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パンゲール大陸攻略編
暗黒神のお気に入りの暴走は止まらずーその②
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竜を象った大船団があわや、大陸に上陸するのかと思われた大陸の危機とも呼べる事件から早くも四ヶ月。あれからは特に何かが起きる事もなく、平穏無事に世の中は過ぎていっていた。パキラや孝太郎。それに、二人の兄妹とライジアはいつもう片方の大陸に残るシリウスの最後の部下が報復に来るのかと身を震わせていたのだが、いつになってもやって来ないためか最近では落ち着いて国内のゴタゴタを片付ける事が出来ていた。
孝太郎もパキラも城の倒壊の巻き添えになった二人の仲間を慰労し、墓を作ってから、修行の旅を続けていた。
そんな時だ。最悪の事態が起きたのは。
百隻ほどの多くの船を束ねた大船団がかつてのディスペランサー=ディングル帝国の海岸へと接近し、そこから凶悪な兵士を引き連れ、乗り込んだのだという。
同時に南からも世界皇帝の軍は侵入したらしく、こちらでは斧を持った凶悪な女を中心に世界皇帝の下僕達が向かって来ているのだという。
魔界の女魔王、ライジアは急遽、軍隊を招集し、南から上陸した世界皇帝の手下たちへの防衛にあたらせる。
ルーベルラント帝国でも皇帝と女帝の二人の命令により、旧帝国領内の防衛戦が行われる事となり、それを時の幼帝自らが率いて迎え撃つと宣言した。
シリウスはその海岸の近くに泊めてある大船団の中のとりわけ大きな、そして最上級の船の中に存在するこれまた船とも思えない程の心地の良い船室の中に用意された長椅子に揺られ、林檎を齧っていく。
この船室は世界を統べる〈世界皇帝〉に相応しい部屋として作られているため、船室の一番端、壁にくっ付いているのは先程も述べた長椅子。そして、その近くには小さな机とその上に置かれた果物が山ほどに積まれているバスケットがあった。
シリウスは手に取った林檎を齧った後に唇を離して、
「素晴らしい光景だ。この戦争における高揚感……果てしなく最高だッ!そうだろう?」
シリウスは齧り掛けの林檎を持った手で側に畏まっていた年老いた付き人に話を振る。
通常ならば、こういったシリウスの愚痴を聞くのは妹のシャーロットか、若しくは腹心である降魔霊蔵の役目であるのだが、二人はルーベルラント帝国を入手するための攻略戦で死亡してしまったために、シリウスは止むを得ずに新しく側付きとなった男に話を振ったのだ。
だが、年老いた男は答えられずに頭を下げる。それを見たシリウスは無意識のうちに手に持っていた林檎を握り潰す。
それから、大きく舌を打ち、用意されたソファーの上に大きく腰を掛けると、これから先の計画を思案していく。
まず、この戦いが終わった暁に行うのは前世からの因縁を持つ甲賀の忍びの魂を持つ忌々しい二人の皇帝の排除だろう。
罪名は何しよう。なるべく惨たらしく殺してやろうとシリウスは手元の果物の積まれた山から新たに手に持った林檎を軽く齧りながら考える。
罪名は自らの私腹を肥やし、人民の税を毟り取った罪というのはどうだろう。
いや、前世の記憶を取り戻す前までの二人ならばともかく、今世の記憶を持った二人は臣民から従われている筈では無かったのか。
シリウスはもう一口林檎を齧って別の罪状を考えていく。
と、そんな時だ。シリウスの居座る寝室に一人のエルフの青年が推し入って、
「も、申し上げます!我が軍は劣勢!大量のオークが押されております」
それを聞いた瞬間にシリウスは黙って横になっていた長椅子の上から立ち上がり、停泊している船の看板の上へと上がっていく。
シリウスは部屋を出る前に、手に持っている林檎を苛立ち紛れに地面へと投げ付けてから甲板へと上がっていく。
甲板に上がり、邪神、テスカトリの力を借り、拡大の魔法を使用すると、そこにはルーベルラント帝国の侵略に失敗した第一の要因である例の少年が特殊な武器を使用しながら、いや、特殊な武器という曖昧な表現で表す事は出来まい。
シリウスは首を横に振ってもう一度その武器の名前を思い出す。
あの少年が使っているのは忍びの武器だ。かつて、明治の世で自身がその忍びの集団を率いていたのだから、シリウスにはハッキリと分かっていた。
