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パンゲール大陸攻略編
暗黒神のお気に入りの暴走は止まらずーその⑦
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「何をやっている!ケイトッ!」
シリウスは怒りを露わにして、手に持っていたワイングラスを床の上に叩き付ける。
ガラス製のグラスは船の地面の上で粉々に砕け、宝石箱の中で宝石の様にキラキラと輝いていた。
最も、宝石箱の宝石と違う点は宝石は見ていて綺麗であるのに対し、船の上に砕け散ったガラスは尖って危険極まりないものであり、その差は雲泥。
それを分かっているのか、シリウスの側近たちはいそいそと飛び散ったグラスを片付けていく。
シリウスはちまちまとのんびりと片付けをすること部下の様子を長椅子の上に深く腰を掛け、眺めていたが、その様子さえ今の彼からすれば不興を買う一員でしかない。
暫くの間、長椅子の上の腰掛けを人差し指で叩いていると、彼の前に人間態となったテスカトリが現れた。
シリウスは即座に長椅子の上から降りようとしたが、テスカトリはそれを手で静止して、
「そのままで良い。お前の隣に私も座る」
美しい青年はシリウスの側に座ると、彼に顔を近づけて、
「お主の先程の様子から察するに、南部を攻めていたケイトも殺されたようだな?これで、残るはお主だけ、中々面白くなってきたな」
テスカトリは面白くて笑う。実際、最初、自分を地下の祭壇で呼び出した折にはあれ程までに自身に満ちていた表情が、今やすっかり彼の顔からは自身そのものが消失し、怒りと焦燥にのみ囚われているのだから。
だが、彼は敢えて口には出さない。代わりに、テスカトリは彼の顔に自分の顔を近付けて、彼の唇に自分の唇を重ねていく。
青白い顔とはいえ周囲からは美男子と呼ばれてきたシリウス。そして、古代の絵画から抜けて出たような美しい顔と体を持って現れたテスカトリ。
絵にならない筈がない。彼の従者たちは主人二人の口付けの場面を口を大きく開けて眺めていた。
あまりにも美しい光景は神話に記される神々の許されざる恋を描いたものかと錯覚させられていく。
暫くの口付けが交わされた後に、美男子に扮したテスカトリはシリウスの口から真っ赤な舌を抜いて言った。
「今のお前に与えたのはかつて、お前が竜王スメウルグを竜王城にして吸収した時の力……今一度、その力を用いて大陸の兵士どもを皆殺しにせよ」
シリウスはそれを聞いて頭を下げたのだが、直ぐにテスカトリは頭を上げるように指示を出して、
「良い。お前は暗黒の竜の力を用いて、帝国を牛耳る忍びの兄妹を抹殺せよ。そして、今回はーー」
テスカトリは一度口を閉じてから、無言で長椅子の上から立ち上がり、空中に右手を掲げて、右手の掌の上に短い闇色の雷を鳴らしていき、そのまま雷を模した武器を作り上げていく。
そして、大きく口元を緩めて、
「私自ら出陣する!見ぬか、シリウス。これがかつて神話の時代に私がこの世に闇を用いるために使用した漆黒の雷ぞ!」
シリウスはといえば、彼が出現させた武器に、そしてその武器を持って魔性の美男子に見惚れていた。
これ程までに美しい男は見た事がない。あのナルシーでさえも彼に劣るやもしれない。いや、ナルシーどころか、これまでに彼の人生の中で出会ったどの少年や男よりも美しい。
シリウスは思わずに、彼の右手を手に取り、彼の右手の甲に熱い口付けを交わす。
頭を垂れる青白い顔の美男子を見てテスカトリは笑う。
いや、神とも呼べる程に美しい顔をした男は口元を緩めて、その姿を船の中で働く男たちに見せていく。
生まれる時に得られない顔というスペックを。二人の芸術品の様に美しい美男子が互いに手を取り合う様を。
才蔵こと、ローレンス皇帝は船の上からいつまで経っても軍隊が降りてこない事に海岸の前に敷いた陣地の中で業を煮やしていた。
もう一週間が経つ。帝都から今世での妹、前世の妻が訪れる事件を知らせる手紙が届いた日とその四日後に南部からシリウスの軍隊が撃退した事が伝えられ日から逆算すればそれくらいになる。
ローレンスの推測としてはシリウスがマルグリッドこと、お萩を襲った日に船を密かに出て、襲撃したのだと考えていた。
