下げた。プイスは彼の謝罪が偽りのものではない事を確認すると、頭を上げる事を許可した。
「ヴィト !また無茶して……」
「オレは大丈夫だが……それより部屋を貸してもらえるか?マリアを寝そべらせたいんだ……」
ルーシーは快く承諾した。ヴィトはありがとうの目配せをし、屋敷の中へと戻って行く。
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