シリウス・イントルーダー・ロード〜暗黒神に見染められた前作のラスボスは異世界で猛威を振るう〜

アンジェロ岩井

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パンゲール大陸攻略編

勇者パキラの決戦ーその⑩

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才蔵は素早くその場を離れるのと同時に宿屋に着くのと同時にフロントの人間に尋ねた後にお萩の止まっている部屋を尋ねて部屋の中に駆け込む。
そこでは椅子の上に座っている長い金髪の女性とそれに目線を合わせて尋問する前世の妻にして今世の妹の姿。
彼女は狭い部屋の中で忍び式のやり方でヴィクトリアを問い詰めていた。
時に鞭を、時に飴を用いたやり方は戦国の世においては忍びが敵の口を割る際に最も効果的なやり方とされており、捕まってしまえばいかに屈強な修練を積んだ忍びといえども吐いてしまう。
なので、捕まりそうになった時は自害をする様に言われていたという。
才蔵は応仁から元和の日本という国が戦乱に覆われた時代の記録をかつて里で読んだ事があり、それをお萩にも読ませていたから、今回、彼女の尋問が上手くいこうとしているのだろう。
最も、尋問を行なっている場所が甲賀の里ではないので今回は話術と僅かな手作りの道具のみを使用して椅子の上に座っている女から言葉を引き出そうとしているらしい。
才蔵は扉を閉め、扉のすぐ側の壁に背中を預けながら、尋問の様子を眺めていく。
すると、椅子に縛られた金髪の女性は泣き喚き、お萩に情報を喋っていく。
シリウスの征服のやり方、シリウスが城を落とすために使用した方法、そして彼がどの様に自分を甦らせたのかを。
わっと泣くヴィクトリアをお萩は優しく抱き締めた後に側に立っていたかつての師に頭を下げる。
「良い。情報は全て引き出せたらしいな。これをパキラや孝太郎に伝えれば良いな」
「ええ、私たちで一刻も早く行きましょう!」
お萩は短刀を構えたのだが、才蔵はそれを右手で静止させて、
「すまぬが、次の戦いは儂一人のみを行かせてもらえぬか?お主をもう戦いには巻き込みたくはーー」
「嫌ですッ!」
お萩の鋭い眼光が才蔵を射抜く。
「あなた様とは前世で契りを交わし、今世においては兄妹として同じ母から産まれた身ではありませぬか!なして、そのような事を申されますか!?」
お萩の言葉は正論だ。才蔵は思わずたじろいでしまう。今世においてはローレンスという名前であり、生まれも育ちも前世とは雲泥の差であるのだが、奇しくも前世の記憶を思い出し、夫婦兄妹という差はあれども、共に運命を共にする男女という事に変わりはあるまい。
加えて、お萩もあの甲賀の里の襲撃の夜に死に別れた時の様な未熟な忍びではない。
お萩を置いていくという意見に対し、これ程の反対意見が出た今、彼女を止める理由はただ一つしかない。
才蔵は椅子の上で両肩を落とし、ぶつぶつと呟いている金髪の女性を指差して、
「彼奴はどうするつもりじゃ?儂とお主の両名が行けば、あの女が逃げ出し、シリウスの奴に加担する可能性は高かろう?」
お萩は反論ができずにいる。と、言うのも才蔵の意見は的を射ているからだ。
両方のどちらかが行けば、確実にヴィクトリアは決戦の場に馳せ参じるだろう。
それだけは妨げなければなるまい。心苦しいが……。
才蔵かお萩のどちらかがその言葉を口にしようとする前に、その肝心のヴィクトリア本人が二人の前に現れ、不意を突いてお萩の持っていた短刀を奪う。
このまま反抗するのかと思って短刀を奪われたお萩は素手で身構え、才蔵は腰に下げていたサーベルに手を掛けたのだが、何とヴィクトリアは短刀を自らの腹に突き刺したのだ。
あまりの行動に思わず表情を曇らせる二人に対してヴィクトリアは弱々しい微笑
を浮かべて、
「これで最終決戦の場に行けますね?」
ヴィクトリアはもう一度微笑んだ後に自らの体を鞘にしている短刀を自らの手で引っこ抜き、それを地面の上に乱暴に落とす。
ヴィクトリアは腹を抑えながら、二人に向かってもう一度笑い掛ける。
「……私はあの男の部下となり、多くの人を不幸にし、殺しました。きっと、死後は地獄に行きます。いや、あのお方に生き返らせてもらった時点で私はもう既に地獄に堕ちていました。人を殺した廉によるものです」
切々と告白するヴィクトリア。彼女は瞳から透明な液体を溢しながら、
「あなた達二人の姿を見ていて思い出したんです。私とあの人との思い出を……」
息も絶え絶えに語る彼女をお萩は強く抱き締めて、
「もう良いッ!もう喋らないでください!それ以上、喋ったのなら、あなたの傷が……」
ヴィクトリアは首を横に振ってから、お萩の髪を優しく撫でて、
「マルグリッドさん。いえ、お萩さん……あなたは素晴らしい夫をお持ちですね。もし、あなた達二人と違う形で出会えていたのなら、私はもう少し楽だったと思います」
そう言ってマルグリッドは両目を閉じた。そして、その後に彼女が目を開ける事はもう無かった。
才蔵はヴィクトリアの亡骸を抱き抱えながら泣くお萩を暫く眺めた後に、黙って首を動かし、城へと伴う。
二人の忍びはヴィクトリアの死体を放置し、城へと向かって行く。
最後の決戦へと向かうために。












「己ッ!目障りなッ!」
シリウスは竜の腕を使用してパキラを振り払おうとしたのだが、パキラはその場から素早く離れるのと同時にシリウスの元へと斬りかかり、彼の神経を狭めていく。
竜の腕から伸びた鋭い爪で攻撃を防いだ少年をシリウスは忌々しい目で睨んでいた。
「邪魔なクソガキめッ!さっさとオレの前から消え去れ!」
「消えないッ!お前の罪を自覚させてお前を再び地獄へと送るまではッ!」
シリウスはギリギリと歯を噛み締めていく。目の前の少年は何を言っているのだろう。少年は何処までも纏わりつくつもりらしい。
まるで、明治の世にて自分の野望を邪魔したあの忌々しい鬼麿そのものではないか。
シリウスは改めて周囲の状況を確認する。先程の爆発で多くの被害を被り、皇帝は爆破の衝撃により死亡した筈だ。
他の二人は何とか生き残ってはいるが、代わりにジョージなる男が犠牲になったらしい。
シャーロットも霊蔵も生き残っており、瓦礫に覆われた城の中をあの忌々しい勇者の仲間と戦っている。
霊蔵はあの村で出会った少女と。シャーロットは前世にて因縁深い刑事と。
そして、自分は同じく前世にて自分の命を奪った忌々しい少年と似たような空気を纏っている少年と。
シリウスは少年の相手をする中で考えた。これでは竜王城での再現ではないかと。
あの城で自分も仲間も全滅し、結果として地獄へと堕ちた。
だが、あの世界と唯一違うのはあの世界では使えなかった魔法も今は使えるという事だ。シリウスは少年を確実に殺すべく、この世界で得た魔法を不意に使用する事に決めた。
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