シリウス・イントルーダー・ロード〜暗黒神に見染められた前作のラスボスは異世界で猛威を振るう〜

アンジェロ岩井

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パンゲール大陸攻略編

勇者パキラの決戦ーその⑤

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シャーロットが革命の噂を耳にしたのはその日の夜の事である。
彼女はその日、日記を書く間も無くそのまま眠ろうとしていたのだが、そこに護衛隊長の男が急遽、扉を蹴破った事により、その試みは打破されてしまう。
顎の下に真っ白な顎髭を伸ばした老齢の護衛兵は息を切らしながら、彼女に向かって言った。
「恐れながら申し上げます!本日、我が帝国軍は帝国内に現れた魔王シリウスとその眷属である多くの軍勢、そしてそれに率いられた我が国の民衆と交戦致しました!皇帝陛下が仰られるのには直ぐにでも城に押し寄せる可能性がありますので、直ぐにでも避難をとの……」
シャーロットは冷たい視線で自分に向かって報告に訪れた男を見下ろす。
この時に万が一でも男が上げていたのならば、男は驚いたであろう。
何せ、自分の義理の父の国がこの様な状況になっているのにも関わらず、それがどうでも良いとでも告げんばかりの冷たい視線であったのだから。
勿論、シャーロットも頭を上げる前にその視線を引っ込め、代わりに庇護を求める愛玩動物の様に可愛らしい瞳を小隊長に向けて、
「そうなんですか……このままではお父様も、お母様も……私も……」
「陛下のご判断でございます。どうか、我らと共にお逃げあせばせくださいませ」
護衛の男が見上げた時に映っていたのは愛らしい少女の顔。彼はこの顔を信じた。だから、彼は無理にでも手を取って安全な場所へと逃がそうとしたのだが、彼女はその手を振り払って、
「何をなさいますの!私は皇帝ジェームズ2世の義理とはいえ娘ッ!誇り高き皇女ですわ!そんな私がここで逃げるとでも!?私も最期はお父様やお母様とご一緒致しますわ」
言葉の最後に敢えて弱々しい声を混ぜる事により、単純な年寄りは感銘を与える事には成功したらしい。
哀れな老人は感動のために両肩を震わせて彼女に敬礼を送った後に、短く首を縦に振り、彼女の意思を肯定に伝えるべく戻っていく。
シャーロットはそれを見送った後に自らの体を元の大人のサイズへと戻す。
それから、窓の外に広がる城の門の前に詰め寄る兵士たちの姿を眺めていく。
どうやら、彼らはシリウスの率いる魔界の軍勢と自分たちの民をもまとめて相手にするらしい。
だが、勝算は低い。いや、ゼロと言っても良いだろう。
シャーロットには確信があった。そもそも人間が魔物を相手に勝てる率自体が少ない上に数の上でも彼らは帝国軍を上回っている。
加えて、現場の指揮官は戦闘経験はあるものの全員が士官学校を出たばかりの新米である。
大勢の特殊部隊を率いて幾つもの要人やらテロリストやらの暗殺の指揮を成功させてきた兄からすれば彼らなど敵ではないに違いない。
そもそも、兄にはそれ以上の実力があるのだ。前世からの魔法、前世で得た竜王の力、そして今世で取得したこの世界の魔法。
あの軍隊だけでいっても敵うはずもない。シャーロットが口元を緩めてその光景を眺めていると、彼女は背後に気配を感じ、咄嗟に振り向く。
何と、そこにはヘラヘラとした顔を浮かべたあの忍者の顔。
彼は相変わらずの笑顔を浮かべながら、
「お久しゅうございますな。副頭領」
「お兄様から何か?」
シャーロットの言葉に霊蔵は軽く首を縦に動かして、
「勿論にございまする。頭領はもう片方の国を平らげるのと同時にこちらに現れて副頭領によりめちゃくちゃにされたこの国の民百姓を集め、城に攻め入る所存にございまする」
「それで私はどうすれば良いのかしら?」
シャーロットは鋭い視線で霊蔵を睨む。だが、相変わらずの薄気味の悪い男はヘラヘラとした笑顔を浮かべながら、
「あなた様にはこの城を内部から破壊していただきとうございます。可能ならば、皇帝の首も取ってーー」
「この事態を招いた皇帝の愛娘、アリスの存在はどうなるの?」
「なぁに、心配はいりませぬ。アリスなど瓦礫に埋もれて行方不明……それが頭領の筋書きでございますよ」
流石はお兄様。と、シャーロットは両眉を上げて隠す事もなく兄を褒め称えていく。
シャーロットは霊蔵から実行のタイミングと方法を尋ね、彼女は最後に実行に必要なものを霊蔵から受け取り、自身の魔法とし使える亜空間の武器庫の中へと仕舞っていく。
結果から言えばその日が来るのは予想よりも早かった。霊蔵が現れた僅か二日後に、甲冑を身に纏ったスケルトンに、火を吹く黒色の竜。
そして、それらの怪物を指揮し、背後に農具を武器代わりに携えた農民を従える兄の姿が城の下に見えたのだ。
帝国の兵が怯えるのも無理はあるまい。どうやら、決着はこちらの方に傾いたらしい。
シャーロットは擬態である幼子の姿を脱ぎ捨てた後に、部屋に隠してあった軍服に着替え、それから、亜空間の武器庫から一本のサーベルを取り出す。
次に霊蔵から受け取った物を亜空間の武器庫から出そうとした時だ。
勢いよく扉が開き、彼女の両眼にすっかりと怯え切った表情の義母の姿が映る。
ドレスが乱れている様子と息を切らした様子から愛娘に今度こそ逃げる様に伝えにきたのだろう。
だが、目の前に見知らぬ成人の女性が立っていた事に恐怖したに違いない。
彼女は人差し指を震わせて、
「あ、あなたは誰なの?アリスを……私たちの娘を何処へやったの?」
それを聞いて口元の右端を吊り上げるシャーロット。
彼女は優しい笑顔を浮かべて、
「嫌ですわ。お母様……私の顔をお忘れになったのですか?」
シャーロットは擬態時と同じ声を出して彼女に動揺を与えた。
かつての義母は大きな悲鳴を上げながら、出口へと向かっていく。
「キャァァァァ~!!誰か!誰か!助けてェェェェ~!!!この女に殺されるゥゥゥゥゥ~!!!!」
義母は慌てて逃げようとしたのだが、シャーロットが彼女の首を斬り落とす方が早かったらしい。
婦人の首がゴロリと絨毯の上に転げ落ち、その地を血で染めていく。
シャーロットはそれを見て大きな声で笑って剣を携えて城内の残る守備兵たちを片付けて行く。
彼女からすれば単調極まりない退屈な作業であったのだが、これも兄を迎え入れるための大事な行事だと思うと不思議な事に心苦しくはない。
彼女は笑いながら殺戮を続けていく。この不思議な高揚感が収まらないうちに兄が来て欲しい。
彼女は切実に願った。
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