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アールランドリー大陸編
トールキールランド攻略戦ーその②
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勇者・パキラを始末するためにシリウスから授かった部下の数は五十名。普通に考えたのならば、この数で負ける事はない。
転移衆の一人にして、寡黙な女シスター、クレイトン・グンシルはそんな事を考えながら、勇者・パキラの襲撃ルートを模索していく。
五十名の部下は全て亜人種であり、シリウスから授かった魔界の部下である。
無駄に使う事は許されない。そう考えると、彼女の両肩にその責任が重くのし掛かったような気がするが、それでも彼女は首を大きく横に振るって先程までの自分の考えを吹き飛ばす。
亜人種の部下は緑色の凶暴そうな顔をした小鬼、豚のような醜悪な顔をしたオーク。そして、その二種にも劣らない醜悪な顔の名前も知らぬ化け物達。
聞くところによれば、彼らはそれぞれが異なる凶悪な魔法を使えるらしい。
主人が語った話だ。間違いは無いだろう。
クレイトンはまず、帝国の皇帝に謁見しようとするパキラ達を妨害する事に決めた。
五十名の部下を次々と放ち、パキラ一行を消耗させてから、最後に自分が現れて殺すという理にかなっていた様な気がした。
最初に、緑色の二十匹の小鬼達が武器を構えて勇者パキラ一行を襲撃したが、パキラやその仲間達はそれ見ても眉一つ動かす事なく、剣を抜いて彼らを屈服させていく。
次に向かわせたのはオークである。十五名のオークはそれなりに、パキラを足止めしたのだが、三日三晩の戦いの末に彼らは殲滅され、クレイトンは止む無く見たこともない異形の存在を向かわせる事を決めた。
15名の醜悪な怪物のうちの一帯はサメの姿をしており、彼は海だけではなく、地上や地中を自由に潜り、相手を狙う事ができた。地中に潜り込んだ彼はパキラの首を手に入れる一歩手前まで迫ったのだが、パキラの仲間の一人である少女に首を跳ね飛ばされたために、彼は首の皮を一枚繋ぐ。
次にパキラの元に向かったのは紫色の毒々しさを帯びたスライムであった。
色の悪いスライムはパキラ一行を襲い、その粘着力によって彼らを危機に陥れたが、一人の赤い肌の青年が手を開くのと同時に、スライムは徹底的に破壊され、その姿を消していく。
その後も、翼を持つ蜥蜴、剣に融合した竜を持つカエルの剣士、ガマガエルの醜悪な顔に鳥の翼と体を持つ戦士などがパキラ討伐に向かったのだが、その誰もがパキラとその仲間の前に敗れ去ってしまう。
気が付けば、クレイトンの手元に残された部下の数は一人となっていた。
クレイトンがシリウスから与えられた五十人の部下の最後を改めて見つめてみると、彼はそれまでの部下とは異なり、醜悪な顔でもなく、人間態ですらない化物とは大きく異なり、深く被ったフードの下にハンサムな顔を覗かせていた。
それだけではなく、今まで全身を黒色のフードに覆って隠していたのだが、その下には魔界、いや人間の住む中部や北部でも“上等”と分類される程の良い服であった事を知った。
赤い質の良い上着に、その下に着ていると思われる真っ白なシャツ。上着と同様の素材を使っていると思われる太陽の下にて眩しく輝くズボン。
最後に首に巻き付けている黒色の絹の首飾り。
一見すると、何処かの貴族の家の執事だと言われても違和感は無いかもしれない。
クレイトンがまじまじと最後に残っている部下を眺めていると、途中まで先の地平線を眺めていた部下が突如、自身の顔を見て、それから口元の右端を吊り上げる。
クレイトンは一瞬、みじろぎをしたものの、直ぐに魔界の摂政の代理人としての立場を思い直して、為政者として相応しい堂々とした態度で男を見つめながら、
「何用だ?」
と、問い掛ける。
それを聞いた男はまたしても口元を綻ばせて、顔に微笑を浮かべながら、
「いえ、ここ二十日ほど、あなた様の部下の扱い方を見ておりましたが、どうも効率が悪うにございますな」
その言葉にクレイトンは微かに片眉を下げる。
