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パンゲール大陸攻略編
ライジアの反逆
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ライジアが一応は魔王の地位に就いてから何年の時が経つのだろう。彼女は頑張っていたのだが、どうやら、運は味方してくれなかったらしい。
彼女はただお飾りとしてシリウスの言う事を聞いて、国民に向かって手を振ったり、様々な場所を視察すれば良いだけであった。それ以外の時は本を読んで過ごすある意味、理想的とも言える生活であったのだが、彼女の中でお飾りとして過ごすのではなく、実際に権力を持ち統治したいと考えるようになったのはいつの頃の話なのだろう。
いや、そんな事を語るのはお角違いと言うべきかもしれない。
少なくとも、彼女と執事のインフエットの両名はお飾りの魔王として就任した時から、権力を持つのに意欲的であったのだから。
最初、インフエットがシリウスに命令して、中部と北部の国々と講和を結ばさせるという計画には反対であったが、インファットは彼女の手を握って力強い口調で彼女を説得していく。
「しっかりしてくださいませ!あなた様は魔界における初の女性魔王なのです!シリウス如き悪臣の好き勝手を許しておけば、あなた様の権威が廃れてしまいまする!」
その言葉にライジアは思わずハッとなってしまう。
そして、真剣な顔でライジア自身の手による政治を訴える彼女の目を見て、確信を得る。
だから、今日、シリウスが転移魔法で玉座に移動してきた直後を狙い、彼に向かって命令を下したのだった。
表では魔王としての威勢を出していたものの、内心ではシリウスがその場で自分を殺すのではないのかと危惧していた彼女であったが、幸いにもそんな事はなく、シリウスは頭を縦に振って命令を受諾してくれた。
その事に安堵して、部屋の中で溜息を吐きていると、扉をノックする音が聞こえた。
インフエットの刺を帯びた入室許可を貰って入って来たのは満面の笑みを浮かべた降魔霊蔵。
どうやら、彼は両手で紅茶と砂糖壺とミルクの入った小瓶の載ったお盆を押しているらしい。
彼は部屋の中に到着するのと同時に、お盆の中に置いてあった紅茶を手に取って、彼女に渡す。
「どうぞ、魔王様。頭領からの差し入れでございます。何でも、頭領は本日の事が余程、胸に染みたらしく、少しでも我が主にお詫びをしたいと、頭領一の部下である儂に茶を運べと命じられたのでございまする」
霊蔵はそう言って、ライジアに紅茶を差し出すのだが、彼女は慇懃な目を浮かべて受け取ろうとはしない。
それどころか、彼自身を人差し指で指して、
「あなたがこのお茶を飲んで、味を確かめなさい」
ライジアは察した。シリウスがここで自分を殺すつもりなのだと。
そうで無ければ、自分の一番の部下をわざわざ自分の部屋に寄越したりはしないだろう。
ここで、ライジアは霊蔵が恐れ慄き、逆上するかと思われたのだが、彼はニコニコとした笑顔を浮かべて、
「これは失礼致しました!魔王様のお飲みになる飲み物に毒味もせずに渡すなどと、この降魔霊蔵、一生の不覚でござる!」
そう言って、わざとらしく頭を叩いた彼は躊躇う事なく一気に紅茶を飲み干す。
インフエットは彼が本当は飲んでいないのかと嫌疑の目を向けたのだが、液体が喉を通るのを見届けて、彼が本当に飲んだ事を知った。
それから、彼はいつもと同じニヤニヤとした笑顔を浮かべて、
「さぁ、これで満足されたかな?なぁに、これは頭領からのお心遣いでござる!何も、遠慮する事はありませぬ!さぁ!さぁ!」
インフエットは確信した。彼は表面上は忠臣を装い、自発的に飲ませようとしているものの、この言葉には強制力があると。
やむを得ずに、インフエットは砂糖やらミルクを入れて少しでも主人がそれを口にする時間を遅くしようと試みる。
だが、目の前にいる柿色の服を着た得体の知れない男は部屋からは意地でも退こうとはしない。
インフエットの頭の中では霊蔵が裏をかき、先に無毒の紅茶を渡し、後に毒の入っていた紅茶を渡したのだと推測していた。
