シリウス・イントルーダー・ロード〜暗黒神に見染められた前作のラスボスは異世界で猛威を振るう〜

アンジェロ岩井

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アールランドリー大陸編

パチャテク帝国攻略史ーその⑦

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降魔霊蔵は地上へと上がる階段を登る中で、背後のシリウスに向かって笑い掛けて、
「しっかし、頭領の悪党ぶりも流石でござりますな。これでいくつ朝廷を破壊なされた?拙者が知る限りでは既に三つでございますが、頭領はこれからも天子を殺していくおつもりかな?」
「無論だ。この世に皇帝天子はおれ一人。それ以外は要らぬ。今は魔王の地位をあの女にも譲っておるが、いずれは私が奪うつもりだ」
シリウスの言葉を霊蔵は嬉しそうな表情で受け取り、次に彼に向かって表情を浮かべて、
「なるほど、頭領は誠に拙者めの想像の付かぬ場所に居ておられじゃ、そのような事は元亀天正の世に世を制し掛けた織田信長公や世に名高き、大閤豊臣秀吉、三百年以上もの太平の世を築いた将軍、徳川家康でさえかような考えには至らぬかったでしょうな。あなた様がもし戦国の世に生まれておいでなれば、恐らく、薩長の世は無かったでしょうな……」
霊蔵の表情に影が生じ、彼の発した言葉の端が最後は落ちている事に気が付く。
シリウスは両肩を落とすシリウスの肩を叩いて、笑顔を見せて、
「安心しろ、今は確かに前の世界とは違うが、荒れ様は時間の荒れようは元亀天正の世とは比較にならぬ。例えるのなら、古代中国の春秋戦国……いや、それ以上の時代であろうな。神が私をこの様な世に派遣したのも私にこの荒れた世を治めようという事なのだろう」
シリウスがその言葉を発するのと同時に、神殿の中に夜の光が注ぎ込まれ、二人は外に辿り着いた事に気が付く。
シリウスは狭い遺跡の入り口から夜の闇を見下ろし、暫く景色を楽しんだ後に霊蔵を連れて遺跡から退出していく。
シリウスはそれから遺跡の側で横たわっている老婆に向かって右手の掌を広げて、老婆の体を燃やしていく。
「ふん、他愛無い。この様な老婆に一度は殺されたのかと思うと、虫唾が走るわ」
シリウスはそう言って灰となった老婆を右足で踏みにじり、右足を大きく振りかぶって灰を蹴り飛ばすと、霊蔵に向き直り、
「さてと、このあとはどうする?霊蔵……私と共にこの国の国取りに協力するか?お主は分身なのであろう?」
だが、その言葉に石の上で膝を突き頭を下げていた霊蔵は首を横に振って、
「折角ですが、ご辞退致しまする。私めは一度本体の方に戻り、一度融合した後に妹君のいや、副頭領の補佐に参ろうかと思うておりまする」
「そうか、ならば、お主に任せよう。それから、最後に聞くが、あの小僧の始末はどうした?」
霊蔵はその質問を聞いた後は雷の落ちた後に呆然と空中を見上げる通行人のような表情を浮かべたが、直ぐにいつもの笑顔を作り直して、
「まだでございますが、ドロシーならば心配いらぬとは思われまする。あの女とかつて魔王側近の暗殺の旨に加担しましたが、あの腕は素人のそれではございません。恐らく、合流するなり、小僧の首をあなた様の元に差し出すでしょう」
その言葉を聞いたシリウスは満足そうに首を頷かせて、宮殿の方へと戻っていく。
霊蔵は報告を終えると、直ぐに転移魔法を使用し、もう一つの大陸の南の方にある自身のオリジナルの存在する城へと戻っていく。











「まだ子供なんですね。少し躊躇いがある様な気がします」
ドロシー・ウェントワースは部下からの報告を受けるなり、そう溢したのだが、部下の一人である黒いフードを被った骸骨の形をした怪物は険しい表情で彼女に迫り、
「ドロシー様!その様な事でどうなさるのですか!?子供とは言え、あのお方の敵でございます!加えて、ドロシー様はあのお方が魔界にて地位を手に入れる前からお仕えしているのではございませんか?その様な弱気でどうなさいます!?」
あまりの剣幕に流石の女流騎士も怯んだのか、一度言葉に詰まってから、
「わ、分かりました。ですが、私の気持ちも汲んでくれませんか?彼は私の死んだ弟と同じ年齢なのですから……」
悲しそうに視線を落とすドロシーに何も言えずに魔界の部下は引き下がっていく。
ドロシーは勇者、パキラの姿とかつて死んだ彼と同い年の少年の事を思い出していく。
ドロシーの弟、ロバート・ウェントワースはドロシーにとってこの世に残されたたった一人の家族であり、彼女にとってのかけがえのない宝物であった。
ドロシーは彼を可愛がったし、彼もドロシーを愛し、互いに思いやっていた。
そんな歯車が狂い始めたのはいつの事だったのだろう。
大切な弟が虐められている事に気が付いたのはドロシーが彼の洗濯物を洗っている時であった。駐屯所には大勢の兵士が集まっており、その中には当然兵士たちの家族も存在し、駐屯所には臨時の学校があったくらいである。
恐らく、普通ならば付けられないであろう靴で付けた様な汚れがあり、弟を問い詰めたところ、虐めが発覚したのである。ドロシーは兵士の親たちに、彼女の同僚に弟への虐めを止める様に進言したのだが、彼らは一蹴に付し、それどころか貧乏人の僻みだ、貴族の地位にある自分を貶めた存在であると公言し、彼女自身も虐められる存在となっていく。
姉弟は苛烈な虐めの標的となり、地獄の様な日々を送ったが、彼女の堪忍袋の尾が切れたのは大切な弟、ロバートが“遊び”で上級の騎士に殺された事であった。
主犯格の貴族の少年は遊びの首絞めごっこで弟を殺した事を悔いるどころか、汚物をこの世から消去した事を大きく公言し、自慢の種にし、親がそれを周囲に褒め散らしているという有様。
これを聞いた瞬間に、ドロシーの頭の中から『我慢』の二文字は消え去り、後は本能のまま、修羅羅刹のように剣を振るっていく。
彼女一人による軍隊の殺戮は一個中隊を後、二人という所にまで追い詰めた所まで続き、一人は致命傷を負わされた自分が死に物狂いで斬り殺し、最後の一人は現在の自分の主人、シリウスが片付けた事により、決着が付いた事を思い返す。
その後、彼女は大勢の人間を殺した角で地獄へと落とされたが、最後の一人を殺したシリウスの手によってこの世界へと戻されていく。
勿論、シリウスには恩義がある。だが、彼と弟の顔とが被る以上、剣を振るうのには抵抗がある様な気がする。
ドロシーがつい視線を落としていると、部下の幽鬼が激しい口調で自身の名前を叫ぶ。
「わ、分かってます。摂政殿下の命令に背くつもりはありません。パキラなる少年を追いましょう」
彼女は躊躇いの感情を押し殺し、右手に鞘に収められた愛刀を持って勇者を追っていく。
だが、何故だろう。どうして、死んだ筈の弟の声が聞こえてくるのだろう。
「お姉ちゃん、もうやめて」と。
ドロシーは首を横に振って少年を部下共に追い掛けていく。
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