だが、この世界でその武器は再現できたのだろうか。いや、できるはずがない。
シリウスは首を横に振って自身の頭の中に浮かんだ馬鹿げた考えを打ち消す。
そもそもこの世界における技術はかつての世界の中世レベルではないか。
そんなレベルの文明に忍びの装備が用意できるだろうか。
いいやできない。だが、そのシリウスの完璧なまでに論理を立てた思考は目の前の現象のてによりあっさりと打ち消されてしまう。
シリウスは船を腕で強く掴むと、自分たちの手下をたった一人で片付けていく少年を無言で睨む。
テスカトリ相手にシリウスは念を送ったのだが、あの男はこう返してきた。
“向こうの挑発に乗るのは下策である”と。
何が下策なのだろうか。シリウスはこの世界の地下に封じ込められていた邪神の事が分からなくなってしまう。
彼曰く第一陣の部下を囮にしてその後に船団に残っているという事らしい。
シリウスは逆らいたい気持ちであったのだが、相手が自分よりも上の邪神である事を思い出し、直ぐに自分の考えを打ち消し、ここは敢えての鑑賞にのみに留めておく。
最後の一兵卒が倒された瞬間を目撃し、シリウスがテスカトリの言うような作戦を思案していると、突然、彼の背後の船室の前の星形の手裏剣が刺さる。
前世で見たものとまるで同じである。シリウスが手裏剣が投げられた方向を魔法で見つめると、そこには仁王を思わせる様な恐ろしい顔で自分を睨むローレンスのいや、才蔵の姿。
シリウスは忌々しげに柱に刺さった手裏剣を引っこ抜き、海の中へと叩き落とす。
「己、何処までもオレをコケにしおって……ならば、お望み通りにあの忌々しい面を恥辱の顔に染めてやろうではないか!」
シリウスは暫くの間、船室に篭り、海岸で待ち伏せをしている才蔵を倒す方法を考えた。
だが、一向に考えは思い付かない。どうしたものかと頭を抱えていると、シリウスの目の前に人間となったテスカトリの姿が現れる。
彼は相変わらずの美しい顔で言った。
「どうやら、私の助けがいるようだな。シリウス」
シリウスは現在の命の恩人にして現在の主人である美男子の前に跪く。
美男子はそれを見下ろして、
「私に良い案がある。目障りな小僧を始末するためのな……」
彼は口元に人差し指を当ていたずらっ子の様な表情で言った。
シリウスは美しき邪神を見上げてかつて自分の腹心、降魔霊蔵が言った言葉を思い出す。
あの時の奴もこの様な気持ちだったのだろうか。そんな事を考えながら、彼は自らの神の素晴らしき案に耳を傾けていく。
孝太郎もパキラも城の倒壊の巻き添えになった二人の仲間を慰労し、墓を作ってから、修行の旅を続けていた。
そんな時だ。最悪の事態が起きたのは。
百隻ほどの多くの船を束ねた大船団がかつてのディスペランサー=ディングル帝国の海岸へと接近し、そこから凶悪な兵士を引き連れ、乗り込んだのだという。
同時に南からも世界皇帝の軍は侵入したらしく、こちらでは斧を持った凶悪な女を中心に世界皇帝の下僕達が向かって来ているのだという。
魔界の女魔王、ライジアは急遽、軍隊を招集し、南から上陸した世界皇帝の手下たちへの防衛にあたらせる。
ルーベルラント帝国でも皇帝と女帝の二人の命令により、旧帝国領内の防衛戦が行われる事となり、それを時の幼帝自らが率いて迎え撃つと宣言した。
シリウスはその海岸の近くに泊めてある大船団の中のとりわけ大きな、そして最上級の船の中に存在するこれまた船とも思えない程の心地の良い船室の中に用意された長椅子に揺られ、林檎を齧っていく。
この船室は世界を統べる〈世界皇帝〉に相応しい部屋として作られているため、船室の一番端、壁にくっ付いているのは先程も述べた長椅子。そして、その近くには小さな机とその上に置かれた果物が山ほどに積まれているバスケットがあった。
シリウスは手に取った林檎を齧った後に唇を離して、
「素晴らしい光景だ。この戦争における高揚感……果てしなく最高だッ!そうだろう?」
シリウスは齧り掛けの林檎を持った手で側に畏まっていた年老いた付き人に話を振る。
通常ならば、こういったシリウスの愚痴を聞くのは妹のシャーロットか、若しくは腹心である降魔霊蔵の役目であるのだが、二人はルーベルラント帝国を入手するための攻略戦で死亡してしまったために、シリウスは止むを得ずに新しく側付きとなった男に話を振ったのだ。
