76 / 99
パンゲール大陸攻略編
勇者パキラの決戦ーその④
しおりを挟む
シリウスは帝都に集まった民衆たちを広場に集め、眩いばかりの朝日に照らされながらも、彼はその眩しさに目蓋を閉じる事さえせずに、大袈裟な身振り手振りを交えての演説を行なっていく。
その側にいるのはラムジー・ホリスターとヴィクトリア・オランプの二名。
シリウスはこの二人の部下を無能な皇帝から離反した勇気のある部下だと褒め称え、彼の人徳の無さを象徴するために度々、演説の中に二人を登場させていた。
皇帝非難と世界皇帝による統治の話を長々と話した後にシリウスは即位式の日程を伝えたのだが、そこに聴衆の一人が広場の大きな演説台の上の新しい統治者に問い掛けた。
「あの、陛下……即位式とやらも結構なんですが、我々としては前の皇帝が死んだ証拠がねぇとあんたを新しい統治者としては認めたくはーー」
「何?」
シリウスは男の言葉が分からなかった。シリウスからすれば国民を政治へと関心を向けさせないための「パンとサーカス」の事については問題なく語ったつもりであるのだが、それさえも不満なのだろうか。
そもそも、行政にしろ教育にしろ全ての問題点への改善策を述べ、侵略後の統治は語っているのに、それでもまだ求めているつもりなのだろうか。
この愚民どもという言葉を飲み込み、シリウスは不機嫌そうな声で、
「案ずる事は無いぞ、皇帝の死は確かにオレが見届けておる。お主らが気にする事はない」
「でもーー」
「くどいッ!これ以上、オレを疑うつもりか?貴様ら……嫌ならば嫌で結構ッ!ただし、お前たちにはこの国を出ていってもらわねばならぬ!」
シリウスのあまりにも横暴な主張に聴衆たちの間で噂話が囁く。
新皇帝となったシリウスは暫くの間、無能な民衆たちの不満を耳にしながらも、結論が出るのを辛抱強く待つ。
そして、ざわつく声が鳴り止むのと同時に、シリウスは抑揚のあるハッキリとした声で、
「今回の戦いで無能な皇帝を殺し、皇帝の血を根絶やしにさせてのは全て余と我々とが協力し、忌々しい帝国とその眷属である中部の国々の軍団を撃ち破ったからだッ!中部は通り抜けたであるが、後はルーベルラントを含む北部を全て陥落させれば、中部も我が手に持ちる……全ての世界がオレのものになる!」
シリウスはそう言い切るのと同時に演説を締め括り、ホリスターを新たに将軍に任じ、今回の戦いで功績のあった人間を表彰させ、軍の内部に高官として用いる様に指示を出す。
表彰台の上で指揮を行うホリスター将軍を置いて彼はヴィクトリアと共に城へと向かっていた。
城までの道中を彼は一応は歓待を持って送られていたのだが、その声や表情の何処かに陰りがあった事をシリウスは感じ取った。
恐らく、先程の演説の後の言葉で彼らは恐怖したのだろう。
だが、彼にとってそんな事は関心持つべき出来事などではない。
彼にとっての一番の関心とも言える出来事は即位式に関する事ばかりであった。
アールランドリー大陸を手中に収め、今やこの大陸における敵は滅びるのが時間の問題と化したルーベルラント帝国と殆ど力などない中部の諸国のみ。
最早、世界はシリウスの手に落ちたのも同然である。
23世紀の日本でも、いや、明治の日本でもこれ程の成果を誇る事は無かったであろう。
シリウスはここまで計画が上手くいった事を悟り、大きな声で笑っていく。
まさに絶頂の展開にあったと言っても良いだろう。だが、その絶頂は背後について来ていたヴィクトリアの声により遮られてしまう。
「陛下……この国に残った大量の兵士たちについてはどうなさいますか?ホリスター将軍の提案としては彼らを新たな部隊として再編成してーー」
「埋めろ」
ヴィクトリアの足が止まる。そして、もう一度シリウスに向かって聞き返す。
「陛下、今なんと?」
「埋めろと言うたのだ。全てを土へと還せ」
ヴィクトリアは生唾を飲み込む。それでも彼女は果敢にも反論を試みたのだが、シリウスの全身から発せられる威圧、そして有無を言うのは許さんと言わんばかりの尊大な表情が彼女の口から言葉が出るのを阻む。
ヴィクトリアはやむを得ずに押し黙り、シリウスに続いて歩いていく。
