シリウス・イントルーダー・ロード〜暗黒神に見染められた前作のラスボスは異世界で猛威を振るう〜

アンジェロ岩井

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アールランドリー大陸編

パチャテク帝国攻略史ーその③

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パチャテク帝国、アタワルパは許されざる恋に落ちていた。初めは対、アラミッド王国との戦いに向かった時であった。
アラミッド王国とは戦いを繰り広げ、彼はとうとうアラミッド王国の王女、ヴァシュタルを生け捕りにし、それを王の前に献上したのであったが、王はその王女をいたく気に入り、自分の妃にすると主張したのである。
最も、息子が異性にあまり関心を示さない以上はこの処置は妥当とも言えるかもしれない。
だが、アタワルパからすれば、ヴァシュタルを娶れない事は大きな事であり、同時に王は彼との約束を破った事になったのである。
王はアラミッド王国に打撃を与え、滅ぼす事に成功すれば、自分にどのような褒美でも与えると約束した。
なので、彼は当然、この女性を娶りたいと志望したのだ。
この咲いたばかりの花を思わせるような美しい少女は誰もが手にしたいだろう。
仮に、年齢が10歳にも満たない年齢だとしても、目を見張るばかりの可愛らしい風貌の少女はこれまで戦しか知らなかった将軍に光を見出したのである。
彼は夜な夜な王があの麗しいヴァシュタルに手を出しているかと思うと、眠れる状況にはなく、常に配下に不機嫌なオーラを纏わせている事から、部下の兵士達もやりづらくなってしまう。
アタワルパは彼女を引き取り、妻にし、しかるべき時が来れば、彼女との間に子供を授かりたいと思ったが、相手が王では叶いそうもあるまい。
そんな思いを掲げながら、今日も陰鬱な気分で酒を上げようとした時だ。
将軍のために用意された部屋をノックする音が聞こえ、将軍は酒を飲むのを辞めて、横柄な声で入るように指示を出す。
指示に従い入って来たのは真っ白な肌に、短い金色の髪を持つ美男子である。
アタワルパは一度、この男は噂に聞く『世界皇帝』なのかと警戒の目を向けたが、彼が柔和な笑顔を浮かべるのを見ると、その警戒心も何故か薄れてしまう。
アタワルパは兵士の鎧を着た新兵と思われる男に何の用かを問う。
すると、彼は待っていましたとばかりに口元の右端を緩めて、
「いや、なぁに、あなた様がずっと苦しんでいるのを見るに見兼ねましてな。それで、私がここにあなた様の野望を示すために現れたのでございますよ」
それを聞くなり、アタワルパの両眼がカッと見開き、地面も震えんばかりの声で叫ぶ。
「戯けがッ!誰がそのような事を頼んだ!?私の心境にズカズカと入り込んでくるな、無礼者がッ!」
だが、新たに現れた男は怯まない。それどころか、ニコニコとした笑顔を崩さずに、
「あなた様は王妃様を召されたくはありませぬか?」
「何?」
アタワルパ脳裏の両眉が上がる。目の前の男は何を言っているのだろう。
王妃に手を出すなど、国家反逆罪に問われても仕方がない行為である。
目の前の新兵と思われる男は平気で言ったのである。
将軍は叫んで男を国家反逆罪の角で即刻処刑しようと腰に下げていた金色に光る剣に手を掛けようとしたが、その腕は他ならぬ男の腕によって止められてしまい、動かす事ができない。
離せと叫ぼうとする将軍の腕を容易く止めた男は相も変わらず将軍の耳元で囁く。
この国の皇帝になりたくはないか、ヴァシュタルを妻にしたくはないかと。
将軍は最初こそ歯を食いしばって誘惑を除こうとしたが、最後には話を聞いてしまう事になった。
将軍は男の話を聞くうちに、彼が単なる新人兵士どころか、北の国の二王国の実質的な支配者である『大陸皇帝』を名乗る人物である事が明らかになった。
彼は彼を王国の上層部に引き渡そうとしたが、男は部屋を退出しようとする彼の唇を奪い、彼を無理矢理に引き止める。
それは一見して、意味の無い行動であったかもしれないが、シリウスにとっては相手の口を塞ぎ、尚且つ一次の隙を突いて自身の話を聞かせるという意味のある行動である。
加えて、シリウスの顔は前の世界でもこの世界に転移させられてからも、顔の良い方だと言われ続けていたために、あまり不快な顔をする者はいない。
接吻により大人しくなったアタワルパを将軍の部屋に設置された執務のための豪華な椅子に座らせ、入念な自身の計画を話していく。
計画としてはこうだ。予め宮殿に兵を隠してから、王と謁見し、その後に将軍は王の喉元を貫き、王を殺害した後に、ヴァシュタルを強奪する。
そして、将軍の反乱が起こるのと同時に、自身が兵を向かわせる。
幾ら、帝国の兵と言えども反乱軍と攻めて来る軍隊を同時に相手にするのは難しいというシリウスの策略であったが、アタワルパはその提案にさえ首を横に振る。
「ダメだ。お前はこの国の兵や将軍の強さを知らぬからそのような事が言えるのだッ!この国の兵士は全員が全員、我らが全能なる神から授かりし力を持っておる。私が宿す神は確かに、彼らよりは強いだろう。だが、彼らが集まれば、私は我らの力の前に死ぬであろう」
シリウスはこの言葉に押し黙ってしまう。もし、この国の兵士全員が神から授かりし力を持っていたとすればシリウスとてそれを倒すのに苦労はするだろうし、全員を魔の力で葬り去ったとしても、その後に自分を待つのは反感だけだろう。
少なくとも、多くの虐殺をした自分に大衆達が靡くとは到底思えない。
現地の人気のある人物をお飾りに指示を得る事は出来るかもしれないが、そのお飾りが増長し、シリウスや魔界に牙を向いた場合はどうなるのだろう。
対処し切れるとは思えない。
シリウスが項垂れて別の作戦を考えようとした時だ。
彼の頭の中に自身の信頼する部下、ナルシーの声が響く。
どうやら、あの男がこちらに付いたらしい。そう、皇太子ワアンが付いたという。
なれば……と、シリウスは思い直し、退出しようとした足を再び部屋の方へと向き、アタワルパに向かって言った。
「もし、反乱に加わる人物が貴君一人でないとすればどうかな?それとも、皇太子と将軍とで、悪逆非道なる皇帝を討ち滅ぼすという策略では不足でござるか?」
シリウスの言葉に妙な説得力と、そして自身を引き寄せる魔性のようなものがあった。
アタワルパはワアン王子と組む事を決め、この国の皇帝により、理不尽に奪われた自身の妻を取り戻す準備を行う事になった。
シリウスはアタワルパがやる気になったのを確認し、転移魔法を使用し、スタインベルト王国へと戻り、この事を伝えに行く。
暫くは北の二王国とパチャテク帝国とを行き来する事になりそうだと苦笑した。
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