「悪いか、帝国にはあのお方の妹様がおられるのだ。今、勇者パキラを帝国に向かわせて、皇帝に謁見でもさせてみろ、即座に妹様の事が看破されて、あのお方の大事なお方がーー」
「殺される。そう仰りたいのでござりましょう?ですが、あなた様の戦い方は無駄に等しい行為でございます。確かに、我々はここ三ヶ月近く逐次兵力を投入して参りましたが、それで、得られたのはなんでしょう?」
クレイトンは部下の指摘に思わず言葉を詰まらせてしまう。
「時間」と出した答えも無意味だという事を自覚する。
なぜなら、彼女がシリウスから命じられたのは時間稼ぎではなく、勇者パキラの始末だったのだから。
どうも、この三ヶ月の間に彼女の中にあった目標が『勇者パキラの抹殺』から『偉大なるお方の妹君を守るための時間稼ぎ』に変わっていたらしい。
クレイトンは咄嗟に両耳を塞いで、その場にしゃがみ込もうとするが、それは男が許さない。
しゃがもうとする彼女の右手を止めて、大きな声を出す事なく、あくまでも冷静な声色で、
「なりませぬ。現実から目を背けなさるなッ!もし、仮にここであなたが全てを放り出して逃げようとしても、あのお方はあなた様をお許しにならぬでしょう。大事な部下を大勢殺したあなた様を何処までも、それこそ獲物を追う肉食獣のように、執念深く追って来るでしょうな」
その言葉にクレイトンは思わず両肩を強張らせてしまう。
男の言葉を聞くのと同時に、彼女の頭の中に封じ込めていたいた筈のある記憶が思い浮かぶ。
そう、かつて自分を殺した頭領の妹が言っていた。『罰』という言葉。
彼女は言っていた。自分の犯した『罪』に相応しい『罰』を受けなければ友達とは認められないと。
だから、亜人を殺していたクレイトンは一度死ぬという『罰』を受けた事により、『罪』を償ったと認められ、この世に蘇り、幹部としての地位を得られたのだ。
だが、今回の『罰』はあのような一撃で死ぬだけで償えるものなのだろうか。
あの狂気に満ちた兄妹ならば、何をやってもおかしくは無い。
彼らからの『罰』を甘んじて受け入れるつもりなど毛頭無い。
ならば、方法は一つだ。
クレイトンは男の両手を取って、
「これより、勇者パキラとその一行を討ち取る。そのために力を貸してくれれば嬉しい」
「了解です。ご主人様」
男はそう言って丁寧に頭を下げた。
転移衆の一人にして、寡黙な女シスター、クレイトン・グンシルはそんな事を考えながら、勇者・パキラの襲撃ルートを模索していく。
五十名の部下は全て亜人種であり、シリウスから授かった魔界の部下である。
無駄に使う事は許されない。そう考えると、彼女の両肩にその責任が重くのし掛かったような気がするが、それでも彼女は首を大きく横に振るって先程までの自分の考えを吹き飛ばす。
亜人種の部下は緑色の凶暴そうな顔をした小鬼、豚のような醜悪な顔をしたオーク。そして、その二種にも劣らない醜悪な顔の名前も知らぬ化け物達。
聞くところによれば、彼らはそれぞれが異なる凶悪な魔法を使えるらしい。
主人が語った話だ。間違いは無いだろう。
クレイトンはまず、帝国の皇帝に謁見しようとするパキラ達を妨害する事に決めた。
五十名の部下を次々と放ち、パキラ一行を消耗させてから、最後に自分が現れて殺すという理にかなっていた様な気がした。
最初に、緑色の二十匹の小鬼達が武器を構えて勇者パキラ一行を襲撃したが、パキラやその仲間達はそれ見ても眉一つ動かす事なく、剣を抜いて彼らを屈服させていく。
次に向かわせたのはオークである。十五名のオークはそれなりに、パキラを足止めしたのだが、三日三晩の戦いの末に彼らは殲滅され、クレイトンは止む無く見たこともない異形の存在を向かわせる事を決めた。
15名の醜悪な怪物のうちの一帯はサメの姿をしており、彼は海だけではなく、地上や地中を自由に潜り、相手を狙う事ができた。地中に潜り込んだ彼はパキラの首を手に入れる一歩手前まで迫ったのだが、パキラの仲間の一人である少女に首を跳ね飛ばされたために、彼は首の皮を一枚繋ぐ。
次にパキラの元に向かったのは紫色の毒々しさを帯びたスライムであった。
色の悪いスライムはパキラ一行を襲い、その粘着力によって彼らを危機に陥れたが、一人の赤い肌の青年が手を開くのと同時に、スライムは徹底的に破壊され、その姿を消していく。
