シリウス・イントルーダー・ロード〜暗黒神に見染められた前作のラスボスは異世界で猛威を振るう〜

アンジェロ岩井

文字の大きさ
上 下
65 / 99
アールランドリー大陸編

トールキールランド攻略戦ーその12

しおりを挟む
タレーラ・ミン議員殺害事件の報道はその日のうちに、王都中に知れ渡り、同時に彼がその日に足を踏み入れたブラウン議員に殺害の嫌疑が知れ渡ったのだが、なぜか、二人は警官隊の突入の前に、行方をくらませており、その後も姿を表す事は無かった。
これに一抹の不安を抱いたのは現国王、アラトスであった。彼は二人の情報と思われる情報が耳に届く際に、常に胸に激しい動悸を感じていた。
もし、あの二人が自分の国取りの事を話していたらどうしよう、という彼にとっての一番の不安であった。
あの二人が捕まった際に、国取りの計画を話されてはお終いだ。自身の身が破裂するどころか、その責は息子夫婦のみならず、その孫の代にも行き渡るに違いない。
アラトスはそれだけは避けたかった。そして、自分の生きている間に何としてでも国王制を終身制のものとし、自分の息子を次期国王の地位に就かせたい。
その思いから、王は翌日の議会においても、王国神政党の動きに倣い、戦わない王を主張していく事で、自分の地位を極限まで高めていく。
実際、あの二人が示した軍備の大幅な削減は軍務に従事する人間ならばともかく、その余った予算が他の機関に回るという単純で分かりやすい仕組みであるので、国民の支持は集めやすかったと言えるだろう。
そして、国王アラトスはついに軍事の完全撤廃を宣言する。
アラトスは不戦の誓いを開祖、カイロー・ホースの銅像の前でそれまで、腰に下げていた剣を突き刺す事により、剣という戦いの象徴とも言える武器を地面に突き刺し、それを見向きもせずに、地面から離れる事により、その誓いは偉大なる開祖の前に永遠に誓われたと言っても良いだろう。
アラトスのこの誓いを国民の九割が支持し、自分達の持っている武器を全て拠出し、同時に彼と彼の素晴らしい不戦の一族が代々国王の地位を継ぐべきだという主張を声高に叫んでいく。
あの時、シャーロットと霊蔵が追跡を恐れて、逃げ出したのも自分達の制作を王が踏襲すると踏んでの事だったに違いない。
だが、二人はこの一連の出来事を遠く離れた場所で怯えて見聞きしていた訳ではない。
二人は王家の身の回りの準備をする下男と下女をそれぞれ一名ずつ殺害し、周りの人物に入れ替わりに気付かせる事なく、自然に宮殿の中に溶け込み、王に付き従って、王の“活躍”を見守っていたのだ。
そして、この日、国王、アラトスの新たなる戴冠式の日を二日後に控え、二人は王家の従者として用意された小さな部屋の中で互いに口元を抑えて成果を話し合う。
「いやぁ、まさか、あの男がここまで“時限爆弾”になってくれるとは思いもしなんだなぁ~お陰で、我々が得た成果は当初の期待を大きく上回るものでしたな。これを頭領に報告なさいますか?副頭領」
シャーロットは霊蔵のその問い掛けに対して、黙って首を縦に動かして、
「そうね。この成果にお兄様もきっと歓喜なさる筈よ。だって、敵となる存在がわざわざ両手を広げて、支配を歓迎してくれるんですもの!」
シャーロットの笑顔につられて、霊蔵もいつもの気色の悪い笑顔を浮かべていく。
「いい得て妙ですな。副頭領。この国の民どもは全員が全員、武器や軍隊を無くしさえして、自分達が戦わないと宣言すれば、相手は攻撃できないと思うておる。ちと、頭の弱くて愚かな存在なのだと認識するのが正しいかと?」
その言葉にシャーロットは自分の手で用意した紅茶を飲み干して、もう一度霊蔵の目を見つめる。
「ええ、そうよ。考えてもみなさい。元亀天正の世、それを遡る応仁の乱の先端が開かれた戦乱の世にそんな言い分が通るとでも?」
霊蔵はかつて、忍びの里で学んだ自分達、忍び連中が最も輝いていた時期の話を例に持ち出され、思わず両眼を輝かせて、シャーロットの両眼を覗いていたが、覗き込まれた女はそんな霊蔵とは対照的に、冷ややかな目で霊蔵を射抜いていた。
「いい、この世で武器も持たずに最初から抵抗しないなんて考えは愚かとしか言えないわ。いえ、『愚か』という言葉すら生温いかもしれないわ。仮によ。あなたは応仁の世から続く戦乱の世に一つの国があったとして、その国を治める殿様がーー」
「副頭領の仰りたい事は大体分かりまするぞ、その殿様が自分達は交戦したとしても、主張しても、他の国の殿様は攻めてくるという話でござろう?」
シャーロットは答えない。代わりに、不機嫌そうに机の上に置いてあった紅茶を飲み干す。
その行動は自分の答えを霊蔵が先に行った事に対する不満の感情なのか、それとも、何か別の意図があるのか、霊蔵には分からない。
だが、もう一人の彼は話題を変えた方が良いと判断し、シャーロットに別の話題を振っていく。
彼はそろそろ、ルーベルラント帝国に残している彼女の分身の方と入れ替わった方が良いと進言する。
理由を問われたシャーロットの言動に霊蔵は勇者・パキラの存在を挙げた。
彼は勇者・パキラがルーベルラント帝国を訪れた際に、及ぼす弊害について懸命に語っていく。
彼の話す弊害というのは勇者・パキラが新しい皇帝の娘、アリストリアに向かって斬りかかった際に、斬られたアリスの体が影となり、やがてはグニャグニャと変色して消えてしまう可能性を上げていく。
だが、シャーロットは眉一つ動かさない。先程と同じように霊蔵を見つめるだけだ。
その場でやり切れずに困っていた霊蔵が頭の後ろをかいていると、その重くなった雰囲気を解くように、シャーロットが口を開いて、
「ねぇ、先程、思い付いたのだけれども、お兄様に報告する際に、ある一つの計画を加えても良いかしら?これは向こうのルーベルラント帝国を手に入れる際にも、必要になるかもしれないと思って、考えていた策なのだけれども……」
霊蔵はシャーロットの口から話された計画を聞かされ、霊蔵はその計画を聞かされていくために、口元が徐々に綻びていくのを止められない。
そして、彼女が話し終わるのを確認すると、最後は大きく声を張り上げて、
「流石は副頭領でございます!まさか、襲来の折にはその様な方法を用いられ、襲来をより一層、困難になさるとは……」
「なぁに、お兄様がいつも国取りに用いる術を私なりに応用させてもらっただけよ。それよりも、一刻も早く伝えましょう。機は熟した……とね」
霊蔵はその言葉を聞いて、一礼をする。
そして、二人で面白おかしく笑いながら、二人の手で用意したカップ同士を鳴らし合う。
まるで、今より、勝利の美酒を味わう古代ローマの剣闘士のように。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

