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パンゲール大陸攻略編
勇者パキラの決戦ーその12
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「よくぞ、ここまで持ちましたね。前世から思っていましたが、あなたはどうしてここまで凄いんですか?単なる刑事に過ぎないのに?」
誰もが癒される様なウィスパーボイスとは対照的に、発せられる言葉は孝太郎の心臓を刃物の様に切り裂く。
彼としては満身創痍の状態だ。前世は常に過酷な戦いに身を置いていたとはいえ単なる刑事。目の前の女は世界を股にかける特殊部隊の副隊長にして伊賀の忍びの副頭領。
技量としてはどちらの方が上なのかは明らかだろう。
彼女はもう一度、例の透明人間になる魔法を使用して孝太郎の前から姿を消す。
孝太郎は耳を澄ませて僅かな音も聞き逃さない様にしていく。
葉っぱもスナック菓子などの踏めばどうしても足音が鳴る様な物がこの場には無いので万事休すかと思われたのだが、孝太郎は自分の周囲に多くの瓦礫が落ちている事に気が付く。
もし、あの女が自分の周りに来るとするのならば、少なくとも一回は瓦礫を飛ぶ音が聞こえる筈である。
孝太郎は異空間の武器庫に保存しており、先程までの戦闘に使用していた日本刀を構えてその様に考えていた。
正直に言えば今の疲れた状況下では日本刀を持つのは辛い。重さのために両腕が震えていたりもする。
それでも、孝太郎は気を振り絞って刀を持ち、シャーロットが瓦礫を飛ぶ瞬間を探っていく。
耳を澄ませる事、三分。孝太郎は確かに聞いた。背後で瓦礫を飛ぶ音を。
孝太郎は試しに何の確認もする事なく背後に向かって大きく手に持っていた刀を振ってシャーロットを斬り付ける。
刀を振るった時に孝太郎は確かに手応えを感じた。確かに肉を切り、相手の体から血を流させる事に成功したのだ。
咄嗟に振り向くと、そこには何も無い場所から血が垂れているという信じられない光景が見受けられた。
孝太郎はその血が垂れる方向に向かって大きく刀を振るう。
が、今度は金属とぶつかる感触。つまり、相手が自分の持っていた刀を盾にして防ぐという事を両腕で感じ取っていく。
やはり、腐っても鯛という事だろうか。
暫くの間、剣と剣とを重ね合わせているとやがて、姿を隠しても無駄だと判断したのだろう。
シャーロットが姿を表す。彼女は斬られた痛みを見せる事なく、和やかな顔で笑って、
「どうも、孝太郎さん……あなた暫く見ない間に成長しましたわね?」
「そりゃあ、そうだろうぜ。オレはあの後にも多くの犯罪者と戦って、そして最期にはーー」
ここで孝太郎の記憶の糸は途切れてしまう。何者かが、鋏でちょん切ってしまったかの様に。
最期に何があったのだろう。分からない。孝太郎が混乱している時である。
シャーロットはこれを好機と見たのか、孝太郎の前へと踏み込み、激しく刀を振っていく。
孝太郎は懸命に刀を動かして彼女の攻撃を交わしていくが、やはり、彼女の方が上手であるらしい。
徐々に押されていく事に気が付く。
孝太郎は剣を落とさない様に踏ん張り、やっとの思いでシャーロットを自分の目の前から押し返す。
シャーロットは再度、剣を構えて、
「どうしたんですか?あなたが自慢話をし始めた瞬間に腕が鈍りましたね?あなたのあの姉の事でも思い出したんですか?」
孝太郎は咄嗟に左手で頭を抱える。姉はあの後にどうなったのだろう。思い出せない。ただ姉と最期には離れ離れになったのかもしれない。
いずれにしろ、自分は一度死んでこの世界に居るのだから。
そんな事を考えていると、目の前の長い金髪の女は信じられない事を言い始めた。
「相当悲しい事があったんでしょうね。あー、あの時、四国の高知城の前でお兄様と私に殺されていれば良かったのに……」
孝太郎はそれを聞いた瞬間に我を忘れてシャーロットへと飛び掛かっていく。
シャーロットは孝太郎の刀を受け止めるのと同時に歪んだ顔の笑顔を浮かべて、
「あー怒らせちゃいました?うっかりですね。私とした事がーー」
「黙れ、お前はもう姉貴の事にも、オレの前世の事にも、オレの仲間の事についても一切口を出すな。その穢らわしい舌でオレの大切なものを汚されるのかと思うと、吐き気がしちまうからよ」
