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第二部 王国奪還
迷惑な来訪者
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ルーシーはその晩は一日の激務と、ヴィトが拾ってきた老人の相手とで、その日はもう眠りにつきたかった。だが、それは不可能だろう。たった今自分の家のチャイムが鳴り響いたのだから。
「ドン・カヴァリエーレ !!お聞きになりましたか!?全くこんな夜遅くだってのに失礼な野郎だ……ここを誰の屋敷だと心得てんだ」
入ってくるなり、悪態を吐いたのは、門で門番を務めているマイケル・ヤングであった。
「辞めなさいよ、その人だってわたしを頼ってきたんでしょう?こんな晩に折角来たのに追い返すのも無礼じゃなくて?」
ルーシーの問いにマイケルはたじろいでいたが、しょうがないとばかりにため息を吐き、来客を迎え入れるために門を開けに行く。
「何があったんだ?」
リビングルームの外の廊下から顔を覗かせたのは、夜食を用意していたヴィトだった。手に持っているのはお皿に乗った簡単なミートパスタ。恐らくルーシーのために作ったのだろう。その端正な顔をニッコリと歪めている。
「来客よ、今日は厄日ね、朝からあなたは居なくなるし、帰って来たら、変な老人を連れてくるし……あなたに手伝ってもらって、書類を仕上げ終えたら、午前様で、寝ようと思ったら、急な来客……」
ルーシーは困ったように頭を抱える。
「どうするのよ !明日は遅く起きるからね !」
ルーシーの怒りはごもっともだなとヴィトは苦笑する。彼女の機嫌を直すために夜食を作ったのはいいが、それだけでは収まりそうにない。
「分かったよ、今晩の来客はおれが相手するし、明日の午前中の激務はオレがやっとくから、お前は夜食食って寝ろよ」
ヴィトの提案にルーシーは納得しかねているようで、鬱々としている。
「そんな訳にもいかないわ、今マイクが迎えに行ってるから、会うわよ」
ヴィトはマイクというマイケルの愛称を久しぶりに聞き、くっくっと笑う。
「久しぶりに聞いたな、それ」
「言いたくなったのよ、それよりもあなた料理作るからって、スーツを脱いだままじゃあない、着替え直してきたら?」
ルーシーは纏めた書類をトントンと机に叩きながら言った。
「そうだな」
ヴィトは自分の今の格好を見直す、白色のワイシャツとズボンというシンプルな格好である。この格好は来客を迎えるのに相応しくないだろう。
「早く行きなさいよ、青色の背広でも緑色の背広でもなんでもいいから、正装した方がいいわ」
ヴィトは慌てて自分の部屋へと駆け上がった。その様子を見てルーシーは思わず叫ぶ。
「ヴィト !あのお爺さんを起こさないようにね !」
ヴィトは心の中で一番うるさいのはキミだろ?と突っ込まずにはいられなかった。
来客は女性であった。それもルーシー同様に漆黒の黒い髪をたなびかせ、スラリとした細身の美女で、彼女は重いボストンバッグを下げやって来たのだ。
「ようこそ、わたしがルーシー・カヴァリエーレです」
ルーシーは自己紹介したのだが、女性は自分は名乗らずに無言でルーシーの手を握るのみであった。
「さて、ご用件は?」
だが、ルーシーはその様子を咎めるつもりもなく、リビングルームの自分の向かい側のソファーに腰を下ろすように勧めた。女性は言葉に甘え、ソファーに座ると、ボストンバッグをソファーの下に置く。
「ありがとうございます……実は一つあなたにしかできない相談がございますの」
女性はソファーの背もたれにも、もたれずに依然緊張した態度のまま、一枚の写真を懐から取り出す。
「これは?」
ルーシーは写真に写っている男のついて尋ねてみる。女性はしばらくの間無言であったが、ようやく重い口を開く。
「これは私の街を……サウス・スターアイランドシティーを牛耳るボスです」
女性は肩を震わせながら、半ば叫ぶように言った。
「もしかして、マーニーを?トーマス・マーニーを殺せと仰るのですか?」
女性は顔に涙を浮かばせながら首を頷かせる。
「……即答しかねる答えです」
ルーシーは自身の黒髪をいじりながら呟く。
「そんなッ!お願いします !この男を殺して下さいッ!あなたは街の住人たちから頼りにされていると聞きました !ですから、わたしはあなたを尋ねれれば、トーマスをこの世から消せると……」
「わたし達を殺し屋か何かと勘違いしてるんですか?」
ルーシーは彼女が最後まで言う前に重なるように自分の意見をぶつけた。
「失礼な言い方かもしれませんが、わたしはこの街のボスです。ファミリーの構成員たちの命はもちろん街の住人たちの命も預かる身なんです……そのわたしに別の街に介入して、新たな戦争を起こさせようと?」
ルーシーは冷たい視線を女性に浴びせる。
「お礼は……お礼は幾らでもいたします !」
女性は涙を浮かべ、立ち上がって叫んだのだが、彼女には効果があまりないようで……。
「わたしは何をすれば、初対面のあなたにそんな軽く見られるの?」
ルーシーはあくまでも冷徹な態度に徹したままであった。
「今わたしの手元には30万ドルあります !これはわたしの全財産です !お願いです……トーマスを殺して下さい !」
女性は慌てて、バッグを開け、中身の大金を見せたのだが、ルーシーは依然として微動だにしない。
「……本当に分からないわ、突然夜中にやって来て金を出すから、別の組織のボスを殺せと言う……名前も名乗らない、理由も言わない……」
ルーシーは呆れたようにワザとソファーの背もたれにドシンと体を預けた。
「理由は……理由はあります !」
女性はボストンバッグの底からもう一枚の壮年の優しそうな男の写真を取り出す。
ルーシーはその写真に思わず目を丸くする。
「分かっているでしょう?わたしの父サルバトーレ・バルダートです !!」
サルバトーレ・バルダート。かつてサウス・スターアイランドシティーのボスであり、彼女の父とも交友があり、麻薬や他のいかがわしい商売を嫌う昔ながらのマフィアであった。
「あなたはもしかして……」
ルーシーは震える手で指を指す。
「そうです。サルバトーレ・バルダートの娘であり、彼の妻であるジェシカ・マーニーです」
女性いや、ジェシカは涙声で大きく自分の名前を叫んだ。
「ドン・カヴァリエーレ !!お聞きになりましたか!?全くこんな夜遅くだってのに失礼な野郎だ……ここを誰の屋敷だと心得てんだ」
入ってくるなり、悪態を吐いたのは、門で門番を務めているマイケル・ヤングであった。
「辞めなさいよ、その人だってわたしを頼ってきたんでしょう?こんな晩に折角来たのに追い返すのも無礼じゃなくて?」
ルーシーの問いにマイケルはたじろいでいたが、しょうがないとばかりにため息を吐き、来客を迎え入れるために門を開けに行く。
「何があったんだ?」
リビングルームの外の廊下から顔を覗かせたのは、夜食を用意していたヴィトだった。手に持っているのはお皿に乗った簡単なミートパスタ。恐らくルーシーのために作ったのだろう。その端正な顔をニッコリと歪めている。
「来客よ、今日は厄日ね、朝からあなたは居なくなるし、帰って来たら、変な老人を連れてくるし……あなたに手伝ってもらって、書類を仕上げ終えたら、午前様で、寝ようと思ったら、急な来客……」
ルーシーは困ったように頭を抱える。
「どうするのよ !明日は遅く起きるからね !」
ルーシーの怒りはごもっともだなとヴィトは苦笑する。彼女の機嫌を直すために夜食を作ったのはいいが、それだけでは収まりそうにない。
「分かったよ、今晩の来客はおれが相手するし、明日の午前中の激務はオレがやっとくから、お前は夜食食って寝ろよ」
ヴィトの提案にルーシーは納得しかねているようで、鬱々としている。
「そんな訳にもいかないわ、今マイクが迎えに行ってるから、会うわよ」
ヴィトはマイクというマイケルの愛称を久しぶりに聞き、くっくっと笑う。
「久しぶりに聞いたな、それ」
「言いたくなったのよ、それよりもあなた料理作るからって、スーツを脱いだままじゃあない、着替え直してきたら?」
ルーシーは纏めた書類をトントンと机に叩きながら言った。
「そうだな」
ヴィトは自分の今の格好を見直す、白色のワイシャツとズボンというシンプルな格好である。この格好は来客を迎えるのに相応しくないだろう。
「早く行きなさいよ、青色の背広でも緑色の背広でもなんでもいいから、正装した方がいいわ」
ヴィトは慌てて自分の部屋へと駆け上がった。その様子を見てルーシーは思わず叫ぶ。
「ヴィト !あのお爺さんを起こさないようにね !」
ヴィトは心の中で一番うるさいのはキミだろ?と突っ込まずにはいられなかった。
来客は女性であった。それもルーシー同様に漆黒の黒い髪をたなびかせ、スラリとした細身の美女で、彼女は重いボストンバッグを下げやって来たのだ。
「ようこそ、わたしがルーシー・カヴァリエーレです」
ルーシーは自己紹介したのだが、女性は自分は名乗らずに無言でルーシーの手を握るのみであった。
「さて、ご用件は?」
だが、ルーシーはその様子を咎めるつもりもなく、リビングルームの自分の向かい側のソファーに腰を下ろすように勧めた。女性は言葉に甘え、ソファーに座ると、ボストンバッグをソファーの下に置く。
「ありがとうございます……実は一つあなたにしかできない相談がございますの」
女性はソファーの背もたれにも、もたれずに依然緊張した態度のまま、一枚の写真を懐から取り出す。
「これは?」
ルーシーは写真に写っている男のついて尋ねてみる。女性はしばらくの間無言であったが、ようやく重い口を開く。
「これは私の街を……サウス・スターアイランドシティーを牛耳るボスです」
女性は肩を震わせながら、半ば叫ぶように言った。
「もしかして、マーニーを?トーマス・マーニーを殺せと仰るのですか?」
女性は顔に涙を浮かばせながら首を頷かせる。
「……即答しかねる答えです」
ルーシーは自身の黒髪をいじりながら呟く。
「そんなッ!お願いします !この男を殺して下さいッ!あなたは街の住人たちから頼りにされていると聞きました !ですから、わたしはあなたを尋ねれれば、トーマスをこの世から消せると……」
「わたし達を殺し屋か何かと勘違いしてるんですか?」
ルーシーは彼女が最後まで言う前に重なるように自分の意見をぶつけた。
「失礼な言い方かもしれませんが、わたしはこの街のボスです。ファミリーの構成員たちの命はもちろん街の住人たちの命も預かる身なんです……そのわたしに別の街に介入して、新たな戦争を起こさせようと?」
ルーシーは冷たい視線を女性に浴びせる。
「お礼は……お礼は幾らでもいたします !」
女性は涙を浮かべ、立ち上がって叫んだのだが、彼女には効果があまりないようで……。
「わたしは何をすれば、初対面のあなたにそんな軽く見られるの?」
ルーシーはあくまでも冷徹な態度に徹したままであった。
「今わたしの手元には30万ドルあります !これはわたしの全財産です !お願いです……トーマスを殺して下さい !」
女性は慌てて、バッグを開け、中身の大金を見せたのだが、ルーシーは依然として微動だにしない。
「……本当に分からないわ、突然夜中にやって来て金を出すから、別の組織のボスを殺せと言う……名前も名乗らない、理由も言わない……」
ルーシーは呆れたようにワザとソファーの背もたれにドシンと体を預けた。
「理由は……理由はあります !」
女性はボストンバッグの底からもう一枚の壮年の優しそうな男の写真を取り出す。
ルーシーはその写真に思わず目を丸くする。
「分かっているでしょう?わたしの父サルバトーレ・バルダートです !!」
サルバトーレ・バルダート。かつてサウス・スターアイランドシティーのボスであり、彼女の父とも交友があり、麻薬や他のいかがわしい商売を嫌う昔ながらのマフィアであった。
「あなたはもしかして……」
ルーシーは震える手で指を指す。
「そうです。サルバトーレ・バルダートの娘であり、彼の妻であるジェシカ・マーニーです」
女性いや、ジェシカは涙声で大きく自分の名前を叫んだ。
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