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魔界侵略編
魔界は動き出す
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「成る程、全ての場所に潜り込ませた我が転移衆は順調に皇帝とその一家の歓心を買う事に成功したらしいな」
シリウスは玉座の肘掛にもたれながら、満足そうに呟く。
「副頭領もヴィクトリアも各々が任務を果たしておりまするぞ、さてと、彼らが国を傾けて、混乱に陥るまで、何をなさりますか?最早、この南部はあなた様の手の内……これ以上の敵はございますまい」
シリウスは肘掛をコツコツと叩きながら、今後の事を思案していく。
魔王の座る玉座の肘掛を鳴らす音は二、三分の間程、聞こえたが、音が鳴り止むと、報告に訪れた霊蔵に耳打ちをして、
「成る程、もう一つの大陸の方を襲うつもりでございますな?」
「その通り、我が忠実なる僕達が二つの帝国を傾けている間に、我々は国外に打って出る」
「成る程、国外に目を向ける事で、海の向こうの敵と戦うことにより、北部や中部の人間どもに歓心を寄せ付けず、その間に転移衆のお方々や副頭領がお持ちになる功績をお待ちになるつもりなのですな?」
シリウスは首肯した。
「分かり申した!ならば、儂はこれから、魔族の四天王を集めまする。彼らに侵略の相談をなさられるとよろしいかと……」
そう言って玉座の前から立ち去る霊蔵の姿を眺めながら、シリウスはつい数週間前の事を思い返す。
神前試合を勝ち抜いた彼はその後、暗黒神ベリアドルとの契約の儀式で、ライジアの代行者として認められ、魔王の摂政としてこの国を治められる事が決定付けられた。
そればかりか、暗黒神ベリアドルは生前に自身の愛読書であった『三国志』と『水滸伝』の本を贈り、彼の生活の中にあった娯楽色を強めていく。
シリウスは摂政として玉座に座ってから、彼はかつて情報を集める際に利用した新聞社を抱き込み、ピストルを手に、魔王家の広報誌としてなるように命令を下し、彼は報道機関の一部の掌握に成功した。
そして、彼は歴代の魔界統治者には見られない無欲ぶりをアピールするのと同時に国民に『食事と娯楽』を与える事に専念した。
彼は昔、読んだ歴史の本に大衆には娯楽と食事さえ与えておけば、政治には無関心だという記述に倣ったのであった。
他にも彼は先王までの悪しき風習を廃し、商人達に好きなギルドに入り、好きな物をそれぞれが売った良いという命令を下したのであった。
これにより、各々が好きなギルドを作り上げられたばかりではなく、商人や商人を目指す人間の強制加入により、その利益を上げていた大型ギルドは打撃を被り、彼らの贅沢のために使う金を失った。
当然、市場が回る事により、税も多くシリウスの元に入って来る。
ここで、問題となるのは魔王の冠を持ち、魔王の血を引くライジア・フォン・ヴァートリーファルの存在であった。
これにもかつての世界で読んだ本が役にたたった。
シリウスはライジアが実際には政治を行なっていない事に憤りを感じていたと思われる男装の執事、インフェットを始め、魔王の血を引く娘が政治を行なっていないと抗議する声があったものの、彼は彼らに『国王は君臨すれども統治せず』の標語を唱え、反論していく。
彼らが不平不満を訴えるたびに、彼はかつての世界の絶対王政社会の下で、革命を起こされた悲惨な末路を辿った王家の物語を語っていく。
フランスのブルボン朝、ロシアのロマノフ朝のみならず、多くの王家の最後を語ると、彼らはすごすごと退散していく。
つまり、彼は権力と権威の分断に成功したのであった。