だが、襲撃は失敗し、焦ったシリウスは南部の部下に連絡を入れたのだろう。
だが、それが仇となり、連絡を入れた二日後にシリウスの腹心は討死。
南部を攻めていた軍隊も壊滅となったのだろう。才蔵には確信があった。と、言うのも里に居た頃に幻斎から読まされた応仁年間から天正年間まで続いた戦国の世の出来事を伝える書物の上では大将が討ち取られ、軍隊が瓦解する例など幾つもあったからだ。
今回もその例に漏れず、瓦解したのだろう。
才蔵は自分の知識が間違っていなければと苦笑したが、南部からは追っての報告がないから、大丈夫だろう。
最も、忍びがこんな事ではいけないと彼は頭を振ったが、直ぐに自分は今では忍びではなく、一軍を率いる幼い天子であり、武将である事を思い出す。
彼はもう一度、苦笑していると、目の前の船団に可笑しな様子が見えた。
彼の前にシリウスともう一人の名前の知らない美男子が現れた。
シリウスの隣の美男子の手には禍々しい刃物。雷を象っているらしく、彼が雷神が使う武器はあの様なものかと推測していると、シリウスの隣に居た芸術品の様に形の良い顔をした男は陣地に雷を象った武器を向ける。
才蔵はそれを見た瞬間に陣地の柵を飛び越えて飛び出し、自らの妖魔術を先に相手へと喰らわせていく。
が、一足遅かったのか、自身の放つ業風は雷とぶつかり合い、その場でせめぎ合った後で消失していく。
才蔵は風も雷も消え、海岸に現れた両者の顔が見えたのと同時に、懐に隠していた手裏剣を飛ばす。
だが、見る人を誰もが振り向かせる程の形の良い顔を持つ美男子は右手の人差し指と中指で手裏剣を防ぐ。
才蔵は再度、妖魔術を使用したが、相手は雷を使用して何もない空間でせめぎ合わせていく。
才蔵が次の一手を考えていると、彼の懐に日本刀を持った男が踏み込む。
「目障りな甲賀の忍びめッ!この世界でも私の邪魔をしおって!私がこの手で片付けてやる!」
「……ッ、シリウスッ!お主だけは許さぬ!父の仇!母の仇!姉の仇!そして、あの夜にお主の襲撃のせいで死んだ甲賀の仲間の仇をこの場で討たせてもらおうかッ!」
才蔵はシリウスの振った刀を自身が背中に下げていた忍刀を盾にして防ぎ、刀越しからシリウスを睨む。
シリウスは怒りを露わにして、手に持っていたワイングラスを床の上に叩き付ける。
ガラス製のグラスは船の地面の上で粉々に砕け、宝石箱の中で宝石の様にキラキラと輝いていた。
最も、宝石箱の宝石と違う点は宝石は見ていて綺麗であるのに対し、船の上に砕け散ったガラスは尖って危険極まりないものであり、その差は雲泥。
それを分かっているのか、シリウスの側近たちはいそいそと飛び散ったグラスを片付けていく。
シリウスはちまちまとのんびりと片付けをすること部下の様子を長椅子の上に深く腰を掛け、眺めていたが、その様子さえ今の彼からすれば不興を買う一員でしかない。
暫くの間、長椅子の上の腰掛けを人差し指で叩いていると、彼の前に人間態となったテスカトリが現れた。
シリウスは即座に長椅子の上から降りようとしたが、テスカトリはそれを手で静止して、
「そのままで良い。お前の隣に私も座る」
美しい青年はシリウスの側に座ると、彼に顔を近づけて、
「お主の先程の様子から察するに、南部を攻めていたケイトも殺されたようだな?これで、残るはお主だけ、中々面白くなってきたな」
テスカトリは面白くて笑う。実際、最初、自分を地下の祭壇で呼び出した折にはあれ程までに自身に満ちていた表情が、今やすっかり彼の顔からは自身そのものが消失し、怒りと焦燥にのみ囚われているのだから。
だが、彼は敢えて口には出さない。代わりに、テスカトリは彼の顔に自分の顔を近付けて、彼の唇に自分の唇を重ねていく。
青白い顔とはいえ周囲からは美男子と呼ばれてきたシリウス。そして、古代の絵画から抜けて出たような美しい顔と体を持って現れたテスカトリ。
絵にならない筈がない。彼の従者たちは主人二人の口付けの場面を口を大きく開けて眺めていた。
あまりにも美しい光景は神話に記される神々の許されざる恋を描いたものかと錯覚させられていく。
暫くの口付けが交わされた後に、美男子に扮したテスカトリはシリウスの口から真っ赤な舌を抜いて言った。