恐らく、砂糖やら、ミルクやらもそれを怪しませないためのカモフラージュに違いない。
元から紅茶に入っていた毒は砂糖やミルクで薄まるものでは無いだろう。
そもそも、インフエットの知る限りではミルクや砂糖で薄まるのは濃い味の紅茶だけだ。
砂糖を入れ、ミルクで白く染まった紅茶は一見すると、甘くライジア好みの紅茶であったのだが、この中に予め毒が仕込まれていると思うと、インフエットには美味しそうには見えない。それは、自分の主人も例外では無いらしく、気不味そうな笑みを浮かべて、自分が飲むべき白く染まった紅茶を眺めていた。
インフエットはライジアにこの紅茶を渡す前に、地面に中身をぶち撒けようとも考えたが、霊蔵がシリウスの元に駆け出しに向かったのならば、意味は無さない。
恐らく、あの男は自らの手でライジアを殺すに違いない。
インフエットは覚悟を決めて、紅茶を素早く飲み干す。
霊蔵は信じられないと言わんばかりの目を向け、ライジアは両眼から透明の液体を溢しながら叫ぶ。
「インフエット!お願い!お願いだから、それを吐き出して!」
だが、インフエットの脳にはライジアの言葉など届かない。
彼女はただ乱暴にライジアを突き飛ばし、逃げるように叫ぶ。
ライジアは彼女の声に諭されるままに、涙を拭ってその場を逃げ出す。
霊蔵は慌てて彼女の後を追おうとしたが、その彼の右脚にインフエットが縋り付いた事に彼はその場から動けなくなってしまう。
「己ッ!離せッ!離さぬか!」
霊蔵は縋り付く彼女を足蹴にしようとするが、彼女はそれでも最後の力を振り絞って霊蔵が部屋から出ようとするのを防ぐ。
「離さないさ……お嬢様は、お嬢様は偽りの魔界の王からその地位を取り戻し、正当な女魔王として即位されるお方なんだ……」
「己、邪魔立てをするでないッ! 」
霊蔵は懐からクナイと呼ばれる先端の尖ったナイフのような武器を取り出し、縋り付く彼女の脳天に向かって勢い良く突き刺す。
クナイを頭に喰らったインフエットは絶命してしまったのだが、彼女の残した意思は思ったよりも凄まじいものであったらしい。
霊蔵は慌てて部屋から出たライジアを追ったのだが、彼女の姿はとっくに消えて無くなっている。
どうやら、あの足で遠くにまで逃げたらしい。
霊蔵は歯を軋ませながら、目の前に広がる魔界の城の闇を睨む。
彼女はただお飾りとしてシリウスの言う事を聞いて、国民に向かって手を振ったり、様々な場所を視察すれば良いだけであった。それ以外の時は本を読んで過ごすある意味、理想的とも言える生活であったのだが、彼女の中でお飾りとして過ごすのではなく、実際に権力を持ち統治したいと考えるようになったのはいつの頃の話なのだろう。
いや、そんな事を語るのはお角違いと言うべきかもしれない。
少なくとも、彼女と執事のインフエットの両名はお飾りの魔王として就任した時から、権力を持つのに意欲的であったのだから。
最初、インフエットがシリウスに命令して、中部と北部の国々と講和を結ばさせるという計画には反対であったが、インファットは彼女の手を握って力強い口調で彼女を説得していく。
「しっかりしてくださいませ!あなた様は魔界における初の女性魔王なのです!シリウス如き悪臣の好き勝手を許しておけば、あなた様の権威が廃れてしまいまする!」
その言葉にライジアは思わずハッとなってしまう。
そして、真剣な顔でライジア自身の手による政治を訴える彼女の目を見て、確信を得る。
だから、今日、シリウスが転移魔法で玉座に移動してきた直後を狙い、彼に向かって命令を下したのだった。
表では魔王としての威勢を出していたものの、内心ではシリウスがその場で自分を殺すのではないのかと危惧していた彼女であったが、幸いにもそんな事はなく、シリウスは頭を縦に振って命令を受諾してくれた。
その事に安堵して、部屋の中で溜息を吐きていると、扉をノックする音が聞こえた。
インフエットの刺を帯びた入室許可を貰って入って来たのは満面の笑みを浮かべた降魔霊蔵。
どうやら、彼は両手で紅茶と砂糖壺とミルクの入った小瓶の載ったお盆を押しているらしい。
彼は部屋の中に到着するのと同時に、お盆の中に置いてあった紅茶を手に取って、彼女に渡す。
「どうぞ、魔王様。頭領からの差し入れでございます。何でも、頭領は本日の事が余程、胸に染みたらしく、少しでも我が主にお詫びをしたいと、頭領一の部下である儂に茶を運べと命じられたのでございまする」
霊蔵はそう言って、ライジアに紅茶を差し出すのだが、彼女は慇懃な目を浮かべて受け取ろうとはしない。
それどころか、彼自身を人差し指で指して、
「あなたがこのお茶を飲んで、味を確かめなさい」
ライジアは察した。シリウスがここで自分を殺すつもりなのだと。
そうで無ければ、自分の一番の部下をわざわざ自分の部屋に寄越したりはしないだろう。
ここで、ライジアは霊蔵が恐れ慄き、逆上するかと思われたのだが、彼はニコニコとした笑顔を浮かべて、
「これは失礼致しました!魔王様のお飲みになる飲み物に毒味もせずに渡すなどと、この降魔霊蔵、一生の不覚でござる!」
そう言って、わざとらしく頭を叩いた彼は躊躇う事なく一気に紅茶を飲み干す。
インフエットは彼が本当は飲んでいないのかと嫌疑の目を向けたのだが、液体が喉を通るのを見届けて、彼が本当に飲んだ事を知った。
それから、彼はいつもと同じニヤニヤとした笑顔を浮かべて、
「さぁ、これで満足されたかな?なぁに、これは頭領からのお心遣いでござる!何も、遠慮する事はありませぬ!さぁ!さぁ!」
インフエットは確信した。彼は表面上は忠臣を装い、自発的に飲ませようとしているものの、この言葉には強制力があると。
やむを得ずに、インフエットは砂糖やらミルクを入れて少しでも主人がそれを口にする時間を遅くしようと試みる。
だが、目の前にいる柿色の服を着た得体の知れない男は部屋からは意地でも退こうとはしない。
インフエットの頭の中では霊蔵が裏をかき、先に無毒の紅茶を渡し、後に毒の入っていた紅茶を渡したのだと推測していた。
恐らく、砂糖やら、ミルクやらもそれを怪しませないためのカモフラージュに違いない。
元から紅茶に入っていた毒は砂糖やミルクで薄まるものでは無いだろう。
そもそも、インフエットの知る限りではミルクや砂糖で薄まるのは濃い味の紅茶だけだ。
砂糖を入れ、ミルクで白く染まった紅茶は一見すると、甘くライジア好みの紅茶であったのだが、この中に予め毒が仕込まれていると思うと、インフエットには美味しそうには見えない。それは、自分の主人も例外では無いらしく、気不味そうな笑みを浮かべて、自分が飲むべき白く染まった紅茶を眺めていた。
インフエットはライジアにこの紅茶を渡す前に、地面に中身をぶち撒けようとも考えたが、霊蔵がシリウスの元に駆け出しに向かったのならば、意味は無さない。
恐らく、あの男は自らの手でライジアを殺すに違いない。
インフエットは覚悟を決めて、紅茶を素早く飲み干す。
霊蔵は信じられないと言わんばかりの目を向け、ライジアは両眼から透明の液体を溢しながら叫ぶ。
「インフエット!お願い!お願いだから、それを吐き出して!」
だが、インフエットの脳にはライジアの言葉など届かない。
彼女はただ乱暴にライジアを突き飛ばし、逃げるように叫ぶ。
ライジアは彼女の声に諭されるままに、涙を拭ってその場を逃げ出す。
霊蔵は慌てて彼女の後を追おうとしたが、その彼の右脚にインフエットが縋り付いた事に彼はその場から動けなくなってしまう。
「己ッ!離せッ!離さぬか!」
霊蔵は縋り付く彼女を足蹴にしようとするが、彼女はそれでも最後の力を振り絞って霊蔵が部屋から出ようとするのを防ぐ。
「離さないさ……お嬢様は、お嬢様は偽りの魔界の王からその地位を取り戻し、正当な女魔王として即位されるお方なんだ……」
「己、邪魔立てをするでないッ! 」
霊蔵は懐からクナイと呼ばれる先端の尖ったナイフのような武器を取り出し、縋り付く彼女の脳天に向かって勢い良く突き刺す。
クナイを頭に喰らったインフエットは絶命してしまったのだが、彼女の残した意思は思ったよりも凄まじいものであったらしい。
霊蔵は慌てて部屋から出たライジアを追ったのだが、彼女の姿はとっくに消えて無くなっている。
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