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第四話 ルーシー・カヴァリエーレという女

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「何ですって !女の子を拾った !」
カヴァリエーレ・ファミリーのドン・カヴァリエーレこと、"カリーナ"・ルーシー・カヴァリエーレは電話口からでも分かるほどの大声を上げていた。
全く、あの男は昔とあまり変わらないなと、微笑むと、明日の朝にタイミングを見計らって、連れてくるように指示した。電話を切り、彼女はこれまでのヴィトと過ごしてきた人生を思い返した。
自分が、この世に生を受けたのは、1933年の事だった。彼女は先代の"ゴッドファーザー"こと、ドメニコ・カヴァリエーレの娘として、生まれた彼女は幼い頃から、一人前のレディとして、或いは立派な"お嫁さん"になるための修行を積まさせてきた。だが、彼女は両親に内緒で、家業を継ぐことを決めていた。彼女は第二次性徴期を過ぎると、元々の優秀な頭脳に父親から盗み取ったマフィアの事を叩き込む。
彼女が21になる頃、つまり一昨年にはもう立派にドメニコの後釜を狙えるほどの頭の良さと人望とマフィアとしての勇気を持っていた。
そして、正式に彼女が、に就いたのは、去年の夏の事だった。だが、これに反対したのは、ドン・ミラノリアを初めとする、他の五大ファミリーのボス達だった。
五大ファミリーのボス達、取り分けミラノリアはのが、気に入らなかったらしく、カヴァリエーレ・ファミリーを除く、街の全てのファミリーと手を組んで抗争を始めた。
ルーシーとヴィトの指揮のもとにファミリーは善戦したが、多勢に無勢であり、とうとう相談役であるヴィト自らが、前線に出るまでになったのだ。
そんな事を思い返していると、少女を拾ったなんて騒いでいる場合では無いなと根本的に思い知らされ、ルーシーは苦笑した。
「そうなんだよ、とにかくここらじゃ見ない格好で、しかも自分をだなんて名乗ってる」
電話を通してのヴィトの声でルーシーは現実に引き戻された。
「分かったわ、そのとやらを連れてきてもらえないかしら?もしかしたら、その子の親が分かるかもしれないから」
「ありがとう、作戦は一時中断そう言う事でいいな?」
「勿論よ、その子の事が心配だし、その子の両親やらも探さないといけないから」
「両親を?」
ヴィトの深いため息が電話を通して聞こえる。
「どうかしたの?」
「ああ、きみには話していなかったか……」
ヴィトは一度息を大きく飲み込み、敬愛するに少女を拾った一部始終を伝えた。
「……空から降ってくるなんて、にわかには信じがたい話ね」
「だが、それが真実なんだからしょうがないだろ?実際に彼女はんだから」
ゴッドマーザーこと、"カリーナ"・ルーシー・カヴァリエーレは思わず肩を落とした。ヴィトはいつから誇大妄想をする少女の妄想に付き合うようになったのだろうか、自分が無理をさせすぎたか、それとも過酷な抗争から逃げようとしているのか、ルーシーは判断しかねたが、ここは明日そのとやらが自分の家を訪れた際に尋ねるべきだと判断し、深いため息を吐いてから、ヴィトに「おやすみ」とだけ呟き、自身の高価な長テーブルの上に受話器を下ろす。
「ふぅ、ダウンタウンを巡る戦いは熾烈を極めているらしいわ、ヴィトがそんな妄想を信じるようになるようになるなんて……」
ルーシーは机の横にある高価な棚からブランデーの瓶を一本取り出し、それをグラスに注ぎ、味わう。ブランデーの甘い味がルーシーの口の中を支配した。

「さぁ、入って」
ヴィトは"帝国の城"と地元住民との境目にある黒い巨大な門を開く。ギィィィという門が開く音がした。
「ふん、これがあたしの仮の住まいってわけなの?」
「そうなるかもしれませんね、"女王陛下"」
ヴィトは皮肉の意味も込めて少し嫌味たらしく言ってみる。だが、ヴィトの膝丈くらいの位置にいる少女はヴィトの"嫌味"が理解できていなかったのか、少女は満足気な顔でヴィトを見上げる。
「そう、あんたもやっと分かってきたじゃない、感謝しないさよね、あんたみたいなをワザワザわたしの権限でにしてやったんだから !」
ヴィトは愛想笑いを浮かべるばかりだった。
相談役コンシリエーリ !わたしは?」
ヴィトはマフィアの顔つきを浮かべ、グリースガンを携えた部下の男に指示を出した。
「きみはアパートへと戻れ、作戦続行中という事には変わらないんだ、それに昨日の騒ぎのせいで、ミラノリアの奴らが何か仕掛けてくるかもしれんから、警戒を怠るな」
ヴィトの命令を聞き終えると、男は車へと戻り、アパートへと向かった。
「ねぇ、昨日から気になってたんだけど、昨日あたしとあんたを襲った奴らって何なの?」
「……この辺り一帯でウチと肩を並べるくらい大きなファミリー……ルカ・ミラノリア率いるミラノリア・ファミリーの奴らさ、ルーシーがウチのファミリーのボスになったのが気に入らんのか、抗争を仕掛けてきやがったんだ」
「ルーシー?ファミリー?何それ?」
ヴィトはここらでもう一年も続いている抗争の事を膝下の少女が知らない事を察すると、本当に別世界から来たのだと実感した。
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