これにより、シリウスの中でも考えが変わった。初めはインフェットとライジアの二枚は用済みとなれば、自身の部下に始末させる予定であったが、『権威』として利用できるのならば話は別だ。
日本の将軍家が京都の朝廷を『権威』として利用したように、自身もそれに倣おう。
彼はそう考えて、抹殺命令を取り止めさせたのであった。
後は、魔王の家に代々仕えていたいわゆる譜代の家臣達が自分になびくかどうかだ。
そんな事を考えていると、彼の座る玉座の下に四人の異形の姿の男女が跪く。
黒色のタキシードから蝙蝠のような翼を二本生やした三本の角を生やした男に、象のように巨大な体に蜘蛛のように六本の腕を生やした男。
そして、黒色のゴシック調のドレスを身に纏った今、咲いたばかりの桜の蕾を思われるような可憐な少女、そして、可愛らしく二本の角を生やしている以外は人間と殆ど変わらない、それどころか、人間の世界でも注目される程の顔を持つ金色の髪をした女性。
この人物が代々の魔王の家に仕えてきた四天王とも譜代の言える存在であった。
寿命は不明であるが、少なくとも千年以上前の文献に彼らの事が記されている事から、その実力と知識は確かなものだろう。
シリウスは地面の上で平伏する彼らに冷たい声で言った。
「今宵、お前達を呼んだのは他でも無い。今後の政策の事だ。率直に言おう。私は今後、もう一つの大陸に攻め入るつもりだ。これについてはお前達はどう考える?」
「断固、反対ですな」
最初にシリウスに意見を述べたのは黒いタキシードの悪魔ことアントニム。
「今回の戦いは無謀です。第一、我らには向こうの大陸の知識がございません。それに、北部や中部の国々がその隙を突いて、我々を攻撃する可能性がございます。その点についてはどうお考えでございましょうか?」
「フン、北部は皇帝が新しいおもちゃに夢中になって、それどころでは無いはずだ。それよりも、中部の諸国は帝国の小判鮫……帝国が無い今は我が南部に攻撃する事など不可能ぞ。では、次、カタリアーナに聞こうか」
カタリアーナは言った。自身も攻撃案には反対だと。
シリウスは眉間に皺を寄せながら、歯を軋ませて、
「そうか、お前に期待した私が間抜けであった。もう良い。次、ゼクトア」
シリウスは像の巨大に蜘蛛の手を持つ男に声を掛けたが、男は答えない。
シリウスがもう一度声を荒げて言うと、ゼクトアは改めて服従の意思を見せて、
「私もお二方に同意し、隣の大陸への出兵には反対の意思を示させて頂きます。理由は……」
「もういいッ!最後だッ!リリアーヌッ!」
長い金髪の女は丁寧に頭を下げて、
「私も出兵には反対です。理由は知識不足と、北部中部の脅威だけではなく、財政の問題でございます。戦争をするのにはお金も掛かります。事に我々の兵力を動かすとなれば……」
「誰が我々の兵力だけで、攻め入ると言った。今後の計画は中部と北部を手に入れるための小手調べだというのが分からぬのか?」
「と、申しますと?」
リリアーヌは片眉を上げて、玉座の上に座るシリウスに尋ねた。
「貴君らも知っての通り、私は神前試合の前に三人の男女を北部を支配する二つの帝国の中枢部に潜り込ませた。もうしばらくしたら、私はさらにもう一人、帝国に潜り込ませる予定だ。その小手調べとして海を渡った大陸にある国を一つ手に入れてみたいのだ……」
「分かりました。それならば、予算は少額で済みますしね。そこで、どなたを隣の大陸に派遣なさいますか?転移衆のどなたかを?それとも、我々が?」
「だから、それをお主らに聞こうと思うて、ここに呼んだのだ。答えろ、お前は誰が適任だと思う?」
アントニムは「恐れながら」と前置きをして、立ち上がり、魔王と臣下とを隔てるために存在する六段ほどの階段を上り、彼の耳元で囁く。
「成る程、あやつか……男を憎んでいる筈だからな。適任やもしらん。直ぐにあやつを呼び、海を渡らせる準備をせよ!第一の国盗みを始めようではないか!」
