シリウス・イントルーダー・ロード〜暗黒神に見染められた前作のラスボスは異世界で猛威を振るう〜

アンジェロ岩井

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アールランドリー大陸編

パチャテク帝国攻略史ーその⑨

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「駒は全て揃った。今こそ、強大なる王国を攻略する時よッ!」
シリウスは自身に向かって叫ぶのと同時に、兵士のために用意されていた椅子から立ち上がり、自身の治める北の国へと戻っていく。
国に戻ると、彼はケイトや他の重臣たちから再び統治権を委任させてもらい、自身は皇帝として宮殿のバルコニーの前に集まった民衆達を鼓舞していく。
シリウスは大きく息を吸ってから、民衆が完全に静まり返り、沈黙という空気に彼らが完全に沈んでいくタイミングを見計らって演説を始めていく。
「良いかッ!諸君らに伝えたい事があり、本日はそのためにやって来たのだッ!王国が愛し、私が王冠を与えた女王はその夜にも無残に殺害されたッ!その主犯が分かったのだッ!」
暫くの沈黙の後に、シリウスは人差し指を重く閉ざされた唇を開く鍵であるかのようにゆっくりと離し、それから大きな声でハッキリと断言する。
「それはパチャテク帝国皇帝よッ!卑劣なる皇帝は刺客を放ち、自らの害となり得る女王を殺したのだッ!諸君らはこれを許せるか!?」
右腕を大きく振って、問い掛けた答えは始まりは一人の国民から、次に集まった国民全員に伝染していく。
それぞれの国民が理性を完全に頭の片隅から追いやり、大きな声で断罪の言葉を叫んでいく。
シリウスは満足そうな表情で大衆たちの様子を眺めながら、その断罪の声が止むのを待つ。
そして、その声が緩み始めた時だ。彼は今一度大きく腕を振るって、
「諸君らの意思は汲んだッ!今より、我らは皇帝の軍として我らが女王を殺した卑劣な皇帝に罰を加えるために兵を進めるッ!我らが女王を殺した皇帝に死をッ!」
シリウスが強い言葉で右腕を振り上げると、集まった大衆たちも彼と同じ動作を行う。
大きく右腕を振るって、パチャテク帝国滅亡を訴える大衆たちの姿を見てから、シリウスは足を宮殿の奥へと向かわせる。
シリウスは宮殿のバルコニーから玉座の間へと向かう道の傍に現れるケイトを始めとした国の重臣たちに向かって矢継ぎ早に尋ねていく。
「我らが即座に向かわせられる数は?」
「現在の国軍ではおおよそ、五千が限界かと……」
「五千では足りぬ!例え、帝国内にて内通する者がいたとしてもな……皇帝に恐怖を与えるのにはそれだけの数では不足なのだ……」
忌々しげにはをキリキリと鳴らすシリウスに向かって、ケイトは恐る恐る右手を挙げて、意見を具申する。
「なんだ?」
「恐れながら、現在の我が軍の数は五千でございますが、志願兵を集めればどうなるでしょう?」
「志願兵だと、どのくらいの数を見込める?」
シリウスの他を圧倒するような圧力に対しても、彼女は真っ直ぐな視線を浮かべ続けて、堂々とした口調で告げた。
「おおよそ、二万五千……かつて、スタインベルト王国に攻め入った時と同等の数が見込まれます」
シリウスはその言葉を聞くと、上機嫌に両膝を叩いて、一度座っていた玉座から立ち上がる。
「よし、ケイトッ!国民の英雄であるお前はこの場に残れッ!私は先に五千の軍を率いて、帝国へと向かうッ!」
シリウスがそう言うのと同時に彼女は玉座の前に跪き、主人が去るのを待つ。
シリウスはいよいよこの国取りの終盤が差し迫った事を確信し、口元の右端を大きく吊り上げた。











「シリウスが言うには決起した暁にかつての北の二王国の軍を向かわせると言っていたな?ナルシー。その件についてはお前はどう思う?」
ワアン皇太子は自身の従者にして、シリウスが内通者として置いていった目を見張るばかりの美少年に向かって問う。
「……。我らが頭領、いえ主人は企てた計画は必ずや成功させるお方……お二方の計画が狂う事は無いと思われまする」
ナルシーの言葉にワアンは二日前の事を思い出す。
帝国内にある宮殿を破壊され、自分達が神々や精霊達の力を借りられなくなったあの日以降、彼は姿を消した。
その日の夜、二人は将軍と二人、頭を抱えていたのだが、例の少年が夜に酒を持って訪れ、自身の唇を奪ってから、
「あのお方ならばご無事でございます。今から、なぜならば、『私はこのように他人の口を借りて喋る事が出来るからな』ーー」
愛らしい顔をしたナルシーの少年の口から発せられたのはいつもの可愛らしい声ではなく、あの男がいつも発していた低く死人のように冷たい声。
それをナルシー少年の口から聞くと、ワアン皇太子は驚くのと同時に、ナルシーの少年から聞かされた言葉を聞いていく。
まず、今より一日の間に二人で兵を整えて、クーデターの準備に備えろという事。次にその翌日に将軍は帝国内の重要施設を襲撃し、次々と要人を殺し、政府の機能を完全に破壊し、混乱を生み出している間に、ワアン皇太子は玉座の間を制圧し、皇帝の地位を奪う。
そして、その状態の時にシリウス率いる軍隊が攻めるというものであった。
「成る程、完璧な計画だッ!」
ワアン皇太子は喜びのあまり両手の拳を握り締めて叫ぶ。
だが、アタワルパ将軍は両腕を組んで両眼を暫く閉ざした後に、もう一度大きく両眼を開いて、
「だが、それらの重要施設を掌握したとし、混乱を国に招き入れたとしても、民衆はその後にワアン皇太子、あなたに付いて来るだろうか?むしろ、我らはこの事態を招き入れたとして、弾劾されるのでは無いのか?」
最後の最後でトーンが低くなっている事を意識したのか、アタワルパは何も言わずに俯く。
だが、そんな弱気のアタワルパを変えたのはナルシーの体を借りたシリウスであった。
シリウスは大きな声で一喝すると、
「情けないぞッ!そのような事でお主の恋焦がれたヴァシュタル王妃が解放されるとお思いか!?」
瞬間、アタワルパの体に雷が打たれたかのような衝撃が響いていく。
「その通りだ。オレは躊躇っている場合ではないな……」
アタワルパは一瞬、ワアンの方に向き直って、
「計画の準備に一日……殿下、お忘れなきを……」
アタワルパがそう言って、自室を出ていくのを確認すると、ワアンもふぅと小さな溜息を吐いて、両肩の力を抜いていく。
その様子を見たのか、シリウスも肉体の意思を元のナルシー少年に戻し、正気に戻った少年はナルシーの元に寄り、妖艶な様子で彼の耳元に優しく息を吹き掛ける。
「殿下、どうですかな?今夜は?」
お付きの少年の言葉を皇太子は両頬を初恋の少女のように赤く染めながら聞いていた。
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