「今のお前に与えたのはかつて、お前が竜王スメウルグを竜王城にして吸収した時の力……今一度、その力を用いて大陸の兵士どもを皆殺しにせよ」
シリウスはそれを聞いて頭を下げたのだが、直ぐにテスカトリは頭を上げるように指示を出して、
「良い。お前は暗黒の竜の力を用いて、帝国を牛耳る忍びの兄妹を抹殺せよ。そして、今回はーー」
テスカトリは一度口を閉じてから、無言で長椅子の上から立ち上がり、空中に右手を掲げて、右手の掌の上に短い闇色の雷を鳴らしていき、そのまま雷を模した武器を作り上げていく。
そして、大きく口元を緩めて、
「私自ら出陣する!見ぬか、シリウス。これがかつて神話の時代に私がこの世に闇を用いるために使用した漆黒の雷ぞ!」
シリウスはといえば、彼が出現させた武器に、そしてその武器を持って魔性の美男子に見惚れていた。
これ程までに美しい男は見た事がない。あのナルシーでさえも彼に劣るやもしれない。いや、ナルシーどころか、これまでに彼の人生の中で出会ったどの少年や男よりも美しい。
シリウスは思わずに、彼の右手を手に取り、彼の右手の甲に熱い口付けを交わす。
頭を垂れる青白い顔の美男子を見てテスカトリは笑う。
いや、神とも呼べる程に美しい顔をした男は口元を緩めて、その姿を船の中で働く男たちに見せていく。
生まれる時に得られない顔というスペックを。二人の芸術品の様に美しい美男子が互いに手を取り合う様を。
才蔵こと、ローレンス皇帝は船の上からいつまで経っても軍隊が降りてこない事に海岸の前に敷いた陣地の中で業を煮やしていた。
もう一週間が経つ。帝都から今世での妹、前世の妻が訪れる事件を知らせる手紙が届いた日とその四日後に南部からシリウスの軍隊が撃退した事が伝えられ日から逆算すればそれくらいになる。
ローレンスの推測としてはシリウスがマルグリッドこと、お萩を襲った日に船を密かに出て、襲撃したのだと考えていた。
だが、襲撃は失敗し、焦ったシリウスは南部の部下に連絡を入れたのだろう。
だが、それが仇となり、連絡を入れた二日後にシリウスの腹心は討死。
南部を攻めていた軍隊も壊滅となったのだろう。才蔵には確信があった。と、言うのも里に居た頃に幻斎から読まされた応仁年間から天正年間まで続いた戦国の世の出来事を伝える書物の上では大将が討ち取られ、軍隊が瓦解する例など幾つもあったからだ。
今回もその例に漏れず、瓦解したのだろう。
才蔵は自分の知識が間違っていなければと苦笑したが、南部からは追っての報告がないから、大丈夫だろう。
最も、忍びがこんな事ではいけないと彼は頭を振ったが、直ぐに自分は今では忍びではなく、一軍を率いる幼い天子であり、武将である事を思い出す。
彼はもう一度、苦笑していると、目の前の船団に可笑しな様子が見えた。
彼の前にシリウスともう一人の名前の知らない美男子が現れた。
シリウスの隣の美男子の手には禍々しい刃物。雷を象っているらしく、彼が雷神が使う武器はあの様なものかと推測していると、シリウスの隣に居た芸術品の様に形の良い顔をした男は陣地に雷を象った武器を向ける。
才蔵はそれを見た瞬間に陣地の柵を飛び越えて飛び出し、自らの妖魔術を先に相手へと喰らわせていく。
が、一足遅かったのか、自身の放つ業風は雷とぶつかり合い、その場でせめぎ合った後で消失していく。
才蔵は風も雷も消え、海岸に現れた両者の顔が見えたのと同時に、懐に隠していた手裏剣を飛ばす。
だが、見る人を誰もが振り向かせる程の形の良い顔を持つ美男子は右手の人差し指と中指で手裏剣を防ぐ。
才蔵は再度、妖魔術を使用したが、相手は雷を使用して何もない空間でせめぎ合わせていく。
才蔵が次の一手を考えていると、彼の懐に日本刀を持った男が踏み込む。
「目障りな甲賀の忍びめッ!この世界でも私の邪魔をしおって!私がこの手で片付けてやる!」
「……ッ、シリウスッ!お主だけは許さぬ!父の仇!母の仇!姉の仇!そして、あの夜にお主の襲撃のせいで死んだ甲賀の仲間の仇をこの場で討たせてもらおうかッ!」
才蔵はシリウスの振った刀を自身が背中に下げていた忍刀を盾にして防ぎ、刀越しからシリウスを睨む。
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