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第三十一話 天文台の決戦ーその①

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「失礼するよ」
そう言ってヴィトの部屋に脚を踏み入れたのは、部下の一人であるマルロであった。
「どうしたんだよ、マルロ」
ヴィトは椅子に座りながら読んでいた新聞から目を離し、マルロの目に向き合う。
「ルカの野郎が完全に追い詰められてやがる。何でも街の外れの情報屋から仕入れた情報によると、ルカはコミッションの奴らを怒らせてしまったらしくてよぉ~ビビって天文台に立て籠もったらしいぜ」
「天文台、街外れの寂れた?」
ヴィトの問いにマルロは黙って首を縦に振る。
「成る程……あそこがルカのというわけか……」
ヴィトは口元を一文字に歪めながら言う。
「しかもよぉ~天文台に篭った理由はそれだけじゃあなくて、何でも近々この抗争を聞きつけたFBIの連中がルカをマークしたらしい、州軍相手にも持ちこたえれる建物に籠城してんじゃあないのかな」
マルロはヴィトに俺の予想は確実に当たっているんだぜとばかりにウィンクする。
「分かった。お前はウチの構成員を集めてくれ、これからカヴァリエーレ・ファミリーは天文台に総攻撃を仕掛ける」
ヴィトは相談役コンシリエーレとしての冷静な顔を見せ、マルロに命令する。
「分かったよ、だがな、ドンルーシーの許可は取れたのかい?」
「さっき取ったばかりさ、確か戦いの前に一服やりたい、おれの棚にキューバ産の上等の葉巻があったはずだ……取ってくれないか?」
ヴィトの言葉に従い、マルロは棚の最上段にある小さな箱をヴィトに手渡す。
ヴィトは箱を受け取ると、葉巻を一本取り出し、ゆっくりとそれを味わった。
「うまい、やはりタバコや葉巻はキューバ産に限る」
「お前な、キューバ産ばかり絶賛するけどな、他の地域の葉巻やタバコも吸ってみたらどうだ?ペルー産とかな」
「何故、おれが他の地域のタバコや葉巻を吸わなくちゃあならないんだ」
ヴィトの問いかけにマルロはニヤニヤと笑いながら言った。
「だってよぉ~将来キューバで革命でも起きてみろよ、一気にキューバ産の物は値上がりするぜ」
と、マルロは冗談めかして言ったつもりだったが、ヴィトは深刻そうな顔つきで葉巻を見つめる。
「否定はしない、今はアメリカ資本主義ソビエト共産主義が争っている時代だからな、いずれキューバやらハバナやらペルーにもその流れが蔓延して、親米政権を倒しかねない」
マルロは思ったより深刻な顔つきのヴィトに困惑し、頭の後ろをポリポリとかくばかりだった。
「そんな本気で答えなくても……それよりお前の女王様はどうする気だ?」
ヴィトは再び葉巻をくわえ、煙を細目で見つめながら答える。
「オレとしては置いていきたいのだが、一緒にいれば、何か勇気が湧いてくるんだ……"絶対に守らなくちゃあいけない"そんな気持ちがあるからな」
その言葉を聞いた瞬間にマルロは満面の笑みで尋ねる。
「もしかしてお前惚れてるの?」
「そっ、そんなわけないだろッ!ただあの子が後ろにいると、どんな敵だろうが、倒せる気になれるんだ」
ヴィトはゴホゴホと空咳を発して叫んだが、マルロは相変わらず笑みを浮かべたままだった。
「とにかく連れて行くか行かないかはお前が決めな……オレは他の奴らに声をかけるからな」
マルロは優しい微笑を浮かべながら、ヴィトの部屋を跡にする。そんなマルロをヴィトは横目で眺めていた。

ルカ・ミラノリアの立て籠もる天文台へとカヴァリエーレの構成員を乗せた車は向かって行く。
その先頭の車。ヴィトとルーシーそれから、マリアを乗せた黒のキャラデイックで話し合いが行われていた。
「つまり、マリア、お前は……だな、この車の中でオレを待っていててくれ」
「どうしてなのよ!?」
マリアは金切り声を上げて抗議する。
「頼むよ、お前が背後にいれば、安心して敵を討つことができるんだ……つまり、あんたは本陣にいて敵を倒すのを待つ役目だよ、実際の戦争でも女王様は戦闘に出ないだろ?」
ヴィトは言い分にマリアは納得したようで、口元を閉じて黙る。
ヴィトは「助かるよ」と感謝の言葉を述べた後にルーシーに一緒に来るように伝えた。
「ルーシー。お前はオレと来てくれ、ルカを撃ち殺す時にあんたが支援したくれれば、助かるんだ」
ルーシーはベレッタの弾倉を込めながら頷く。
「まず、オレとあんたと数十人の部隊が自ら囮になり、正面に突っ込む、それから手下が天文台を包囲する……ある程度敵の戦力を二人で暴れて削った後に合図を出して一斉攻撃を仕掛ける」
ヴィトの作戦にルーシーは分かったの合図を込める。
そして車から出ようとした時だった。マリアにスーツの上に着ている緑のコートの袖を掴まれる。
「どうした?」
「ねぇ、平民いや、ヴィト……必ず反逆者を倒してね、それから……」
マリアは恥ずかしそうにモジモジと袖を掴んでいない左手を動かしながら言った。
「ぜっ、絶対に死ぬなんて許さないんだからねッ!ルーシーあんたもよッ!」
そう手を震わせながら言うマリアの髪を優しく撫で、ヴィトは笑顔で短く「キチンと帰るよ」と呟く。
「大丈夫よ、ヴィトは私が守るから」
ルーシーはマリアに挑発するようにだが、優しい声で囁くように言った。
「うっ、うん……それがあんたの役目だもんね !いい、絶対にヴィトを守るのよッ!」
ルーシーはハイハイと安心させるように言った。
二人が武器を取り出して出かける様子を見ながらマリアは運転手のみが残った車内で一人で呟く。
「二人ともキチンと帰ってきなさいよ、まだバーベキューってやつをしてないんだから、絶対に帰ってきなさいよ」
「やっぱり、あんた惚れてれんだろ?」
と、涙目で呟くマリアに声をかけたのは、運転手をしているマルロだった。
「あっ、あんた誰なの!?」
「オレか?オレはヴィトの友達だよ、そんな迷える子羊ちゃんにアドバイスだよ、二人が帰ってきたら、あんたの手料理を振る舞ってやりな、戦いの後の戦士の胃袋を掴めれば、きっと振り向くこと間違いないぜ !」
親指を上げて叫ぶマルロにマリアは顔を赤くしながら「うるさい」と呟く。
マルロは「もうちょっと素直になれよ」と言いかけたが、今は黙って見守ってやることにした。
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