その後も、翼を持つ蜥蜴、剣に融合した竜を持つカエルの剣士、ガマガエルの醜悪な顔に鳥の翼と体を持つ戦士などがパキラ討伐に向かったのだが、その誰もがパキラとその仲間の前に敗れ去ってしまう。
気が付けば、クレイトンの手元に残された部下の数は一人となっていた。
クレイトンがシリウスから与えられた五十人の部下の最後を改めて見つめてみると、彼はそれまでの部下とは異なり、醜悪な顔でもなく、人間態ですらない化物とは大きく異なり、深く被ったフードの下にハンサムな顔を覗かせていた。
それだけではなく、今まで全身を黒色のフードに覆って隠していたのだが、その下には魔界、いや人間の住む中部や北部でも“上等”と分類される程の良い服であった事を知った。
赤い質の良い上着に、その下に着ていると思われる真っ白なシャツ。上着と同様の素材を使っていると思われる太陽の下にて眩しく輝くズボン。
最後に首に巻き付けている黒色の絹の首飾り。
一見すると、何処かの貴族の家の執事だと言われても違和感は無いかもしれない。
クレイトンがまじまじと最後に残っている部下を眺めていると、途中まで先の地平線を眺めていた部下が突如、自身の顔を見て、それから口元の右端を吊り上げる。
クレイトンは一瞬、みじろぎをしたものの、直ぐに魔界の摂政の代理人としての立場を思い直して、為政者として相応しい堂々とした態度で男を見つめながら、
「何用だ?」
と、問い掛ける。
それを聞いた男はまたしても口元を綻ばせて、顔に微笑を浮かべながら、
「いえ、ここ二十日ほど、あなた様の部下の扱い方を見ておりましたが、どうも効率が悪うにございますな」
その言葉にクレイトンは微かに片眉を下げる。
「悪いか、帝国にはあのお方の妹様がおられるのだ。今、勇者パキラを帝国に向かわせて、皇帝に謁見でもさせてみろ、即座に妹様の事が看破されて、あのお方の大事なお方がーー」
「殺される。そう仰りたいのでござりましょう?ですが、あなた様の戦い方は無駄に等しい行為でございます。確かに、我々はここ三ヶ月近く逐次兵力を投入して参りましたが、それで、得られたのはなんでしょう?」
クレイトンは部下の指摘に思わず言葉を詰まらせてしまう。
「時間」と出した答えも無意味だという事を自覚する。
なぜなら、彼女がシリウスから命じられたのは時間稼ぎではなく、勇者パキラの始末だったのだから。
どうも、この三ヶ月の間に彼女の中にあった目標が『勇者パキラの抹殺』から『偉大なるお方の妹君を守るための時間稼ぎ』に変わっていたらしい。
クレイトンは咄嗟に両耳を塞いで、その場にしゃがみ込もうとするが、それは男が許さない。
しゃがもうとする彼女の右手を止めて、大きな声を出す事なく、あくまでも冷静な声色で、
「なりませぬ。現実から目を背けなさるなッ!もし、仮にここであなたが全てを放り出して逃げようとしても、あのお方はあなた様をお許しにならぬでしょう。大事な部下を大勢殺したあなた様を何処までも、それこそ獲物を追う肉食獣のように、執念深く追って来るでしょうな」
その言葉にクレイトンは思わず両肩を強張らせてしまう。
男の言葉を聞くのと同時に、彼女の頭の中に封じ込めていたいた筈のある記憶が思い浮かぶ。
そう、かつて自分を殺した頭領の妹が言っていた。『罰』という言葉。
彼女は言っていた。自分の犯した『罪』に相応しい『罰』を受けなければ友達とは認められないと。
だから、亜人を殺していたクレイトンは一度死ぬという『罰』を受けた事により、『罪』を償ったと認められ、この世に蘇り、幹部としての地位を得られたのだ。
だが、今回の『罰』はあのような一撃で死ぬだけで償えるものなのだろうか。
あの狂気に満ちた兄妹ならば、何をやってもおかしくは無い。
彼らからの『罰』を甘んじて受け入れるつもりなど毛頭無い。
ならば、方法は一つだ。
クレイトンは男の両手を取って、
「これより、勇者パキラとその一行を討ち取る。そのために力を貸してくれれば嬉しい」
「了解です。ご主人様」
男はそう言って丁寧に頭を下げた。
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