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第十九話 ゴールデンストリートウォーズーその③

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ヴィトの隠れているテーブルに無数の弾丸が発射される。テーブルの真っ白なミルクのようなテーブルカバーは今や、殆どの箇所に生々しく黒い穴が空いていた。テーブルは先ほどのダメージも加わり、いくらか分厚い木を弾が破ったのは、フランクから見てもわかる。
「よし、撃ち方やめェ!」
フランクは部下に撃つのをやめされる。そしてもう弾は込めなくて良いと指示を出す。
無論、あの状態でヴィトが生きているなどと夢にも思わないからだ。
「さてと……ミラノリアをここまで追い詰めた男の死体を確認しておくか……」
フランクは一歩一歩足を鳴らしながら近づく。もし、ヴィトが生きていたら、自分の手で仕留めてやろうという衝動があったからだ。
さてと、ここだッ!」
フランクがテーブルを覗いた時だった。不意に自分の顔に衝撃が走ったのに気がついたのだ。
フランクは一瞬自分に何が起こったのかを理解できなかったが、次の瞬間に黒いモーニングコートを身につけた男の凄まじい顔を見た瞬間に何が起こったのかを悟った。
「うっ、ぐっ……」
フランクは殴られた衝動により、足をフラフラと揺らす。その瞬間に自分の腹の空気が抜けるのを感じた。その凄まじい衝撃にフランクはお腹を抑え、その場に倒れる。
「くっ、逃すなッ!」
フランクはそう命令したが、さっきフランク自身が、弾込めはしなくていいという命令を下したばかりだったのを思い出し、絶句する。
次に轟音が部屋に響く、床に構成員の数人が倒れるのが確認できた。そして男が構成員の一人のものであったトンプソン機関銃を奪うのも確認できた。
すると次に、ドアの側に立っていた男が倒された。
男はそのままドアをガチャリと閉め、そのまま目の前から姿を消した。
「逃げる気か……」
だが、フランクはそれは違うと悟った。逃げるのなら、正面の玄関という一番近い逃げ道があるのだ。何もドアを閉めて、ワザワザホテルに深入りすることはない。
「と、すると……」
フランクは顎を人差し指で撫で、別の可能性に思考を向ける。
「そうかッ!向こうの方に何かあるに違いないッ!」
フランクはセルマを大急ぎで呼ぶ。
「おい、合鍵はあるか!?」
「ないわ、わたしはホテルの支配人じゃあないもの」
フランクは舌打ちをすると、大急ぎでドアに発砲するように命令した。

ヴィトは逃げられ、うまい具合に防御魔法ガードマジックを使え、機関銃を奪えたのは、本当に幸いだと思った。
次にこの部屋を通り抜けた後にトイレと出れるはずだろうと、この無機質なソファーとそこそこ年季が入った大理石の長机と赤い高級なカーテンしかない部屋から出ようとした、次の瞬間に。
「おいおい、嘘だろッ!カギがかかっていやがるッ!」
ヴィトはこの部屋のドアにカギをかけた人間を心底恨んだ。
(普通に考えて、トイレへと出る部屋にカギをかけるか?廊下へ出る部屋にカギをかけたアホンダラは誰だよッ!)
ヴィトはそうこうしているうちに、ドアの外の音が大きくなっていくのが聞こえてくるのに気がつく。
「マズイな、あのままじゃ奴らが強行突破をするのも時間の問題だぜ」
ヴィトが周りを見渡していると、ヘアピンが落ちているのに気がつく。恐らくセルマが、さっきの休憩時間にここで休んだのだろう。
これは幸いだとばかりに、ヴィトはヘアピンを利用し、施錠されているドアの鍵穴にそれを突っ込む。
ガチャガチャとヘアピンで鍵穴を突っ込む姿をマリアやルーシーに見せたくないものだ。そう考えながら、ドアの扉を開けようと試みる。
「頼む……早く開いてくれッ!」
ヴィトの願いが通じたのか、ドアがガチャリと開く音が聞こえた。ヴィトはすぐさまにドアを開け、トイレへと向かう。後はルーシーが戻るまでの時間稼ぎか。
「しかし、大変な仕事になりそうだぜ」
ヴィトはトイレへ向かいながら苦笑する。

フランク・ミラノリアが部下を従え、ドアを破ったのは、ヴィトがピッキングによって扉を破った2分後のことだった。
「よし、ヴィトの小僧がこの部屋に隠れているかもしれんッ!探せッ!」
フランクの命令に構成員の男たちが、部屋を動き回るが、その動きに半ば眉を潜めていたのは、セリアだった。
「どうしたのだ、セリア……」
「ねぇ、フランク……あなた変だと思わないの?ドアのすぐ近くにヘアピンが落ちてるの?」
フランクはその言葉にハッとなる。ヘアピンを使用し、この部屋のドアを開けた。そう仮定していいのだろうか。
「しかしだな、この部屋にカギをかけたか、どうか……」
その言葉にセルマは人差し指を左右に揺らす動作を見せる。
「いいえ、わたしはかけたの……さっき何曲目かの休憩の時にこの部屋に来た時に……」
「と、なると!?」
フランクはその後の言葉を想像すると、目を輝かせずにはいられない。
「そうよ、彼……ヴィトって言ったわよね、きっとトイレに逃げてるわ」
セルマは美しい黒髪をたなびかせながら言った。
「そうか、トイレに篭って部下から奪ったトンプソンを使って……」
そう得意げに解説するフランクの口をセリアはそっと美しい手で防ぐ。
「違うわよ、覚えてるでしょ?ヴィトがどうやって地域を奪っていったのかを?」
フランクは全てを悟ったかのように手をポンと叩く。
「魔法だなッ!奴は例の剣を使ってオレたちを殺すつもりか……」
セリアは「そうよ」とよくできましたと言わんばかりの笑みで答えた。

ヴィトはトイレへと駆け込み、立ち入り禁止の看板があるトイレの個室へと勢いよく入る。
マルロの言葉を信じれば、彼が何らかの手を使い、オレとルーシーがパーティに参加していた僅かの時間に剣を仕込んでいる。その筈だ。
予想は当たっていた。ヴィト愛用の伝説の剣はちゃんと便器の横に置いてあったのだ。
「よしッ!これなら、ホテルにいるミラノリアの連中を一気に倒す事ができる筈だぜッ!」
ヴィトは剣を自分のもへと寄せ、剣を腰につける。いつものコートがないから、剣は丸見えとなっている。
「丸見えというのが、気になるが……まぁいいぜ、多少モーニングは傷ついちまうかもしれんが、ここから生きて帰れる自身はあるッ!」
ヴィトはそれから、床に置いてあったトンプソンを手に取り、改めてフランクへの敵対心を露わにした。
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