シリウス・イントルーダー・ロード〜暗黒神に見染められた前作のラスボスは異世界で猛威を振るう〜

アンジェロ岩井

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パンゲール大陸攻略編

勇者パキラの決戦ーその⑧

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勇者パキラの一行とシリウスとその幹部とが城の中で激しい戦いを繰り広げているのと同時刻。
城の前に詰め寄った民衆たちは自分たちの指揮官代理であるかつてのもう一つの帝国の将軍にして、現在のシリウスの将軍であるラムジー・ホリスターに不満を次々にぶつけていた。
「我々はもう待てんッ!」
「そうだッ!一刻も早く討伐に乗り出し、忌々しい皇帝どもの首を刎ねてやらん事には気が済まん!」
先頭の二人の農民と思われる男二人が不満を口にしたのと同時に、周りの人間たちも次々に口を出して不満をぶつけていく。
だが、ホリスター将軍は黙って聞き流し、周りの民衆たちを宥めていく。
やむを得ずに彼らは黙りこくったのだが、ただ一人、もう片方の大陸から渡ってきたという少年だけは例外であり、背中に多くの矢を携えた美少年はホリスター将軍に向かって声を張り上げて言った。
「恐れながら申し上げますッ!今、ここに我らが馳せ参じたのは世界皇帝たる陛下からのご指示によるもの!それを何故にあなた様がここを指揮しておられるのか理由をお尋ねになりたい!」
少年の言葉に感化される様に周りの人々も同調していく。ホリスター将軍は自分が指揮官に任じられたからだと言ってやりたかったが、声を上げて激昂したのが最期。周りの聴衆たちの様子からそのまま殺されかねない状況である。
ホリスター将軍はなるべく平静を装って、大衆たちを宥める事にした。
「落ち着け、陛下からはこの場では軍を動かすなと言われておる。私はその指示を出しているだけでーー」
「そうですかッ!なら、我々は勝手にやらせてもらおう!皆のもの!良く聞けェ!我々は今より、単独で陛下のお助けに参る!我に続くものはーー」
「相変わらずですね。善弥……口の上手さだけは前世と変わらない様で何よりです」
ナルシーは慌てて背後を振り向こうとしたのだが、その前に彼は首を鋭利な刃物で斬られて死亡していた。
つまり、何かを言うよりも前に喉から血を拭き流して死んでしまったために、もうそれ以上の言葉を発する事は出来なくなったのである。
これがかつてシリウスが愛し、アールランドリー大陸にまたがる巨大帝国を攻略した一人の哀れな最期であった。
だが、一人の傷だらけの少女はそんな事に構う事なく、炎を纏わせた小刀を大衆たちに向かって振っていく。
「あ、ありゃあ、何だ?」
「わ、分からねぇ、けんど、ありゃあ、ただの刀じゃあねぇ、魔法を纏わせてんのか?」
「……魔法というのは些か違うな」
その言葉と共にもう一人の少年がそうして先端の農民の男を地面にねじ伏せ、その場に集まった農民たちに向かって大きな声で詰っていく。
「動くなッ!動けば此奴の命の無事は保証せん!お主らにまだ仲間を思う気持ちが残っているのであるのならば、その場に控えておれィ!」
少年の剣幕にその場に集まった市民達はたじろぎ、身を引いていく。
その傷だらけの少年の前にホリスター将軍は剣を振りながら迫ってくる。
「お前は何者だ?」
「才蔵……というのはかつての人生を生きた時の名前……儂の今の名はローレンスという。お主は?」
「才蔵?そう言えば少し前に霊蔵の奴から聞いたな。そんな名前の敵がいたと……」
才蔵は確信を得た。この世界にかつて自分たちの里を襲撃したシリウスの息が吹きかかっているのだ、と。
ならば、一刻も早く民衆たちをあの妖魔から解放せねばならぬ。
才蔵はそう決意を決めて両手で手に持っていた剣を構えてホリスター将軍と対峙していく。
大勢の人間に見守られながらも、ここに一対一の決闘が始まるのかと思われたのだが、才蔵は咄嗟に背後を振り向き、懐の中に隠し持っていた鋭く尖らせた木を放り投げる。
その木は背後の女の足を掠めたらしい。彼女は顔を微かに歪めていた。
ローレンス。いや、才蔵は大きな声で妹もといかつての世界の弟子兼妻に命令する。
「何をしておる!お萩ッ!奴の殺気も見抜けのんか!?」
その言葉を聞いてマルグリッドもといお萩は直ぐに頭を下げ、手に持っていた短刀を構えて現れた女性に向かっていく。
それを見たヴィクトリアはドレスの下に隠していた剣を取り出し、鞘から刃を取り出すのと同時にお萩の短剣を防ぎ、彼女にその刃の先端を突き付ける。
勢い良く突き付けたために、空を切る音がお萩の耳にも響いたのだが、彼女にとっては驚くべき事ではない。
彼女はかつての人生では忍びとしての道を歩んでいた。なので、目の前で空を切られたとしても動揺する気はない。
彼女は顔色ひとつ変える事なく、ヴィクトリアと剣を結ぶ。
才蔵はそれを見ると剣を構えて目の前の軍服を着た男と対峙していく。
かつての人生では大村大吾郎なる忍びに不覚を取ったのだが、あれは深夜の襲撃であり、尚且つお萩を庇うという目的があったからこそ、あの男に負けたのだ。
なので、恐らく実力であるのならば、大村大吾郎を優位に凌ぐ男を目の当たりにしたとしても、才蔵はたじろぐつもりはない。
彼はあの時に使えなかった妖魔術を使用し、ホリスターなる男を一気に葬り去る予定である。
才蔵はあの恐ろしい拷問を経た後に思い出した前世の記憶と同時に妖魔術と呼ばれる術を駆使すればホリスターを倒せると考えていた。
彼は忍刀の代わりに、西洋式の剣を携えていると不利さえもカバーできる自信があった。
彼はまず、剣を思いっきり背後へと振りかざし、同時にホリスターに目掛けて剣を振り上げる。
当然、ホリスターはその剣を交わす。そして、彼は読んでいた。この後にホリスターがどの様な方法を取るのかを。
そう、攻撃をした直後には必ず隙が生じるものである。そしてそれを狙って人を殺すだろう。
案の定、ホリスターは手に持っていたサーベルを構えて自身に振りかぶっているではないか。
才蔵はホリスターの方を振り向き、妖魔術の名を大きな声で唱える。
「……妖魔術、風神乱流!!」
同時に才蔵の持っていた剣に豪風が纏わり付き、ホリスターに動揺を与える。
勝った。才蔵は確信を持てたのだが、同時にホリスターが口元を緩める瞬間を目撃した瞬間に、忍びの本能が働き、咄嗟に剣を自分の元へと戻す。
そして、慌てて彼の元から転がり、彼の側から逃げ出す。
その才蔵の判断は正しいものだと直ぐに判断された。何故ならば、先程まで自分の立っていた場所に一本の剣が降ってきたからだ。
才蔵は思わず冷や汗を垂らす。あのまま刀を振っていたのならば、ホリスターを倒せたかもしれないが、自分までもが死んでしまう結果となってしまっていたであろう。
才蔵は目の前の老人の妖魔術の正体を推測していく。
恐らく、あの老人の妖魔術というのは遠くかのものを任意の場所に投げ飛ばすものに相違ない。
あくまでも今まで何処にも無かった剣が突如、飛んできたという理由を妖魔術で考えたのなら、こう結論付けたという推測に過ぎないか、才蔵には自分の考えには自信があった。
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