「陛下!恐れながら申し上げます!隣国のディスペランサー=ディングル帝国が世界皇帝を名乗るシリウスの手に落ちました!いよいよ、奴らはこの国に乗り込んでくるやもしれません!」
伝令の男の言葉にジェームズ2世は思わず顔を引きつらせていた。初めて、シリウスの動きを聞いた時からそうであるのだが、この男の存在が不気味に感じて仕方がない。これ程の短期間で殆どの国を落とし、手中に収めた程の男ともなれば尚更であろう。
いよいよこの男の世界皇帝なる標語が現実味を帯びて来ている気がする。
ジェームズ二世は国境の警備を固める事と防衛費増額のための税金の値上げを厳命し、報告に訪れた使者を下がらせていく。
その後は面会である。何と、帝国が落ちたその日、運良く城を空けており、そのままルーベルラントへと亡命したかつての帝国の忠臣である二人の男である。
オスカーという名前ともう一人と居たのだが、生憎ものぐさな皇帝は思い出せないらしい。
ジェームズ二世は二人を召し抱える事を言うと二人を下がらせ、配下の男にワインを運ぶ様に指示を出す。
アリスもといシャーロット・A・ペンドラゴンはそれを侮蔑の表情を持って眺めていた。
あれが皇帝たる人間の行動なのだろうか。確かに考えるために一杯だけというのならば良いだろう。
兄だってそれくらいはするかもしれない。だが、あの男の場合は適度な頻度で酒を飲んでいるのだ。
シャーロットは自分が彼の娘として潜入していた間、それを何度も見ていたのだ。
加えて定期的に行われる派手な舞踏会や園遊会。
これ程までの事をしておいて、自分の身が危うくなると感じると直ぐに防備を固めていく。
この様な男は道具としても役に立たないだろうから、直ぐに殺してしまうのが得策であろう。
シャーロットは兄への進言をそう心の中に書き留めた後にもう一度子供らしい無邪気な笑顔を浮かべて身を潜めていた柱から玉座の養父の元へと駆け寄っていく。
例え侮蔑に値すると判断する男でも、今は媚びてやろうではないか。それが、他ならぬ兄の頼みなのだから。
シャーロットは満面の笑みを浮かべて玉座の上に座る。養父に取り入っていく。
その側にいるのはラムジー・ホリスターとヴィクトリア・オランプの二名。
シリウスはこの二人の部下を無能な皇帝から離反した勇気のある部下だと褒め称え、彼の人徳の無さを象徴するために度々、演説の中に二人を登場させていた。
皇帝非難と世界皇帝による統治の話を長々と話した後にシリウスは即位式の日程を伝えたのだが、そこに聴衆の一人が広場の大きな演説台の上の新しい統治者に問い掛けた。
「あの、陛下……即位式とやらも結構なんですが、我々としては前の皇帝が死んだ証拠がねぇとあんたを新しい統治者としては認めたくはーー」
「何?」
シリウスは男の言葉が分からなかった。シリウスからすれば国民を政治へと関心を向けさせないための「パンとサーカス」の事については問題なく語ったつもりであるのだが、それさえも不満なのだろうか。
そもそも、行政にしろ教育にしろ全ての問題点への改善策を述べ、侵略後の統治は語っているのに、それでもまだ求めているつもりなのだろうか。
この愚民どもという言葉を飲み込み、シリウスは不機嫌そうな声で、
「案ずる事は無いぞ、皇帝の死は確かにオレが見届けておる。お主らが気にする事はない」
「でもーー」
「くどいッ!これ以上、オレを疑うつもりか?貴様ら……嫌ならば嫌で結構ッ!ただし、お前たちにはこの国を出ていってもらわねばならぬ!」
シリウスのあまりにも横暴な主張に聴衆たちの間で噂話が囁く。
新皇帝となったシリウスは暫くの間、無能な民衆たちの不満を耳にしながらも、結論が出るのを辛抱強く待つ。
そして、ざわつく声が鳴り止むのと同時に、シリウスは抑揚のあるハッキリとした声で、
「今回の戦いで無能な皇帝を殺し、皇帝の血を根絶やしにさせてのは全て余と我々とが協力し、忌々しい帝国とその眷属である中部の国々の軍団を撃ち破ったからだッ!中部は通り抜けたであるが、後はルーベルラントを含む北部を全て陥落させれば、中部も我が手に持ちる……全ての世界がオレのものになる!」
