シリウス・イントルーダー・ロード〜暗黒神に見染められた前作のラスボスは異世界で猛威を振るう〜

アンジェロ岩井

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アールランドリー大陸編

新たなる侵略戦

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霊蔵から習った分身の魔法を使用し、シャーロットは分身を作り出すのと同時に、その分身にも体を幼児退行させる魔法を教えて、自分の身代わりとして皇帝と皇妃を夢中にさせるように仕向ける。
シャーロットは分身が立派に娘としての義務を果たしているのを見届けると、霊蔵と共に転移魔法を使用して、兄の待つ魔王の城に行く。
そして、魔王の城に着くと、彼女は躊躇う事もなく、霊蔵と共に意の一番に玉座の間へと向かう。
最愛の妹が現れたのを見届けると、彼もオオと歓喜の声を上げて、玉座を立ち上がり、両手を広げて最愛の女性を迎え入れる。
シャーロットが駆け寄るのと同時に、シリウスも大きく両手を広げて彼女の抱擁を迎える準備を受け入れる。
お互いに抱きしめ合い、互いの唇に口付けを交わしていく。
と、ここで耐え切れなくなったのか、シリウスは妹の手を引いて玉座の間から出て行く。
その様子を降魔霊蔵はニヤニヤとした笑顔で迎えていた。
それから、空っぽの玉座の上に座り、周りに集まっていた魔界の従者たちに向かって告げる。
「頭領が不在の間は儂が代行致す。政治の流れというのは川の流れのように常に流れていくものじゃ、あのお方が不在の間は儂が代行しようでは無いか」
シリウスの言葉に魔界の従者達は一斉に跪き、シリウスに差し出す予定であった政治について書かれた紙を霊蔵に差し出す。
霊蔵はいつものニヤニヤとした笑顔を浮かべながら、最近の情勢について記された紙に目を通していく。











「お兄様にも困ったものだわ。そりゃあ、私のお相手を務めて下さるのはあのお方くらいですし、私の気持ちは幼少期から変わる事なく、お兄様を敬愛しておりますが、最近は少しお怒りになる事が多過ぎるのでは無いかしら?パチャテク帝国で何かあったのね。そう、考えると、お可愛そうね」
シャーロットはこれだけの長台詞を一人で喋りながらも、両手は一切の容赦を与える事なく、幼い大公の息子を地下の部屋でいたぶっていたのだ。
足を焼かれ、爪を剥がされ、腹を殴られ、屈辱と痛みに溢れた日々を送っていた大公の息子、ローレンスはかつては嘲笑の対象であった血の繋がらない従兄弟を睨む。
「お、お、お、お前はよ、よ、よ、よくも……大公ブレアフォードの息子にこんな事を……そればかりではないッ!よくも、お姉様を……大好きなお姉様を……よくも、よくもッ!」
ローレンスの口が開かれるのと同時にシャーロットは黙ってその口を手で防ぎ、返事に答える代わりに彼の腹に強烈な一撃を喰らわせる。
ローレンスは鋭い一撃に唸ってしまったらしく、そのまま黙ってしまう。
気絶してしまったのだろうか。もし、そうなればつまらない。
そう考えたシャーロットはローレンスの髪を引っ張り上げて、その顔に強烈な一撃を喰らわせる事で、彼を強制的に夢の世界から現実へと引き戻す。
目覚めた時のローレンスの心境は如何なものだったのだろう。
夢の幸せな世界で死んだ姉や恐らく二度と会えないであろう両親と楽しく過ごしていたのに、無理矢理戻らされた世界では幼子に化けていた得体の知れない女が笑顔で拷問器具を握りながら自分を見つめているのだ。
彼女はニコニコとした笑顔を浮かべながら、
「おはようございます。ローレンスさん。よく眠れまして?」
ローレンスはその問いについてこう叫びたかった。ふざけるな、と。自分で強制的に起こしておいてよく眠らせてもクソもあるものか、と。
だが、そんな事を言えば目の前にいる女性は無言で拷問に手を加えてくるだろう。
実際、妹のマルグリットがそうだった。あの女が一日前にここに来てから、マルグリットと自分はそれまで閉じ込められていた牢から連れ出され、自分の見ている前で苛烈な拷問を加えられ、あの可愛らしい顔は無残にも歪められ、見る目に耐えられない。
拷問の最中にマルグリットは幾度も口答えをした。
だが、あの女はそれを聞いても、ニコニコとした笑顔のまま拷問を加え続けるばかりであったのだ。
だが、三時間も連続で拷問され続けて弱ったのか、マルグリットは治療魔法を施された後に、もう一度牢屋に放り投げられ、今は休まされている。
そして、次に拷問を加えられているのが、自分という訳だ。
十字架の上に括り付けられ、痛みのために気絶しようとしても、水を頭から掛けられたり、顔を殴られ続ける痛みにより強制的に夢の世界から引き戻されてしまう。
そして、あの女はまたあのニコニコした笑みを浮かべながら腹を殴っていく。
耐え切れなくなったローレンスは笑顔で自分を殴っている女に向かって叫ぶ。
「どおして、こんな事をするんだ!?誘拐が目的だったら、もうちょっと丁寧に扱うべきだろうし、殺すのが目的だったらのなら、さっさと殺せばいいだろう!?どうして、拷問なんかするんだッ!ぼ、ぼくは何も知らないんだからァァァァァ~!!!」
少年は泣き叫びながら、文字通り魂を込めた主張を行ったのだが、それを聞いても尚、シャーロットはニコニコとした微笑ましい笑みを崩す事がない。
少しばかり考える素振りを見せた後に、満面の笑みを浮かべて、
「ローレンスさん。あなた様を拷問する理由を教えてあげましょうか?」
ローレンスは理由を聞き逃さんとばかりに、必死に聞き耳を立てた。
だが、拷問相手から返ってきた言葉と言うのは、「特に無いんです」という何の罪悪感もなくあっさりと言い放ったこの言葉だった。
絶句する傷だらけの少年にシャーロットは満面の笑みを浮かべながら話を続けていく。
「でも、強いて言うのなら罰を受けさせるためです」
「罰?」
「ええ、ローレンスさんは私に沢山嫌がらせを行いましたよね?あ、怒っているのはでは無いですよ。確認しているだけ、正確な数をね」
「……。確認してどうするのさ?」
「まぁ、あなた様が理由を聞いてきたんでございましょう?私が確認するのはあなた様に罰を受けさせるためなんですよ」
ローレンスの思考は既にここには無い。あまりにも無茶苦茶な言い分に困り果てているのだ。
罰を受ける?なにを言っているのだ?自分は正当なる帝室の血筋を守ろうとしただけだ。
それなのに、どうして……。そんな思いに駆られている時だ。
自分の右手の甲に刃物が突き刺さるのを感じた。
「ギャァァァァァァァァァァ~!!!」
「聞いてますか?ローレンスさん。そんなんだから、みんなに嫌われるんですよ」
シャーロットは右手の甲に突き刺さるナイフを弄って、そのまま拷問の続きに入ろうとしたが、
「シャーロット。来てくれ」
と、兄の呼ぶ声が聞こえたので、彼女は手の甲にナイフを突き刺したまま階段を上がっていく。
シリウスはシャーロットを寝室に呼び出し、彼女を椅子に座らせた。
彼はグラスにワインを注ぎながら彼女に問い掛ける。
「あれはもう壊したのか?」
「いいえ、まだですわ。まだ私が受けた屈辱は返せていませんもの!私の出す拷問全てに耐える事が出来て、初めて“お友達”になれるのですもの!」
「お前はそう言って、竜騎兵隊の任務に共について以来何人の人間を拷問死し続けさせた?」
「さぁ、百人から先は覚えていませんけれども……」
「ほどほどにしておけよ。掃除をするのは私の部下なのだからな」
シリウスは顔に笑顔を浮かべながら、自室の椅子の上に座る。
そして、机の上に二人分の酒の入ったグラスを出す。
シャーロットは兄に一礼をしてから、酒に口を付ける。
シャーロットが飲み始めたのを見て、シリウスはようやく本題に入ったらしい。
「いよいよだな。私はもう片方の大陸の南部に進出しようと思うておる」
「南部ですか?」
シャーロットの問いを首肯してから、彼はアールランドリー大陸の地図を広げて、
「パチャテク帝国より下、南部には未知の王国が広がっているらしい。私はいや、我が軍はそこを平らげる。そこに、お前を私の副官として派遣したいのだが、いいか?」
「私をですか?お兄様、私には任務がーー」
「分身魔法があるだろう?時折、分身と入れ替わる形で私と共に国取りを行うが良い。なぁに、計画を開始するのは今より、五ヶ月も後だ。その間、私は国政を行いつつ、情報を仕入れ、計画を考える。お前もあの皇帝達に媚びを売りながら、その合間にどうするかを考えておけ」
「仰るままにお兄様」
シャーロットはそう言うと、丁寧に一礼をする。
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