シリウス・イントルーダー・ロード〜暗黒神に見染められた前作のラスボスは異世界で猛威を振るう〜

アンジェロ岩井

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アールランドリー大陸編

罰を受けなければならない

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玉座の前に引き摺り出された近衛兵団は敵対行為こそしなかったものの、明らかに敵対する者を険しい目で睨んでいた。
穏やかな目線ではない。シリウスは自身がここまで嫌われる事を自覚し、思わず自嘲してしまう。
が、自重してばかりもいられない。彼は玉座から立ち上がるや否や縛られた近衛兵団の兵士達を見下ろして、
「頭を垂れてつくばえ、皇帝の御前であるぞ」
と、冷たい言葉で言い放つ。その言葉が新たな皇帝から発せられるのと同時に先程、地方将軍に任じられたばかりのかつてのアタワルパ将軍の部下達が未だに頭を下げない近衛兵団の兵士達をねじ伏せる。
「お前達に問う。ある所に不味い飯を出す店があった。客はその店主に文句を言ったが、店主はこう言って跳ね除けた。『これが、私のやり方だ。嫌ならば食わなくて結構』と。村人達は村唯一食堂ある事から、やむなくそこに通い詰めた。だが、ある時、店主はとうとうその食事で中毒者を出して死者を出してしまった。この場合に店主に相応しい二文字があるな?言ってみろ」
シリウスから発せられた言葉を全員が目を見開きながら聞いていた。
恐らくこの喩え話を聞いた時に、誰もが『責任』の二文字が思い浮かんだのだろう。
だが、敢えて誰も答えようとはしない。
それを見てか、シリウスは黙って顎をやり、彼らを捕らえていた地方将軍達に強く小突くように指示を出す。
彼らの顔に石の地面の上を小突き回され、苦痛が浮かんだのを見届けると、シリウスはもう一度言う。
「私が解いているッ!言えとッ!」
シリウスはそう言うと、何処からか取り出した得体の知れない筒の形をした武器を取り出し、地面の上の右手を撃ち抜く。
乾いた音と共に兵士の悲鳴が室内に響き渡っていく。
拳銃の頭を当てた近衛兵の頭を踏み、その頭を自身の右足で踏みながら問う。
「もう一度言うぞ、言え。貴様ら敗者に相応しい言葉をな」
手を銃で撃たれ、頭を足で踏まれ、体を兵士に拘束されたかつての近衛兵の男は両目から涙を流しながら叫ぶ。
「責任ですッ!」
それを聞くと、シリウスは静かに足を男の頭から離し、顔を綻ばせる。
「よし、それで良いぞ、貴様ら敗者に物を決める権利は無いと思え。フフフフ」
シリウスはそれから大きな声で笑うと、次にもう一度声のトーンを落とし、真剣な顔を浮かべて、
「これから私が責任を取るのに相応しい人物を決めよう。近衛兵団の隊長は誰だ?」
涙を両目から流している中年の男が弱々しい声で言う。
「わ、私です。私が帝国近衛兵団の隊長でした」
シリウスは弱り掛けた中年の男を見て、満足そうに首を縦に動かして、
「よし、お前だな。これから、お前を死刑に処す。罪状は最後まで偽の皇帝に従い〈世界皇帝〉の解放を止めた罪というのはどうだ?」
シリウスの迫り来る顔、そして何よりもそこから発せられた言葉が近衛兵団の隊長には恐ろしく感じられた。
古より伝わりし、邪神、テスカトリを思わせるような恐ろしい顔。
近衛兵団の隊長はシリウスの指示で両腕の下を掴まれ、連れ去られる最中、脳裏に家族との思い出が浮かぶ。
恐らく、これから自分は処刑されるだろう。腕を掴まれながら死を覚悟して城の中を引き摺り回されていると、彼がついた先は地下の牢獄であり、到底処刑場とは思えない場所である。
乱暴な手付きで牢獄の冷たい地面の中に突き飛ばされるも、彼は嬉しかった。
きっと、シリウスなる男は自分を何らかの目的のために生かす事に決めたのだろう。
先程まで自分を運んでいた部下に何やら耳打ちをしてから、自身の手に鍵を握らせて、地下の部屋を閉めさせる。
恐らく、何らかの目的で自分を生かすという選択肢を取ったのだろう。
男は家族に会えるという喜びから、自然と笑みが溢れたが、右足のスネに謎の痛みが走るのと同時に彼は先程まで浮かべていた笑顔を消し飛ばし、言葉にならない程の激痛を感じる。
口を大きく広げている最中に、シリウスが足音を立ててこちらに現れて、引っ張り上げた後に、胸ぐらを掴む。
「安心しろ、お前は死んだという事になっている。なぁに、近衛兵団は全員、焼却死させるからな。その際に顔も焼かれる。お前の身元が割れる心配も無くな……」
「う、嘘だろ!?やめてくれ!私には女房も子供もいるんだッ!私が帰らなければ、あの子達はどうなる!?」
シリウスはその言葉を聞くと不快そうに両眉を顰めて、右腕に掴んでいた彼の服を更に強く引っ張っていく。
そして、強く顔を叩いてから、大きな溜息を吐く。
「どうして、貴様ら敗者は素直に死を受け入れん。どんな時もそうだ。常に貴様ら敗者は聞いてもいない自分の境遇を語り、同情を寄せようとする?大人しく、勝者に従っていれば良いものを……」
そう言ってシリウスは近衛兵団の隊長を乱暴に地面に落とし、足に負った傷のために動けない彼を見ながら、魔法『地獄転移』の呪文を唱えていく。
近衛兵団の隊長はシリウスの発する呪文の意味を理解できた。
だが、右足は見た事もない凶悪な兵器により大きな傷を負っており、簡単に動く事は出来ないだろう。
彼は恐怖に苛まれながら、彼の発する呪文を聞いていく。