シリウスはそう言い切るのと同時に演説を締め括り、ホリスターを新たに将軍に任じ、今回の戦いで功績のあった人間を表彰させ、軍の内部に高官として用いる様に指示を出す。
表彰台の上で指揮を行うホリスター将軍を置いて彼はヴィクトリアと共に城へと向かっていた。
城までの道中を彼は一応は歓待を持って送られていたのだが、その声や表情の何処かに陰りがあった事をシリウスは感じ取った。
恐らく、先程の演説の後の言葉で彼らは恐怖したのだろう。
だが、彼にとってそんな事は関心持つべき出来事などではない。
彼にとっての一番の関心とも言える出来事は即位式に関する事ばかりであった。
アールランドリー大陸を手中に収め、今やこの大陸における敵は滅びるのが時間の問題と化したルーベルラント帝国と殆ど力などない中部の諸国のみ。
最早、世界はシリウスの手に落ちたのも同然である。
23世紀の日本でも、いや、明治の日本でもこれ程の成果を誇る事は無かったであろう。
シリウスはここまで計画が上手くいった事を悟り、大きな声で笑っていく。
まさに絶頂の展開にあったと言っても良いだろう。だが、その絶頂は背後について来ていたヴィクトリアの声により遮られてしまう。
「陛下……この国に残った大量の兵士たちについてはどうなさいますか?ホリスター将軍の提案としては彼らを新たな部隊として再編成してーー」
「埋めろ」
ヴィクトリアの足が止まる。そして、もう一度シリウスに向かって聞き返す。
「陛下、今なんと?」
「埋めろと言うたのだ。全てを土へと還せ」
ヴィクトリアは生唾を飲み込む。それでも彼女は果敢にも反論を試みたのだが、シリウスの全身から発せられる威圧、そして有無を言うのは許さんと言わんばかりの尊大な表情が彼女の口から言葉が出るのを阻む。
ヴィクトリアはやむを得ずに押し黙り、シリウスに続いて歩いていく。
「陛下!恐れながら申し上げます!隣国のディスペランサー=ディングル帝国が世界皇帝を名乗るシリウスの手に落ちました!いよいよ、奴らはこの国に乗り込んでくるやもしれません!」
伝令の男の言葉にジェームズ2世は思わず顔を引きつらせていた。初めて、シリウスの動きを聞いた時からそうであるのだが、この男の存在が不気味に感じて仕方がない。これ程の短期間で殆どの国を落とし、手中に収めた程の男ともなれば尚更であろう。
いよいよこの男の世界皇帝なる標語が現実味を帯びて来ている気がする。
ジェームズ二世は国境の警備を固める事と防衛費増額のための税金の値上げを厳命し、報告に訪れた使者を下がらせていく。
その後は面会である。何と、帝国が落ちたその日、運良く城を空けており、そのままルーベルラントへと亡命したかつての帝国の忠臣である二人の男である。
オスカーという名前ともう一人と居たのだが、生憎ものぐさな皇帝は思い出せないらしい。
ジェームズ二世は二人を召し抱える事を言うと二人を下がらせ、配下の男にワインを運ぶ様に指示を出す。
アリスもといシャーロット・A・ペンドラゴンはそれを侮蔑の表情を持って眺めていた。
あれが皇帝たる人間の行動なのだろうか。確かに考えるために一杯だけというのならば良いだろう。
兄だってそれくらいはするかもしれない。だが、あの男の場合は適度な頻度で酒を飲んでいるのだ。
シャーロットは自分が彼の娘として潜入していた間、それを何度も見ていたのだ。
加えて定期的に行われる派手な舞踏会や園遊会。
これ程までの事をしておいて、自分の身が危うくなると感じると直ぐに防備を固めていく。
この様な男は道具としても役に立たないだろうから、直ぐに殺してしまうのが得策であろう。
シャーロットは兄への進言をそう心の中に書き留めた後にもう一度子供らしい無邪気な笑顔を浮かべて身を潜めていた柱から玉座の養父の元へと駆け寄っていく。
例え侮蔑に値すると判断する男でも、今は媚びてやろうではないか。それが、他ならぬ兄の頼みなのだから。
シャーロットは満面の笑みを浮かべて玉座の上に座る。養父に取り入っていく。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる