シリウス・イントルーダー・ロード〜暗黒神に見染められた前作のラスボスは異世界で猛威を振るう〜

アンジェロ岩井

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アールランドリー大陸編

トールキールランド攻略戦ーその14

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アラトスはバルコニーの上で咽び泣いていた。城下から漂う燃え盛る炎による熱気が彼の頬を撫でるが、そんなものは熱いとは感じない。むしろ、アラトスは自分への罰はこんなものでは足りないとさえ感じていた。
地面に両手をついて、泣く国王は目の前に立っている白い肌の男に向かって問う。
「わ、私をどうするつもりだ?この場で殺すのか?それとも、処刑をするつもりか?エンリケ二世やピサロ一世のように!?」
「いやいや、その様な野暮な事をする気は無い。安心すると良いぞ」
宮殿の暗闇をバックに立っている男は冷酷に言い放つ。
「お前の処分はこの後の裁判に任せるが、一先ず私が先に処分を与えるとするのならば、お前は無期禁固だ。永遠にこの城の奥に閉じ込める。それだけだ……」
目の前に立つ〈世界皇帝〉を名乗る男は既に死を願望しているアラトスに向かって冷酷に言い放つ。
それを聞いて、アラトスの目はとうとう虚になってしまう。
彼の目は照準が定まっておらず、既にその言葉だけで生きる屍となってしまったらしい。よだれを垂らし、白目を剥くアラトスの体を『世界皇帝』ことシリウスは何の躊躇いもなく、バルコニーへと蹴り飛ばすが、彼自身は相変わらず虚な目を浮かべて笑うばかりである。
宮殿の方から飛ばされた彼の体を受け止めた霊蔵は忍びとして伝えられた書物から得た知識と飛ばされても何も言わないアラトスの反応から察した。
アラトスなる男を詰まらなく感じた霊蔵は彼の体をそのままバルコニーから突き落とそうかと感じたが、目の前に唇の前に可愛らしく人差し指を当てて、霊蔵の意図を見抜くシャーロットの姿を見て、アラトスを寝かせた後に、彼の尻を蹴ってから、目の前に現れた自身の主人の前に跪く。
「頭領!ご覧くだされ!私の成果を!この奇妙な亜人どもの住う都は破滅を告げる紅蓮の炎によって焼き尽くされておりまする!この一夜限りの紅蓮の炎とその後に残った広大な土地をあなた様に献上致しまする!どうか、お納めを……」
シリウスは暫くの間、霊蔵を見下ろしていたが、一度鼻息を荒く鳴らしてから、バルコニーの前に広がる景色を眺めていく。
「素晴らしい光景だ。まぁ、王都のエルフやらダークエルフやらが殆どこの紅蓮の炎に消えていくのはちと寂しく感じるが、まぁ、一夜限りの炎を見られただけで良しとしようではないか」
シリウスはそう言うと、物質生成魔法から、ワインとワイングラスを作り出し、それから、妹を手招きする。
シャーロットは兄の前で丁寧に頭を下げると、兄の手から渡されたワイングラスを手に取り、兄のワイングラスへと注いでいく。
それから、いつものニコニコとした笑顔を浮かべながら、
「お兄様、美味しゅうございますか?」
最愛の妻の質問に、シリウスは真っ白な歯を溢しながら、
「あぁ、やはり権力者を破滅へと導く炎を眺めながらの酒は美味い」
その言葉を聞くと、バルコニーに居た三人は声を合わせて大きな声で笑っていく。
かつてのシリウスの腹心、セルダンが評していたように、この三人は心の内が一緒なのだろう。
だが、ここは三人しか居ない異国のバルコニー。
眉を顰めら人間など居ようが無い。ただ、何代もの王が過ごした宮殿とその宮殿の前で燃え盛る炎だけが三人の狂気に満ちた笑い声を聞いていた。












後世の史劇家や戯曲家はエルフ族とダークエルフ族との共通の指導者にして和解の象徴である宮殿と王都が燃やされた炎はその日、多くのエルフやダークエルフ、そして侵攻して来た帝国軍をも交えて三日三晩燃え続けていたという。
だが、果たしてその様な状態で常に炎が燃え続けるというのはにわかには信じ難い。本来は一夜だけの火災を後世の歴史家が大幅に脚色したという説話や三日三晩というのは大袈裟で、本当は二日ほどで鎮火したという説もあり、未だに決着は付いていない。
ただ、現在もこれ程の論争が行われている事から、旧トールキールランドの王宮と王都の炎上事件がどれ程、大きかったのかを示す証言となるだろう。
同時にこの当時、世界を圧巻していた〈世界皇帝〉の影響の大きさも知られる。
加えて、〈世界皇帝〉の凄い所は同じ日に家臣と共に攻め込んだ筈なのに、その僅か一ヶ月後には北部から新たな軍団を引き連れて、焼け跡となった王都へとやって来たというのだから、彼の化け物っぷりが分かるだろう。
〈世界皇帝〉を謳った彼は自身が引き連れた軍隊に食糧や医療などの必要な物質を配らせるると、次の瞬間には自らの手で街の復興を手伝うという姿を新たな国民達に見せ、彼らに自分達の新たなる指導者を認めさせていく。
同時に彼は前国王の政策を全て非難し、軍隊改革による海軍の増設と隣の大陸による脅威を煽り立て、人々を沿岸への警備隊へと送り込む。
こうして、シリウスはエルフ族とダークエルフ族の両族による強大な軍隊を手に入れ、そして、アールランドリー大陸の制圧を完了させたのだった。
シリウスは侵略したトールキールランドを信頼のおけるエルフ族の青年を皇帝兼国王に任じた後に、彼は転移魔法を使用し、魔王の城へと戻っていた。
彼は玉座の上で配下に命じて持たせた世界地図を見てニヤニヤという笑いを浮かべていく。
この世界における二つの大陸のうち、一つを制圧できた事に、彼は壮絶なる自信を持っていた。
彼はそれから、指を鳴らして、四天王を呼び、パンゲール大陸の国々の情報を入手していく。
部下の意見を聞き入れていく中で、シリウスは次の矛先を決めた。
「なるほど、中部で一番弱い王国か……決めた。今度はここを攻略しよう。霊像!霊蔵はおるか!」
霊蔵は何処から現れたのか、彼の前で一回転を決めてから、玉座の間で跪く。
「お呼びでございましょうか?頭領」
「まだ貴様は私の事を……まぁ、いい、お前は中部の王国を内部から破壊する任を与えよう。そして、この王国もを利用して、いずれは中部の国々を次々と破滅に追い込んでいけ、分かったな?」
あまりにも無謀とも言える質問ではあったが、霊蔵は嫌な顔をするどころか、満面の笑みを浮かべて、
「勿論でございます!そこまでの無茶をふっかけられてこそ忍びの本望と言えるでしょう!儂の可能な限り、努力してみまする」
霊蔵はそう言って退出しようとしたが、シリウスはそれを呼び止めて、
「待て、流石にお前一人では難しいだろうからな。此奴を貴様のサポートに付けよう。カタリアーナ!」
魔界の摂政の叫ぶ声に、玉座の側で畏っていた女性が慌てた様子で玉座の前に跪く。
「お呼びでしょうか?殿下?」
「お主に降魔霊蔵の補佐を命ず。奴と組んで王国を転覆させるのだ。良いな?」
その言葉にカタリアーナは恭しく頭を下げて、一任する。
そして、霊蔵の手を引いて、彼の前から姿を消す。
シリウスはその様子をニヤニヤとした笑顔を浮かべながら眺めていた。
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