だが、年老いた男は答えられずに頭を下げる。それを見たシリウスは無意識のうちに手に持っていた林檎を握り潰す。
それから、大きく舌を打ち、用意されたソファーの上に大きく腰を掛けると、これから先の計画を思案していく。
まず、この戦いが終わった暁に行うのは前世からの因縁を持つ甲賀の忍びの魂を持つ忌々しい二人の皇帝の排除だろう。
罪名は何しよう。なるべく惨たらしく殺してやろうとシリウスは手元の果物の積まれた山から新たに手に持った林檎を軽く齧りながら考える。
罪名は自らの私腹を肥やし、人民の税を毟り取った罪というのはどうだろう。
いや、前世の記憶を取り戻す前までの二人ならばともかく、今世の記憶を持った二人は臣民から従われている筈では無かったのか。
シリウスはもう一口林檎を齧って別の罪状を考えていく。
と、そんな時だ。シリウスの居座る寝室に一人のエルフの青年が推し入って、
「も、申し上げます!我が軍は劣勢!大量のオークが押されております」
それを聞いた瞬間にシリウスは黙って横になっていた長椅子の上から立ち上がり、停泊している船の看板の上へと上がっていく。
シリウスは部屋を出る前に、手に持っている林檎を苛立ち紛れに地面へと投げ付けてから甲板へと上がっていく。
甲板に上がり、邪神、テスカトリの力を借り、拡大の魔法を使用すると、そこにはルーベルラント帝国の侵略に失敗した第一の要因である例の少年が特殊な武器を使用しながら、いや、特殊な武器という曖昧な表現で表す事は出来まい。
シリウスは首を横に振ってもう一度その武器の名前を思い出す。
あの少年が使っているのは忍びの武器だ。かつて、明治の世で自身がその忍びの集団を率いていたのだから、シリウスにはハッキリと分かっていた。
だが、この世界でその武器は再現できたのだろうか。いや、できるはずがない。
シリウスは首を横に振って自身の頭の中に浮かんだ馬鹿げた考えを打ち消す。
そもそもこの世界における技術はかつての世界の中世レベルではないか。
そんなレベルの文明に忍びの装備が用意できるだろうか。
いいやできない。だが、そのシリウスの完璧なまでに論理を立てた思考は目の前の現象のてによりあっさりと打ち消されてしまう。
シリウスは船を腕で強く掴むと、自分たちの手下をたった一人で片付けていく少年を無言で睨む。
テスカトリ相手にシリウスは念を送ったのだが、あの男はこう返してきた。
“向こうの挑発に乗るのは下策である”と。
何が下策なのだろうか。シリウスはこの世界の地下に封じ込められていた邪神の事が分からなくなってしまう。
彼曰く第一陣の部下を囮にしてその後に船団に残っているという事らしい。
シリウスは逆らいたい気持ちであったのだが、相手が自分よりも上の邪神である事を思い出し、直ぐに自分の考えを打ち消し、ここは敢えての鑑賞にのみに留めておく。
最後の一兵卒が倒された瞬間を目撃し、シリウスがテスカトリの言うような作戦を思案していると、突然、彼の背後の船室の前の星形の手裏剣が刺さる。
前世で見たものとまるで同じである。シリウスが手裏剣が投げられた方向を魔法で見つめると、そこには仁王を思わせる様な恐ろしい顔で自分を睨むローレンスのいや、才蔵の姿。
シリウスは忌々しげに柱に刺さった手裏剣を引っこ抜き、海の中へと叩き落とす。
「己、何処までもオレをコケにしおって……ならば、お望み通りにあの忌々しい面を恥辱の顔に染めてやろうではないか!」
シリウスは暫くの間、船室に篭り、海岸で待ち伏せをしている才蔵を倒す方法を考えた。
だが、一向に考えは思い付かない。どうしたものかと頭を抱えていると、シリウスの目の前に人間となったテスカトリの姿が現れる。
彼は相変わらずの美しい顔で言った。
「どうやら、私の助けがいるようだな。シリウス」
シリウスは現在の命の恩人にして現在の主人である美男子の前に跪く。
美男子はそれを見下ろして、
「私に良い案がある。目障りな小僧を始末するためのな……」
彼は口元に人差し指を当ていたずらっ子の様な表情で言った。
シリウスは美しき邪神を見上げてかつて自分の腹心、降魔霊蔵が言った言葉を思い出す。
あの時の奴もこの様な気持ちだったのだろうか。そんな事を考えながら、彼は自らの神の素晴らしき案に耳を傾けていく。
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