トレジャーキッズ

著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ
ファンタジー
だらだらと自堕落な生活から抜け出すきっかけをどこかで望んでいた。 ただ、それだけだったのに…… 自分の存在は何のため? 何のために生きているのか? 世界はどうしてこんなにも理不尽にあふれているのか? 苦悩する子どもと親の物語です。 非日常を体験した、命のやり取りをした、乗り越える困難の中で築かれてゆくのは友情と絆。 まだ見えない『何か』が大切なものだと気づけた。 ※更新は週一・日曜日公開を目標 何かございましたら、Twitterにて問い合わせください。 【1】のみ自費出版販売をしております。 追加で修正しているため、全く同じではありません。 できるだけ剣恵真さんの原文と世界観を崩さないように直しておりますが、もう少しうまいやり方があるようでしたら教えていただけるとありがたいです。(担当:猫宮りぃ)

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最強の英雄は幼馴染を守りたい

なつめ猫
ファンタジー
 異世界に魔王を倒す勇者として間違えて召喚されてしまった桂木(かつらぎ)優斗(ゆうと)は、女神から力を渡される事もなく一般人として異世界アストリアに降り立つが、勇者召喚に失敗したリメイラール王国は、世界中からの糾弾に恐れ優斗を勇者として扱う事する。  そして勇者として戦うことを強要された優斗は、戦いの最中、自分と同じように巻き込まれて召喚されてきた幼馴染であり思い人の神楽坂(かぐらざか)都(みやこ)を目の前で、魔王軍四天王に殺されてしまい仇を取る為に、復讐を誓い長い年月をかけて戦う術を手に入れ魔王と黒幕である女神を倒す事に成功するが、その直後、次元の狭間へと呑み込まれてしまい意識を取り戻した先は、自身が異世界に召喚される前の現代日本であった。

処理中です...