シリウス・イントルーダー・ロード〜暗黒神に見染められた前作のラスボスは異世界で猛威を振るう〜

アンジェロ岩井

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アールランドリー大陸編

トールキールランド攻略戦ーその⑧

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シャーロットは自身の記憶の底から目の前に立っているタレーラ・ミン議員の正体を導き出す。
間違い無い。彼はかつて自分と兄と共に長年、帝国竜騎兵隊デュヴァイン・ドラグーンに所属していた熟練の兵士、ロイヤル・セルダンでは無いか。
ロイヤル・セルダン。大から小の剣を無数に作り出し、その絶望的な剣の数で相手を精神面から屈服させ、後に物量面でもその剣で相手を圧倒していく。
だが、彼は帝国上層部の罠に嵌まり死んだ筈では無かったのか。
シャーロットが口を開こうとすると、彼は右手を突き出して、
「ホッホッホッ、あなたが何を言おうとしているのかは分かりますぞ、どうしてこの老いぼれがこの世界で生きているのかという事でございますな?」
シャーロットは思わず自分の生唾を飲み込む。
流石は兄に対して苦言を呈する事が出来た男だ。男は完全に自分の考えを読み取っていたに違いない。
シャーロットがすっかりと怯え腰になっている時だ。彼の地面が剥がれ、その途端に彼は足場がいきなり離れた事に気が付き、その場で飛び上がるが、その飛んだ彼に向かって背後から星型の手裏剣が飛ばされた事に気が付く。
だが、セルダンは飛んで来た手裏剣をギリギリのタイミングで首をずらす事に避け、すっかり剥がれてしまった台所の地面に手裏剣が突き刺さっているという光景を眺めていた。
彼はゆっくりと背後を振り向いて、
「ほうほう、あなた様が噂に聞く、シリウス隊長の新たな片腕ですかな?いやぁ、随分と攻撃的な方のようじゃ」
背後の廊下で控えていた霊蔵はそんな嫌味のような言葉を言われても何も言う事なく、ただニコニコと笑っていた。
「いやいや、お初にお目に掛かるのはこちらの方じゃ、敢えて嬉しいのぅ、頭領のかつての片腕と会う事になるとは、しかし、何用じゃ?偽名なんぞを名乗って、儂と副頭領の住居に何の用があって参った。答えよ!」
最後の霊蔵の台詞が激しくなったのは、恐らく、彼にシャーロットが殺されれば自分は敬愛する頭領に怒られてしまうという部類の怒りが込められていたからに違いない。
シャーロットは彼のニコニコと顔と一向に笑っていない両目からそう推測した。
すると、ロイヤル・セルダンは大きな声で笑い出し、
「フォッフォッ、なるほど、なるほど、シャーロット。お主、良い腹心を持ったようじゃな?なるほど、いかにも隊長に相応しい男じゃ、腐ったドブのような匂いがこちらにも漂ってくるわ!」
その言葉が発せられるのと同時に、乾いた音が家の中に響き渡る。
セルダンはその音を聞いた時、一瞬、肩を硬らせたのだが、特に何も無かった事に安堵したらしく、先程の柔和な顔を取り戻す。
そして、銃声を発した女の方に向き直る。そして、彼女の放った弾が地面の中にめり込んでいる事に気が付き、セルダンはニヤニヤとした笑顔を浮かべて、
「おやおや、外してしもうたようですな?流石の優れた帝国軍人でも長年、地獄で責め苦を与えられていると、腕の方も衰えますかな?」
彼女は武器保存ウェポン・セーブから取り出したと思われる自動拳銃を握り締めながら呟く。
「黙りなさい……それよりも、あなたこれが何だか分かりますよね?オートマグナムですよ。私が引き金を引けば、あなたの頭なんて簡単に吹っ飛びますわ。なんだったら、試してみます?」
シャーロットの問いに老人は丁寧に頭を横に振る。
「残念じゃが、遠慮しておこう。しっかし、ずるいのゥゥ~隊長やお主だけが、転移とは、儂なんて23世紀からの転生じゃから、その様な武器なんて持っておらんのじゃ」
その言葉を聞いて、シャーロットは自身の両眉を深く顰める。
「……ッ、どういう事ですの?」
「おや、聞こえなんだかな?シャーロット。ならば何度でも言ってやろう。儂は転生したのじゃ、あの帝国軍の裏切り、あの四国城での一斉射撃の時に死んだ後に、儂はエルフ族のタレーラ・ミンとして転生したのじゃ、地獄なんかに堕ちなかった。お主やお主の兄とは違ってな」
右端の唇を吊り上げて、得意そうな笑顔を浮かべる老人の姿を見て、彼女の中の堪忍袋の尾なるものはとっくの昔に切れてしまったに違いない。
彼女はもう一度拳銃を構えて、かつての部下を撃ち殺そうとしたが、その前に不意に背後の降魔霊蔵が言葉を発して、
「待て、お主、今の副頭領との話の流れから、お主はかつては頭領の部下だったらしいな?何故に裏切った?」
かつて、彼が生きていた明治の世でも、そして今回の世界でも尊敬する頭領の腹心の部下として仕える霊蔵の問いに、老人は年寄りの持つ独特の余裕のためなのだろうか。
それとも、ここは答えてやるべきだと感じたのか、彼は快活に笑いながら、それまでの人生を二人の侵略者相手に語っていく。
23世紀の世に警察隊による一斉射撃の後にエルフ族の子として生まれ変わった後には彼はかつての世界で得た知識とこの世界で培った知識を基に政治家としての名乗りを上げ、当選回数を重ねて有力な議員になったのだという。
このまま順調満風な人生を送るかと思われたが、少し前に〈世界皇帝〉を名乗る存在がこの大陸に現れ始めた頃から、彼は察したのだという。
この世界にかつての上司であるシリウスが現れたのだと。
そのために、現在の国王に国境沿いの場所に軍隊を配備し、いつでも侵略に備えておけるように提言し続けてきたのだという。
だが、パチャテク帝国が落とされ、その僅か三ヶ月後に妖しげな風貌の二人の新人議員の姿を見た時に、彼は確信したのだいう。
シリウスがこの国を乗っ取るために、この世界での部下を寄越したのだと。
だから、彼は議会で彼女と口論を交わし、それでも勝てないと見ると、この国を守るために対談と称して推し入って、二人を暗殺しようと試みたのだという。
銃を突き付けられても怯まずに語る彼の姿からシャーロットは確信を得た。
シャーロットはこの老人の脅威を確信し、今、ここで排除するために引き金を引こうと試みたが、途端に銃口に小刀が飛ばされ、銃口が塞がれた事により、引き金を引く事は不可能になってしまう。
シャーロットは銃を捨てて、代わりに異空間の武器庫から日本刀を取り出し、セルダン老人に向かって斬りかかっていく。
だが、その動きを察したのか、セルダン老人は側に漂わせていた五本の剣のうちの一本を手に取り、彼女の持つ日本刀と刃を交わす。
セルダンのロングソードとシャーロットの日本刀の間に火花が走っていく。
霊蔵は二人の刀の混じり合いを見て、この勝負が一筋縄ではいかない事を悟った。恐らく、長引くだろう、と。
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