シリウスの号令に集まった四人の忠臣たちは一応は平伏する。
シリウスは玉座の肘掛にもたれながら、満足そうに呟く。
「副頭領もヴィクトリアも各々が任務を果たしておりまするぞ、さてと、彼らが国を傾けて、混乱に陥るまで、何をなさりますか?最早、この南部はあなた様の手の内……これ以上の敵はございますまい」
シリウスは肘掛をコツコツと叩きながら、今後の事を思案していく。
魔王の座る玉座の肘掛を鳴らす音は二、三分の間程、聞こえたが、音が鳴り止むと、報告に訪れた霊蔵に耳打ちをして、
「成る程、もう一つの大陸の方を襲うつもりでございますな?」
「その通り、我が忠実なる僕達が二つの帝国を傾けている間に、我々は国外に打って出る」
「成る程、国外に目を向ける事で、海の向こうの敵と戦うことにより、北部や中部の人間どもに歓心を寄せ付けず、その間に転移衆のお方々や副頭領がお持ちになる功績をお待ちになるつもりなのですな?」
シリウスは首肯した。
「分かり申した!ならば、儂はこれから、魔族の四天王を集めまする。彼らに侵略の相談をなさられるとよろしいかと……」
そう言って玉座の前から立ち去る霊蔵の姿を眺めながら、シリウスはつい数週間前の事を思い返す。
神前試合を勝ち抜いた彼はその後、暗黒神ベリアドルとの契約の儀式で、ライジアの代行者として認められ、魔王の摂政としてこの国を治められる事が決定付けられた。
そればかりか、暗黒神ベリアドルは生前に自身の愛読書であった『三国志』と『水滸伝』の本を贈り、彼の生活の中にあった娯楽色を強めていく。
シリウスは摂政として玉座に座ってから、彼はかつて情報を集める際に利用した新聞社を抱き込み、ピストルを手に、魔王家の広報誌としてなるように命令を下し、彼は報道機関の一部の掌握に成功した。
そして、彼は歴代の魔界統治者には見られない無欲ぶりをアピールするのと同時に国民に『食事と娯楽』を与える事に専念した。
彼は昔、読んだ歴史の本に大衆には娯楽と食事さえ与えておけば、政治には無関心だという記述に倣ったのであった。
他にも彼は先王までの悪しき風習を廃し、商人達に好きなギルドに入り、好きな物をそれぞれが売った良いという命令を下したのであった。
これにより、各々が好きなギルドを作り上げられたばかりではなく、商人や商人を目指す人間の強制加入により、その利益を上げていた大型ギルドは打撃を被り、彼らの贅沢のために使う金を失った。
当然、市場が回る事により、税も多くシリウスの元に入って来る。
ここで、問題となるのは魔王の冠を持ち、魔王の血を引くライジア・フォン・ヴァートリーファルの存在であった。
これにもかつての世界で読んだ本が役にたたった。
シリウスはライジアが実際には政治を行なっていない事に憤りを感じていたと思われる男装の執事、インフェットを始め、魔王の血を引く娘が政治を行なっていないと抗議する声があったものの、彼は彼らに『国王は君臨すれども統治せず』の標語を唱え、反論していく。
彼らが不平不満を訴えるたびに、彼はかつての世界の絶対王政社会の下で、革命を起こされた悲惨な末路を辿った王家の物語を語っていく。
フランスのブルボン朝、ロシアのロマノフ朝のみならず、多くの王家の最後を語ると、彼らはすごすごと退散していく。
つまり、彼は権力と権威の分断に成功したのであった。
これにより、シリウスの中でも考えが変わった。初めはインフェットとライジアの二枚は用済みとなれば、自身の部下に始末させる予定であったが、『権威』として利用できるのならば話は別だ。
日本の将軍家が京都の朝廷を『権威』として利用したように、自身もそれに倣おう。
彼はそう考えて、抹殺命令を取り止めさせたのであった。
