シリウス・イントルーダー・ロード〜暗黒神に見染められた前作のラスボスは異世界で猛威を振るう〜

アンジェロ岩井

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パンゲール大陸攻略編

暗黒神のお気に入りの暴走は止まらずーその①

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その後、王城は崩れたものの周りに集まった人々はパキラの掛け声によってか、誰一人死ぬ事なく済んだ。
パキラと孝太郎、そして二人の大公の兄妹は街を魔王から救った英雄として讃えられ、その日は街の宿にて英雄をもてなすための歓迎の宴が行われた。加えて二人はシリウスに囚われてから、かつての傲慢な貴族としての面影が消え去った事もあり、大衆たちから新たな王として認められた。
この騒動が片付いた後には、宿屋に詰めかけた大衆たちにより、皇帝と女帝による帝国の統治が約束され、二人は互いに手を握ってそれを喜んでいた。
その後は思い出話となっていく。四人で魔王城からここまで真っ直ぐに突っ切った事。そして、その途中で幾度もシリウスの手下の目を掻い潜り、ここまで辿り着いた事。
その中でも特に鶏の真似をして関所の扉を開けさせたというエピソードには誰もが歓声の声を上げた。
だが、唯一幼い次期皇帝は手にワインの入ったジョッキを持って顔を赤く染めながら尋ねる。
「それは大陸に伝わる古の伝承であろう?儂もかつては幻斎様に大陸の話をよう伝授してもろうておったから、よ~く覚えておるぞ」
「幻斎さんが?」
「あぁ、あのお方は様々な古典に精通しており、尚且つそれらの古典から得た知識を利用し、かつての暴虐を極めし甲賀の首領、甲賀雲斎の奴めを討ち取り、甲賀の忍びの頭領に就任したのじゃ、儂が齢15の頃、一人前になりかけておった頃の話であるから、その出来事は未だに根強く頭に残っておるわ」
才蔵の口ぶりから、幻斎は元からの甲賀の忍びではなく、その前の頭領を討ち取って甲賀の忍びに就任したらしい。
他にも、甲賀雲斎という人物はあろう事か、時の明治政府の重要人物を全て抹殺するという算段までも立てていたらしい。
孝太郎は思わず冷や汗を垂らす。甲賀雲斎なる人物もシリウスに負けず劣らずの狂犬であったのは間違いないだろう。
孝太郎が恐怖を誤魔化す様に酒を飲み干すと、そのまま会場は才蔵の話す前世の話でもちきりとなっていく。
このまま平凡な時が過ぎれば良いのに、と孝太郎は苦笑する。
少なくとも、今日一日だけは平凡に時が過ぎてほしい。
孝太郎はそう考えた。











これでもかという程の心地の良い日差しが差し込む中で転移衆の一人、ケイトリン・“ケイト”・ハンプシャーは目を覚ます。
早速彼女が白色の着心地の良さそうなネクジェからいつもの鎧姿へと着替えようとした時だ。
いきなり、扉が開き、部下の一人が大きな声で叫ぶ。
「申し上げます!四日前の夜、我が軍の要であらせられまするシリウス陛下並びにシャーロット様、降魔霊蔵様、ホリスター将軍の四名がルーベルラント帝国攻略に失敗し、討ち死になさいました!」
ケイトは思わず火急の用を告げた部下の言葉に思わず耳を失う。
シリウスが死んだ?あの恐ろしくて絶対的な恐怖とも言えるべき存在が。
嘘だ。彼女の心が告げる。ケイトはもう一度部下に向かって念を押す。
「間違いありません!城の瓦礫から御三方の死体が見つかり、そのどれもが瓦礫の下敷きになったためだろうか、酷い状態であったそうです!」
ケイトはその部下の言葉の中に含まれたある一節が気になり、その箇所についての質問を行う。
すると、部下は顔を逸らして、
「確かにシリウス陛下の死体は見つかっておりません。ですが、他の御三方の死体がある事や、あの瓦礫の状態から死んだものだとばかりーー」
「つまりそれは未確定な情報だという事?」
ケイトはベッドの近くに立てかけてある斧を手に取ってから、伝令に訪れた男の前に斧の刃を向けて尋ねる。
「あなたは不確定な情報を伝えてシリウス陛下が死亡したと主張したかったの?なら、あなたは不敬罪で即刻首を刎ねるべきだわ」
「お、お許しを!ただ情報元では死亡確定という事が濃厚でしたので、私もシリウス陛下が死亡したものだとばかり思ってしまってーー」
「問答無用」
ケイトが真下からゲートボールの道具でボールを小さな穴の中に入れるかの様な手で男の首を跳ね飛ばそうとした時だ。
「待て、この男はシリウスは確かに死亡したと言ったのだ。それ以上の事は知らぬのだから、致し方あるまいて」
ケイトが声を聞いて振り向くと、そこには自分の仕えるべき主人の姿。
目の前の部下が死んだと主張した筈の〈世界皇帝〉シリウス・ペンドラゴンの姿があったのだ。
しかも、それだけではない。彼の隣には得体の知れない化け物の姿があった。
ケイトが咄嗟に斧を構えて身構えると、シリウスは黙って手で静止させて、
「やめぬか、ケイト……このお方は私の命を救ってくれた上に世界再統一のために力を貸してくれる古の神、テスカトリ様じゃ。早う跪かぬか」
ケイトはそれを聞くのと同時に背後のテスカトリの元に跪く。
それを見たシリウスも彼女に倣ってテスカトリの前に跪く。
「あなた様は命の恩人でございまする。あの葉を舐めた時にあなた様が来ませんでしたら、私はあの瓦礫の下で確実に死んでおりましたでしょう」
「……気にする事はないぞ、儂とてあの生意気な小僧への対抗手段を欲しておったのじゃ、忌々しき我が仇敵を思わせるあの面が気に入らぬからな」
テスカトリはその後にシリウスを一瞥すると、彼は黙って首を縦に動かす。
そして、その僅か数秒後に連絡を伝えに来た男の心臓が血を流して倒れている事に気が付く。
ケイトは自分の主人がいつもの時間を吹き飛ばす最強の魔法を使用した事を確証した。
その後、彼はケイトの期待に応えるかの様に、自らが殺した相手の胸を掴んでテスカトリの前へと突き出す。
テスカトリはそれを見て笑うと、直ぐにその死体の中へと入り込む。
すると、どうだろう。それまではどんな顔かさえハッキリと覚えていない程の地味な顔であったのが、テスカトリが死体に入った瞬間に、誰もが認める美しい顔を持つ短い金髪の美男子が現れたではないか。
美男子は暫くの間、古代の絵画のモデルを思わせるかの様な美しい顔で眠っていたのだが、直ぐに両目の目蓋を開く。
そして、二人に向かって、
「何をボヤボヤしておる。今こそ、我らの力であの国を落とすぞ。早う大船団を用意せぬか!」
「御意に」
二人の男女が彼の前で臣下の礼を取る。
ここに、一人の男の肉体を通して古の邪神がこの世に蘇ったのであった。
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