場所は変わり、パンゲール大陸。
ここの南部には異形の者が住んでおり、それを束ねるのは魔王であるとされる。
が、現在、魔界を支配する男はその姿形は完全な人間であり、異形のものとは程遠い。
そんな彼がどうして魔界を支配する玉座に座っているのかと言われれば、彼は魔王の娘、ライジアの摂政としてその権力を振るっているためである。
そんな男は魔王の座る玉座に座りながら、数日前の事を思い返す。
あの後に、帝国の封じた邪神、テスカトリを近衛兵団の隊長の肉体を使用して、現世に呼び出し、あくまでも臣下を装った丁寧な口調で彼を皇帝の代理に任じ、帝国の領土の統治を命じた。
そして、皇帝の就任式と同時に旧帝国領土の委任式を行い、彼は一度魔界へと戻り、代理を任せていた降魔霊蔵から再び統治権をもらい、摂政として政治を行なっているのである。
シリウスに政治家としての欠点は無い。その点、彼は古来よりの有能な為政者と同等の器を持っていたという事である。
だが、彼らと大きく異なるのは、
「あの生意気な小僧はまだ死なぬのか!?」
「で、殿下……落ち着きを」
黒い執事服を身に付けた老紳士風の悪魔が諫めるのだが、彼はその言葉を聞く事なく、歯をギリギリと鳴らしていく。
彼は執事に下がるように指示を出し、お気に入りの配下、降魔霊蔵を呼び付ける。
霊蔵は玉座の前に平伏しながら、
「お呼びでございましょうか?頭領」
と、彼の機嫌の悪さを読む事なく、いつもの調子で言った。
いや、彼の場合は敢えて言わないのかもしれない。
だが、そんな様子がしゃくに触ったのかもしれない。
シリウスは拳を握り締めながら、
「オレがどうして不愉快なのか分かるか?」
「知っておりまする。例の小僧の事でござりましょう?ですが、ご安心召されよ。あの小僧への対策は練っておりまするからな」
「どのようにだ?言ってみろ」
シリウスの言葉に霊蔵はいつもの不気味な笑顔を浮かべながら、
「各国の王や皇帝に根回ししたのでござります。あの小僧は必ずやあなた方の大切な人間を傷付けようとする。早めに排除しておいた方が賢明だと」
シリウスはその言葉に秘められた真意を察し、小さく笑う。
それから、機嫌が治ったのか、玉座から勢いよく立ち上がり、
「あの女だッ!あの女を呼べッ!」
「分かり申した!あの女でございますな?」
霊蔵は頭領の意思を察してか、顔にニヤけた面を浮かべて玉座の前を去っていく。
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