後は、魔王の家に代々仕えていたいわゆる譜代の家臣達が自分になびくかどうかだ。
そんな事を考えていると、彼の座る玉座の下に四人の異形の姿の男女が跪く。
黒色のタキシードから蝙蝠のような翼を二本生やした三本の角を生やした男に、象のように巨大な体に蜘蛛のように六本の腕を生やした男。
そして、黒色のゴシック調のドレスを身に纏った今、咲いたばかりの桜の蕾を思われるような可憐な少女、そして、可愛らしく二本の角を生やしている以外は人間と殆ど変わらない、それどころか、人間の世界でも注目される程の顔を持つ金色の髪をした女性。
この人物が代々の魔王の家に仕えてきた四天王とも譜代の言える存在であった。
寿命は不明であるが、少なくとも千年以上前の文献に彼らの事が記されている事から、その実力と知識は確かなものだろう。
シリウスは地面の上で平伏する彼らに冷たい声で言った。
「今宵、お前達を呼んだのは他でも無い。今後の政策の事だ。率直に言おう。私は今後、もう一つの大陸に攻め入るつもりだ。これについてはお前達はどう考える?」
「断固、反対ですな」
最初にシリウスに意見を述べたのは黒いタキシードの悪魔ことアントニム。
「今回の戦いは無謀です。第一、我らには向こうの大陸の知識がございません。それに、北部や中部の国々がその隙を突いて、我々を攻撃する可能性がございます。その点についてはどうお考えでございましょうか?」
「フン、北部は皇帝が新しいおもちゃに夢中になって、それどころでは無いはずだ。それよりも、中部の諸国は帝国の小判鮫……帝国が無い今は我が南部に攻撃する事など不可能ぞ。では、次、カタリアーナに聞こうか」
カタリアーナは言った。自身も攻撃案には反対だと。
シリウスは眉間に皺を寄せながら、歯を軋ませて、
「そうか、お前に期待した私が間抜けであった。もう良い。次、ゼクトア」
シリウスは像の巨大に蜘蛛の手を持つ男に声を掛けたが、男は答えない。
シリウスがもう一度声を荒げて言うと、ゼクトアは改めて服従の意思を見せて、
「私もお二方に同意し、隣の大陸への出兵には反対の意思を示させて頂きます。理由は……」
「もういいッ!最後だッ!リリアーヌッ!」
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「私も出兵には反対です。理由は知識不足と、北部中部の脅威だけではなく、財政の問題でございます。戦争をするのにはお金も掛かります。事に我々の兵力を動かすとなれば……」
「誰が我々の兵力だけで、攻め入ると言った。今後の計画は中部と北部を手に入れるための小手調べだというのが分からぬのか?」
「と、申しますと?」
リリアーヌは片眉を上げて、玉座の上に座るシリウスに尋ねた。
「貴君らも知っての通り、私は神前試合の前に三人の男女を北部を支配する二つの帝国の中枢部に潜り込ませた。もうしばらくしたら、私はさらにもう一人、帝国に潜り込ませる予定だ。その小手調べとして海を渡った大陸にある国を一つ手に入れてみたいのだ……」
「分かりました。それならば、予算は少額で済みますしね。そこで、どなたを隣の大陸に派遣なさいますか?転移衆のどなたかを?それとも、我々が?」
「だから、それをお主らに聞こうと思うて、ここに呼んだのだ。答えろ、お前は誰が適任だと思う?」
アントニムは「恐れながら」と前置きをして、立ち上がり、魔王と臣下とを隔てるために存在する六段ほどの階段を上り、彼の耳元で囁く。
「成る程、あやつか……男を憎んでいる筈だからな。適任やもしらん。直ぐにあやつを呼び、海を渡らせる準備をせよ!第一の国盗みを始めようではないか!」
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