「まぁ、汚いのね。レディには間違っても穢らわしいなどというものでは言うものではありませんわよ!」
シャーロットは乱暴に飛び掛かった孝太郎を弾き飛ばし、その衝撃で地面の上に転がった彼の喉元に向かって手に持っていた刀を突き付ける。
「さてと、これであなたはもう戦闘を継続する事が不可能ですね?どうです?穢らわしいと煽った相手に負ける気分は?どうです?格下の筈の女に負ける気分は?」
「格下?仮にも23世紀に生きていた人間がそんな前時代的な言葉を用いるとは思わなかったぜ、よっぽど、時代劇の時代に居過ぎたみてーだ」
「時代劇ですか?黒澤監督の作品ならば、何度かお兄様と拝見致しましたが、それ以外の例えばそうね……他にも日本における時代劇の巨匠と呼ばれる溝口監督や深作監督の時代劇はまだ未視聴でしたから、あなた方を始末して、もう一度現世に戻れたら、視聴してみるのもいいかもしれませんね」
目の前で刀を突き付けている女は前後の話が飲み込めないのだろうか。いや、それとも敢えて孝太郎の侮辱の言葉をスルーしたのだろうか。
恐らく後者の方だろう。エリートと誉高い男の妹なのだ。前時代的な価値観の持ち主という侮蔑の言葉には耐えられなかったのだろう。
事実、先程の台詞を発した後から、彼女は真っ直ぐに自分の喉に向かって突き立てようとしているのだから。
孝太郎が上の空で前世と今世の分の走馬灯を見ていると、刀を振り上げていた長い金髪の女が地面の上にゆっくりと倒れていくのが見えた。
そんな孝太郎の背後に見えるのはあの魔王の城で救った二人の兄妹。どうやら、背中に尖った石が刺さっている事から、あの二人が背後からシャーロットにこれを投げて助けてくれたらしい。
背後から駆けつけた二人は倒れていた孝太郎を助け起こすのと同時に、これまでの経緯を話していく。
「……そうか、前世の記憶が」
「あぁ、だから、オレとお萩いや、マルグリッドは忌々しいシリウスの奴を斬り殺すために戻ってきたのさ」
「シリウスとは決着を付けねばなりません。あの男の好き放題にしていれば、前世の世界と同様に無茶苦茶に、いや、もうなっているんでしたね」
マルグリッドは遠い目で崩壊しかけた城を眺めていく。
その目には何処か寂しさの様な物が漂った様な気がした。
誰もが癒される様なウィスパーボイスとは対照的に、発せられる言葉は孝太郎の心臓を刃物の様に切り裂く。
彼としては満身創痍の状態だ。前世は常に過酷な戦いに身を置いていたとはいえ単なる刑事。目の前の女は世界を股にかける特殊部隊の副隊長にして伊賀の忍びの副頭領。
技量としてはどちらの方が上なのかは明らかだろう。
彼女はもう一度、例の透明人間になる魔法を使用して孝太郎の前から姿を消す。
孝太郎は耳を澄ませて僅かな音も聞き逃さない様にしていく。
葉っぱもスナック菓子などの踏めばどうしても足音が鳴る様な物がこの場には無いので万事休すかと思われたのだが、孝太郎は自分の周囲に多くの瓦礫が落ちている事に気が付く。
もし、あの女が自分の周りに来るとするのならば、少なくとも一回は瓦礫を飛ぶ音が聞こえる筈である。
孝太郎は異空間の武器庫に保存しており、先程までの戦闘に使用していた日本刀を構えてその様に考えていた。
正直に言えば今の疲れた状況下では日本刀を持つのは辛い。重さのために両腕が震えていたりもする。
それでも、孝太郎は気を振り絞って刀を持ち、シャーロットが瓦礫を飛ぶ瞬間を探っていく。
耳を澄ませる事、三分。孝太郎は確かに聞いた。背後で瓦礫を飛ぶ音を。
孝太郎は試しに何の確認もする事なく背後に向かって大きく手に持っていた刀を振ってシャーロットを斬り付ける。
刀を振るった時に孝太郎は確かに手応えを感じた。確かに肉を切り、相手の体から血を流させる事に成功したのだ。
咄嗟に振り向くと、そこには何も無い場所から血が垂れているという信じられない光景が見受けられた。
孝太郎はその血が垂れる方向に向かって大きく刀を振るう。
が、今度は金属とぶつかる感触。つまり、相手が自分の持っていた刀を盾にして防ぐという事を両腕で感じ取っていく。
やはり、腐っても鯛という事だろうか。
