シリウス・イントルーダー・ロード〜暗黒神に見染められた前作のラスボスは異世界で猛威を振るう〜

アンジェロ岩井

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アールランドリー大陸編

海を渡る

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ケイトリン・“ケイト”・ハンプシャーは慣れない船に酔ってしまったのか、中身を吐き出しそうになってしまう。
だが、懸命にそれを抑えて船の揺れに耐えていく。
船の酔いは自身を何度も襲ったが、自分をこの世に生き返らせてくれた主人のために寵妃になるため、そんなみっともない事は出来ないと、必死に首を横に振って吐くのを我慢する。
彼女はパンゲール大陸の人間や魔物の中でも数少ないアールランドリー大陸に足を踏み入れた人間となる筈である。
彼女はそのためにも、彼女は懸命に船酔いと戦い魔法の妨害さえも交わし、ついにアールランドリー大陸へと足を踏み入れたのであった。
ケイトは現在、アールランドリー大陸の港におり、その後に何らかの手段を用いて、のし上がり、後に魔法で海を渡って来るつもりらしいシリウスと話し合いながら、大陸で一番海に近い、スタインベルト王国を乗っ取るつもりであった。
彼女はてっきり、海の近くに質素な木造りの港があり、その近くに二、三軒の家があるとばかり思っているのかとばかり思っていたが、港町の様子は自分が住んでいた大陸の港町と殆ど変わらないらしい。
停留所に多くの木船が停まっている他、質素なそれでいて海から生じる風によって錆に侵食された白い壁の家々が所狭しと並んでいた。
ケイトは街を歩き、そしてシリウスから預かった金貨を売り、この港町及び大陸で使える金に換えてから、停留所の近くにある二階建ての宿屋に泊まったのであった。
宿屋に篭り、彼女は計画を練っていく。パンゲール大陸の南部から定期的に送られる使いは何度も近況を聞いてくるだろう。
その度に、まだですと答えていてはいずれ、顰蹙を買い粛清される事は目に見えている。
彼と親密に話したホリスター将軍によれば、彼は手柄を上げた者にはそれ相応の見返りを与えるが、手柄を上げない人間には死や罰と言った穏やかではない処置を与えると言う。
ケイトはそれを聞いた時に恐ろしく感じた。自身の主人であるあの男は自身が失敗したとなれば確実にそれを責めるだろう。とは言っても王に接近する手立てなどない。
彼女にあるのは斧の腕だけだ。どうしたものかと途方に暮れ、ふと窓の外を眺めていると、宿の外で若者達が一つの立て札の前に集まっている事に気が付く。
ケイトが階段を降り、集まった男達に尋ねると、彼らにどうして集まっているのかを尋ねる。
集まっていた若者のうち一人、元の大陸では見慣れぬ黒色の肌をした男が心地良く答えた。
「しらねぇのか?姉ちゃん?近くの村々を盗賊が荒らしているらしいから、この任務に人が必要なんだとさ。性別年齢は問わないから、誰でも軍に入ってくれって話らしいぞ、余程、人が足りなくて困ってんのかねぇ~」
ケイトはこれを天聞いた時、天の助けと考えた。この軍に入り、順調に功績を挙げていき、そこで自分に従う人間達を増やしていけば、主人の野望に少しでも花向けるできるのではないのだろうか。
ケイトは街の鍛冶屋で斧を購入すると、慌てて立札の前に戻り、先程の男にこの軍の偉い人が何処にいるのかを尋ねる。
男の話によれば、軍の偉い人間は街の駐屯所に詰めているらしい。
ケイトは男に礼を言って、その場を立ち去ると、軍の駐屯所へと向かう。
そこへと向かう彼女の目に躊躇いの文字は無かった。












