シリウス・イントルーダー・ロード〜暗黒神に見染められた前作のラスボスは異世界で猛威を振るう〜

アンジェロ岩井

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パンゲール大陸攻略編

勇者パキラの決戦ーその④

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シリウスは帝都に集まった民衆たちを広場に集め、眩いばかりの朝日に照らされながらも、彼はその眩しさに目蓋を閉じる事さえせずに、大袈裟な身振り手振りを交えての演説を行なっていく。
その側にいるのはラムジー・ホリスターとヴィクトリア・オランプの二名。
シリウスはこの二人の部下を無能な皇帝から離反した勇気のある部下だと褒め称え、彼の人徳の無さを象徴するために度々、演説の中に二人を登場させていた。
皇帝非難と世界皇帝による統治の話を長々と話した後にシリウスは即位式の日程を伝えたのだが、そこに聴衆の一人が広場の大きな演説台の上の新しい統治者に問い掛けた。
「あの、陛下……即位式とやらも結構なんですが、我々としては前の皇帝が死んだ証拠がねぇとあんたを新しい統治者としては認めたくはーー」
「何?」
シリウスは男の言葉が分からなかった。シリウスからすれば国民を政治へと関心を向けさせないための「パンとサーカス」の事については問題なく語ったつもりであるのだが、それさえも不満なのだろうか。
そもそも、行政にしろ教育にしろ全ての問題点への改善策を述べ、侵略後の統治は語っているのに、それでもまだ求めているつもりなのだろうか。
この愚民どもという言葉を飲み込み、シリウスは不機嫌そうな声で、
「案ずる事は無いぞ、皇帝の死は確かにオレが見届けておる。お主らが気にする事はない」
「でもーー」
「くどいッ!これ以上、オレを疑うつもりか?貴様ら……嫌ならば嫌で結構ッ!ただし、お前たちにはこの国を出ていってもらわねばならぬ!」
シリウスのあまりにも横暴な主張に聴衆たちの間で噂話が囁く。
新皇帝となったシリウスは暫くの間、無能な民衆たちの不満を耳にしながらも、結論が出るのを辛抱強く待つ。
そして、ざわつく声が鳴り止むのと同時に、シリウスは抑揚のあるハッキリとした声で、
「今回の戦いで無能な皇帝を殺し、皇帝の血を根絶やしにさせてのは全て余と我々とが協力し、忌々しい帝国とその眷属である中部の国々の軍団を撃ち破ったからだッ!中部は通り抜けたであるが、後はルーベルラントを含む北部を全て陥落させれば、中部も我が手に持ちる……全ての世界がオレのものになる!」
シリウスはそう言い切るのと同時に演説を締め括り、ホリスターを新たに将軍に任じ、今回の戦いで功績のあった人間を表彰させ、軍の内部に高官として用いる様に指示を出す。
表彰台の上で指揮を行うホリスター将軍を置いて彼はヴィクトリアと共に城へと向かっていた。
城までの道中を彼は一応は歓待を持って送られていたのだが、その声や表情の何処かに陰りがあった事をシリウスは感じ取った。
恐らく、先程の演説の後の言葉で彼らは恐怖したのだろう。
だが、彼にとってそんな事は関心持つべき出来事などではない。
彼にとっての一番の関心とも言える出来事は即位式に関する事ばかりであった。
アールランドリー大陸を手中に収め、今やこの大陸における敵は滅びるのが時間の問題と化したルーベルラント帝国と殆ど力などない中部の諸国のみ。
最早、世界はシリウスの手に落ちたのも同然である。
23世紀の日本でも、いや、明治の日本でもこれ程の成果を誇る事は無かったであろう。
シリウスはここまで計画が上手くいった事を悟り、大きな声で笑っていく。
まさに絶頂の展開にあったと言っても良いだろう。だが、その絶頂は背後について来ていたヴィクトリアの声により遮られてしまう。
「陛下……この国に残った大量の兵士たちについてはどうなさいますか?ホリスター将軍の提案としては彼らを新たな部隊として再編成してーー」
「埋めろ」
ヴィクトリアの足が止まる。そして、もう一度シリウスに向かって聞き返す。
「陛下、今なんと?」
「埋めろと言うたのだ。全てを土へと還せ」
ヴィクトリアは生唾を飲み込む。それでも彼女は果敢にも反論を試みたのだが、シリウスの全身から発せられる威圧、そして有無を言うのは許さんと言わんばかりの尊大な表情が彼女の口から言葉が出るのを阻む。
ヴィクトリアはやむを得ずに押し黙り、シリウスに続いて歩いていく。











「陛下!恐れながら申し上げます!隣国のディスペランサー=ディングル帝国が世界皇帝を名乗るシリウスの手に落ちました!いよいよ、奴らはこの国に乗り込んでくるやもしれません!」
伝令の男の言葉にジェームズ2世は思わず顔を引きつらせていた。初めて、シリウスの動きを聞いた時からそうであるのだが、この男の存在が不気味に感じて仕方がない。これ程の短期間で殆どの国を落とし、手中に収めた程の男ともなれば尚更であろう。
いよいよこの男の世界皇帝なる標語が現実味を帯びて来ている気がする。
ジェームズ二世は国境の警備を固める事と防衛費増額のための税金の値上げを厳命し、報告に訪れた使者を下がらせていく。
その後は面会である。何と、帝国が落ちたその日、運良く城を空けており、そのままルーベルラントへと亡命したかつての帝国の忠臣である二人の男である。
オスカーという名前ともう一人と居たのだが、生憎ものぐさな皇帝は思い出せないらしい。
ジェームズ二世は二人を召し抱える事を言うと二人を下がらせ、配下の男にワインを運ぶ様に指示を出す。
アリスもといシャーロット・A・ペンドラゴンはそれを侮蔑の表情を持って眺めていた。
あれが皇帝たる人間の行動なのだろうか。確かに考えるために一杯だけというのならば良いだろう。
兄だってそれくらいはするかもしれない。だが、あの男の場合は適度な頻度で酒を飲んでいるのだ。
シャーロットは自分が彼の娘として潜入していた間、それを何度も見ていたのだ。
加えて定期的に行われる派手な舞踏会ダンスパーティーや園遊会。
これ程までの事をしておいて、自分の身が危うくなると感じると直ぐに防備を固めていく。
この様な男は道具としても役に立たないだろうから、直ぐに殺してしまうのが得策であろう。
シャーロットは兄への進言をそう心の中に書き留めた後にもう一度子供らしい無邪気な笑顔を浮かべて身を潜めていた柱から玉座の養父の元へと駆け寄っていく。
例え侮蔑に値すると判断する男でも、今は媚びてやろうではないか。それが、他ならぬ兄の頼みなのだから。
シャーロットは満面の笑みを浮かべて玉座の上に座る。養父に取り入っていく。
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