暫くの間、剣と剣とを重ね合わせているとやがて、姿を隠しても無駄だと判断したのだろう。
シャーロットが姿を表す。彼女は斬られた痛みを見せる事なく、和やかな顔で笑って、
「どうも、孝太郎さん……あなた暫く見ない間に成長しましたわね?」
「そりゃあ、そうだろうぜ。オレはあの後にも多くの犯罪者と戦って、そして最期にはーー」
ここで孝太郎の記憶の糸は途切れてしまう。何者かが、鋏でちょん切ってしまったかの様に。
最期に何があったのだろう。分からない。孝太郎が混乱している時である。
シャーロットはこれを好機と見たのか、孝太郎の前へと踏み込み、激しく刀を振っていく。
孝太郎は懸命に刀を動かして彼女の攻撃を交わしていくが、やはり、彼女の方が上手であるらしい。
徐々に押されていく事に気が付く。
孝太郎は剣を落とさない様に踏ん張り、やっとの思いでシャーロットを自分の目の前から押し返す。
シャーロットは再度、剣を構えて、
「どうしたんですか?あなたが自慢話をし始めた瞬間に腕が鈍りましたね?あなたのあの姉の事でも思い出したんですか?」
孝太郎は咄嗟に左手で頭を抱える。姉はあの後にどうなったのだろう。思い出せない。ただ姉と最期には離れ離れになったのかもしれない。
いずれにしろ、自分は一度死んでこの世界に居るのだから。
そんな事を考えていると、目の前の長い金髪の女は信じられない事を言い始めた。
「相当悲しい事があったんでしょうね。あー、あの時、四国の高知城の前でお兄様と私に殺されていれば良かったのに……」
孝太郎はそれを聞いた瞬間に我を忘れてシャーロットへと飛び掛かっていく。
シャーロットは孝太郎の刀を受け止めるのと同時に歪んだ顔の笑顔を浮かべて、
「あー怒らせちゃいました?うっかりですね。私とした事がーー」
「黙れ、お前はもう姉貴の事にも、オレの前世の事にも、オレの仲間の事についても一切口を出すな。その穢らわしい舌でオレの大切なものを汚されるのかと思うと、吐き気がしちまうからよ」
「まぁ、汚いのね。レディには間違っても穢らわしいなどというものでは言うものではありませんわよ!」
シャーロットは乱暴に飛び掛かった孝太郎を弾き飛ばし、その衝撃で地面の上に転がった彼の喉元に向かって手に持っていた刀を突き付ける。
「さてと、これであなたはもう戦闘を継続する事が不可能ですね?どうです?穢らわしいと煽った相手に負ける気分は?どうです?格下の筈の女に負ける気分は?」
「格下?仮にも23世紀に生きていた人間がそんな前時代的な言葉を用いるとは思わなかったぜ、よっぽど、時代劇の時代に居過ぎたみてーだ」
「時代劇ですか?黒澤監督の作品ならば、何度かお兄様と拝見致しましたが、それ以外の例えばそうね……他にも日本における時代劇の巨匠と呼ばれる溝口監督や深作監督の時代劇はまだ未視聴でしたから、あなた方を始末して、もう一度現世に戻れたら、視聴してみるのもいいかもしれませんね」
目の前で刀を突き付けている女は前後の話が飲み込めないのだろうか。いや、それとも敢えて孝太郎の侮辱の言葉をスルーしたのだろうか。
恐らく後者の方だろう。エリートと誉高い男の妹なのだ。前時代的な価値観の持ち主という侮蔑の言葉には耐えられなかったのだろう。
事実、先程の台詞を発した後から、彼女は真っ直ぐに自分の喉に向かって突き立てようとしているのだから。
孝太郎が上の空で前世と今世の分の走馬灯を見ていると、刀を振り上げていた長い金髪の女が地面の上にゆっくりと倒れていくのが見えた。
そんな孝太郎の背後に見えるのはあの魔王の城で救った二人の兄妹。どうやら、背中に尖った石が刺さっている事から、あの二人が背後からシャーロットにこれを投げて助けてくれたらしい。
背後から駆けつけた二人は倒れていた孝太郎を助け起こすのと同時に、これまでの経緯を話していく。
「……そうか、前世の記憶が」
「あぁ、だから、オレとお萩いや、マルグリッドは忌々しいシリウスの奴を斬り殺すために戻ってきたのさ」
「シリウスとは決着を付けねばなりません。あの男の好き放題にしていれば、前世の世界と同様に無茶苦茶に、いや、もうなっているんでしたね」
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