斧を持った女性の勇名は隣国のスタインベルト王国にも届いたらしい。
彼らは盗賊の出現に便乗し、自分達の兵士をこっそりと盗賊団の中に潜り込ませていたのだが、それらの任務に就いた兵士が斧を持った女性の手によって一瞬で頭をかち割られてしまったらしい。
時に王位継承権一位の座を持つ王子カルロスは自ら馬に乗り、剣を持ち、兵を率いて憎き隣国、オーランドリュー王国の殲滅に向かう事にしたのであった。
この時にカルロス王子が率いていた数は実に二万三千というべき数であり、スタインベルト王国の八割に当たるという破格の兵力で当たったと言われている。
これを迎え撃つべく王国が派遣した数は三千。
あまりにも小規模な数であり、道に現れた虫を踏み潰すかのようにあっさりとスタインベルト王国は倒れるかと思われた。
だが、ここでも奇跡が起きたのであった。斧を持った女傑は最前線にて頼りの無い上官に代わって、三千の兵を率いて、道中の野原に休息中のカルロス王子の軍勢に奇襲を掛けたのであった。
ケイトリンことケイトは斧と恐るべき魔法を併用して使用し、更に偶然発生したと思われる雷雨(後に極秘に大陸を訪れたシリウスの仕業と判明)によって散り散りになった兵士を蹴散らし、カルロス王子の首を取り、スタインベルト王国に勝利をもたらしたのであった。
ケイトやスタインベルト王国の大衆達にとってこの勝利は記念すべき勝利であったが、反対に苦い思いをしたのはオーランドリュー王国の人間と王国の王に貴族達であった。
彼らは指揮を取る際に怯え、全ての指揮をケイトに一念していた事を大衆に知られ、彼らは国民からの信頼を失っていた。
加えて、ここに今年の異常なまでの害虫騒ぎ(後にこれもシリウスの仕業と判明)により、多くの死者を増やした事が王国の上層部に衝撃を与えたらしい。
反対に、ケイトリンことケイトは我らの英雄と大衆から持ち上げられ、いつの間にか大衆の間に彼女を利用して、反乱を目論もうという意見が上がっていく。
ケイトがそんな噂に顔を綻ばせながら、自身に用意された下町の二階建ての茶色の壁をした大きな家の中の書斎の椅子の中にもたれ込み、一息を吐いていると、突如、自身の背後にある窓が開けられ、彼女の部屋の中に男が入って来た。
ケイトは大衆には見せないような怯えるような顔を見せて、彼の元に跪く。
男はそんな彼女と視線を合わせるように、しゃがんで、彼女と目線を合わせて、
「大分成長したではないか、三ヶ月前に送り出した時とは顔も違うな。よもや、そなたがあそこまで斧を振るえるとは思わんなんだぞ」
その言葉にケイトは改めて平伏し、自身の主人に感謝の言葉を述べる。
「勿体のぅ、お言葉でございます。これも、あなた様が時折、魔法で現れ、私に異なる世界の偉人の話を聞かせてくださった故……私の力ではございませぬ」
「そうでもないぞ、お前は実によくやってくれている。恐らく、お前が居なければ、カルロス王子は討ち取れなかったであろうし、その斧の腕があればこそお前は多くの邪魔者を斬り倒し、僅か三ヶ月の間に一兵卒から騎士の地位にまで上がったのだろう?」
「ええ!あなた様が一月前!私が盗賊の討伐を完成させ、仲間からの信頼を得た時に、初めて教えて頂いた遊び人から皇帝に成り上がった者のお話!この私はあなた様からお話頂いたあのお話を糧にここまで成り上がって来たのでございます!そして、あなた様の凄さ!私は大陸間を移動できる魔法に敬服致しております!」
「そうか、気に入って貰えて良かった」
彼の主人にして魔界の摂政を務める男は柔和な顔を浮かべて言った。
余談であるが、この男は度々の訪問の折に古今東西のアジアの歴史の話を引用し、彼女を奮い立たせていたのであった。同時に勝つための手段や王国の害虫を自身の手で発生させたという情報を教えたのも彼であった。
ケイトはこの話を聞き、先程の男の話と共に主人であるシリウスは常に自分を見守っているのだと思っていたのであった。
ケイトはそんな敬愛する主人から今日も面白い授業を拝聴する事にした。
今日はどんな話を聞けるのだろうと彼女は目を輝かせていた。
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