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第二十七話 魔女の襲撃ーその④

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メアリーはヴィトが動揺している姿を見逃さなかった。
「うふふふふふふ、あなたは勝てないわよ、わたしの呪術はあなたを捉えたの……以前にね、わたしはアフリカのある村でダムを開発しようとした男をこの魔術で殺したの……」
メアリーはそう言うと、再び何か唱え始めた。すると白い煙が出現し、ヴィトの目の前にアフリカライオンが現れたのだ。
「ライオンか……」
「そうよ、わたしもそろそろ自分の槍であなたを突くのも疲れたから、この子に始末してもらう事にしたわ」
メアリーが何か手を動かすと、途端にライオンがヴィトの目の前に迫る。まるでサーカスにいるライオンが鞭を持ったピエロに操られるように……。
「クソッ!」
ヴィトは目の前に迫るライオンに剣を立てる。ライオンはヴィトに向かって大きく口を開けたが、それはライオンの歯と歯の間に剣を突き立てる。
ライオンの食欲の象徴である涎がヴィトにも垂れそうなくらいにヴィトとライオンの距離は近かった。
「ぐっ、貴様これで何人の人を殺したんだ?」
ライオンを抑えながら、問うヴィトに対し、メアリーは微笑みながら素っ気なく言う。
「あなたは今までに割った卵の数を覚えているのかしら?」
その言葉にヴィトは青筋を立てた。
と、まではいかないにしても、かなり憤怒したのは間違いない。ヴィトはこんな楽しみながら人を殺す奴が嫌いだったから。
「なら、今度はオレがお前を割れた卵にしてやるぜッ!覚えときな、今日お前は……」
その瞬間にヴィトの剣が黄金のオーラに包まれた。
ライオンの鋭い歯は一瞬のうちに砕かれた。
(なっ、何が起こったの……まさか、彼が怒ることで何かしらの変貌があるとでもいうのかしら?あり得ないわ、少なくともわたしの石槍に勝てるわけがないわッ!)
メアリーは石槍を再びゴムのように伸ばして、ヴィトの剣に自分の石槍の先端を伸ばす。
剣と石槍の先端との間に凄まじい音が響く。
(信じられないわ、遠く伸ばした筈よ、それなのにわたしの手にまで響いたという訳なの?)
メアリーは一旦槍を自分の手元へと戻す。
ヴィトはそんなメアリーに容赦することもなく詰め寄っていく。
「さてと……この剣はどうやらオレに力を与えてくれているらしい、お前を始末してウチのファミリーはブランドニュースタウンを手に入れる」
ヴィトは剣を構えながら、ジリジリとメアリーとの距離を詰める。
「……あなたはもう、終わりなのッ!」
メアリーは次の瞬間に煙幕弾のようなものを空中に発射した。
すると、どうだろう。屋敷のあちこちから、銃声が聞こえたのだ。
「なっ、どういう事だ!?」
「あなたも分かるでしょう?わたしがあんな少ない人数で攻め込んだとでも思うの?本当はかなりの数を屋敷の周囲を覆わせていたのよ」
ヴィトはすぐさま銃声のした方向に駆け寄ろうとしたが、メアリーはそれを逃さない。
石槍を伸ばし、ヴィトの足を攻撃する。
ヴィトはその攻撃を咄嗟に転ぶという選択肢を取り、交わしたが、それによりバランスを崩してしまった事は避けられなかった。
「うっ、ぐっ……」
呻き声を上げながらも、ヴィトは起き上がろうとするが、メアリーは冷静にヴィトへと詰め寄る。
「形成逆転と言ったところかしらね?カヴァリエーレ・ファミリーは壊滅よ、わたしの別働隊がルーシーを殺し、わたしが単独であなたを殺す……完璧ね」
ヴィトは必死な形相でメアリーを睨みつけた。

"カリーナ"・ルーシー・カヴァリエーレは自身の相談役コンシリエーレであるヴィト・プラテッツイオーネに起こされ、その後マリアを寄せ、ファミリーの構成員を纏めるように指示された。
『どういう事なの!?』
ルーシーは黒のネクジェという姿のままでヴィトに詰め寄る。
『この屋敷が襲撃されているという可能性さ』
そんな事を言うヴィトはいつも以上に深刻な顔だったので、ルーシーは馬鹿馬鹿しいと一蹴する事もできなかった。
『分かったわ、私がマリアを保護してそれから、ファミリーを纏めればいいのね』
『その通りだ……それから、屋敷を包囲している可能性もあるんだ……』
『根拠はあるの?』
ルーシーは眉をしかめながら尋ねる。
『あるさ、ハンニバルの包囲殲滅作戦は知っているだろ?』
ルーシーは首を縦に振る。
『仮に敵を完璧に倒すのなら、確実に勝てる戦法を使うはずさ、先人に習ってな……』
『分かったわ、わたし包囲殲滅戦に対抗すればいいのね』
『そうだ。と言っても奴らとは平原で戦う訳じゃあない、奴らは恐らく塀を乗り越えてくるはずだ……』
ヴィトは"答えは分かっているな?"という目でルーシーを見つめる。
『ええ、分かっているわ』
ルーシーは一旦部屋に入り、それからベッドのサイドテーブルから愛用のベレッタ拳銃を取り出し、その弾倉に弾を込めた。
『よし、オレは庭にいると思われる敵の殲滅に行くから、後は頼んだぜ』
ヴィトは二本の指を頭上で振る。ルーシーもそれに答えてウィンクした。
その後ルーシーは構成員たちに呼びかけ、急いで武装するように叫ぶ。

メアリーは銃の音と男たちの悲鳴の声が聞こえるたびに耳をすませた。
やはり、敵の組織が倒されるのはいい気分だ。自分と少数の部隊が囮になり、後は多数の別働隊が辺りを取り囲む。
メアリーはこれを完璧な作戦だといつも自負していた。インディアンやダムの会社を壊滅させた時もよくこの手口を使った。
メアリーはこの作戦に絶対の自信を持っていたのだ。だからこそ背後を気にせずにヴィトへと近づけたのだ。
「うふふふ、終わりだわ、サヨナラね、勇敢な相談役コンシリエーレさん」
「いいや、終わるのはキミの方だぜ、背後に目を向けた方がいい」
ヴィトは先程までの絶望の表情を引っ込め、反対に輝かんばかりの目をメアリーに向けた。
「なんだっていうの……」
メアリーが背後を振り向くと、そこには自分の傷ついた腹心と部下がカヴァリエーレの構成員に捉えられていたのだ。
「なっ、失敗したの!?」
「そうだ、さっきまでのオレの表情や行動はというわけさ、オレもハリウッドスターになれるかもな」
ヴィトの渾身の冗談はメアリーには伝わっていないようだった。
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