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第十八話 ゴールデンストリートウォーズーその②

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フランク・ミラノリアはルーシー・カヴァリエーレとヴィト・プロテッツイオーネの姿が見えるや否や、携帯型の無線機を持ち、別の部屋の闇に紛れ、隠れている部下に指示を出す。
「よし、ヴィトの小僧とカヴァリエーレの小娘の姿が見えた……全員抜かりはないな」
フランクの無線に問題はないという旨の報告が伝わる。
「よし、ヴィトの小僧とカヴァリエーレの小娘が油断したところを一網打尽にする……なぁに心配はいらんよ、奴らは二人で来ている……それに仮に護衛がいたとしても、このパーティには、大勢の関係のない人がいるんだ……古き良き時代のマフィアを自称する奴らは手も足も出んはずさ」
フランク・ミラノリアは自らの勝利を確信し、思わず顔を綻ばせる。そして、その余韻のままに近くのテーブルに置いてあった甘口のブランデーに手をつける。
やはり、勝利の美酒というものは味わい深い。少なくともこの時点でのフランクはこう思っていた。
その時だった。セリアが歌を歌い始めたのだった。
「ほぅ、やはりアメリカ一の歌手だ……中々いい声を出すじゃあないか」
フランクはセリアの甘いとろける声と恋人を思う女性を歌う歌詞に思わず酔う。その世界に没頭し過ぎてしまったのだ。
フランクはブランデーの入ったグラス瓶を片手にホテルの客用の高価な椅子に体を埋める。
「うん、いい曲だ……さてとヴィトの小僧は」
フランクは不意に標的ターゲットのことが気になり、モーニングコート姿のヴィトを探し出す。
「なんだ……全く酒を飲んでいないじゃあないか」
フランクの予想では、ヴィトはセルマの曲に酔いしれ、ご馳走をまるで牛馬が食べるかのようにガツガツと食し、それからバッカスのようにワインをガバガバと飲んで、油断するのかと思っていた。だが、ヴィトは酒を飲むどころか、あまり食事を採ろうとしてもしていない。
変だな。フランクは何かが引っかかった。その時だった。
「おい、テメェら !動くなッ!」
部下の一人が待ちきれずに散弾銃を天井に放ったのだ。女性の悲鳴とパニックになった人々の逃げる音がホテルの狭い部屋にこだまする。
「くっ、バカ者がッ!どうして待てんかった!?」
フランクは席から立ち上がり、部下を叱りつける。
「もっ、申し訳ありません……ですが、今ここでしかルーシー・カヴァリエーレを仕留められるチャンスをないかと判断し……」
「何故、貴様の独断で決めたのだッ!?」
フランクは散弾銃を発砲した男のスーツの上に着ている緑色のコートを勢いよく引っ張る。
「でも、今しかないですぜ」
フランクは部下の顔を睨みつけながら、携帯型の無線機を取り出し、隣の部屋に待機している部下を総動員させた。

ヴィト・プロテッツイオーネはこの不足の事態を予想していた。そのために一刻も早く懐からオート拳銃を取り出し、威嚇射撃をしてから、ルーシを逃がそうと試みた。
「ヴィト……やはり」
「そうだ……やはり、セルマはミラノリア・ファミリーの手の内の者だったらしいぜ」
「そうみたいね」
ルーシーは中央の台で勝利の笑みを浮かべているセリアを見ながら呟く。
「あんたは逃げてくれ、恐らくだが、あいつだけではなく、他の伏兵がわんさかいるはずさ」
ルーシーは流石にそんなに大勢は仕込めないわ。と、思っていたが、突然閉められていたホールの両脇のドアから大量の兵隊が出てくるのを見て、それは本当のことね。と、確信を得た。
「ルーシー !!キミはホテルの前に停めてある車の元へ行くんだッ!」
「あなたはどうするの、ヴィト!?」
ヴィトは心配はいらんよという目でルーシに目配せし、オート拳銃をドアから出現した兵隊に発砲した。
「分かったわ、背中はあなたに任せる……それにマルロが予定通りにやってくれていたのなら、あなたの剣がトイレに隠されているはずよ」
ルーシーはそう叫ぶと、ヴィトに後ろを預け、ホテルの正面出口へと向かう。
「さてと、やらせてもらうか……」
ヴィトはテーブルの一つに身を隠し、そこに隠れながら、拳銃を出てきた兵隊に向けて応戦する。
(これではキリがない……)
ヴィトはこの状態は非常にマズイ事だと自覚していた。だが、ファミリーの首領ドンであるルーシーが殺されるよりは全然マシだと腹をくくる。
「ブッ殺してやれッ!」
そんなフランクの物騒な掛け声と共にヴィトの隠れているテーブルに様々な銃弾が発砲される。散弾銃が来なかったのがせめてもの救いだろう。
ヴィトはフランク・ミラノリアへの憎悪をたぎらせ、それからどうやってトイレへと行くのかを思案した。
(参ったな、オレの周囲を見渡したら、殆ど敵ギャングの構成員ばかりだよ……どうすれば、脱出できるんだ?)
ヴィトは一気に自分の脈が遅くなっていくのを感じたが、途端に妙案を思いつく。
(そうだ……確かあいつらは、一度撃った時に全員が一斉射撃を起こするだよな、その時に弾込めをする時間が筈だ……なら、その時を利用して……だが、少しでも喰らえば、もうこの机は終わり……おれは蜂の巣にされちまう)
ヴィトはそんな時にカルロ・ミラノリアが使用していた防御魔法ガードマジックを思い出す。
(そうだ……あの魔法をおれが使えば……銃撃戦をもう一度乗り切れる筈だぜ、確かカルロを倒した後にマリアに習った筈)
ヴィトは頭をフル回転させ、防御魔法ガードマジックの呪文を思い出す。
(チッ、いまいち思い出せない……)
ヴィトは心の中で覚えられていない自分に煽っていると、フランクが向こう側から何やら叫んでいる。
「おい、お前ももう終わりだなッ!今までオレと兄貴のファミリーを苦しめてきたが……とうとう年貢の納め時ってもんだぜッ!」
フランクはいやらしく言う。だが、ヴィトも負けじと言い返す。
「いいや、年貢を納めるのはあんたの方だぜ、オレが知らないとでも思ってのか、お前がゴールデンストリートで金持ちの奥方に麻薬ダストを売ってたのをッ!」
「それが、どうしたんだよッ!白い粉は金になるからな……利用せん手はないだろ?」
「少なくても麻薬は人をダメにすると思うがね !」
「ふん、何が悪いッ!死にたい奴に薬をちょぃと高価な値段で売ってやるのが、何故悪い !」
「いいや、麻薬は人との縁を切らせるからな、あんたらのスポンサーだったギャリアーだって麻薬を売っていたことを知れば、あんたらから離れていたと思うぜッ!」
ヴィトは自信を持って言う。
「どうかな、もういいだろう、無駄話はたくさんだッ!」
フランクは部下にヴィトの隠れているテーブルに銃を向けるように指示した。

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