シリウス・イントルーダー・ロード〜暗黒神に見染められた前作のラスボスは異世界で猛威を振るう〜

アンジェロ岩井

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序章

ほんの腕試しでござる 後編

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誠一郎の連れ返ったゴブリンをシリウスは直ぐに治癒の呪文をかけて直し、次に自身の肉を分け与え、ゴブリンの信頼を勝ち取っていく。
次にシリウスは先程、本を読んで覚えた自分の記憶にあるものを生成するという便利な魔法でかつての世界で飲んでいたワインの瓶とワイングラスを取り出すと、彼の前に差し出し、街を歩けば思わず何人もの人が振り向く程の顔を持つ自慢の妹に酌をさせ、ゴブリンの機嫌を良くしていく。
加えて、シリウスは聞き手役と話し役にに徹し、勧められても酒を飲まずに、ゴブリンから情報を引き出そうとしていた。
ゴブリンはシリウスや霊蔵が喋る御伽噺や雑談を気に入ったのか、それとも、アルコール純度の高い酒のためか、饒舌になり、自身が普段はどのような事をしているかを喋っていく。
彼曰く、普段は山奥で少数の群れで「王」と呼ばれる強力なゴブリンをリーダーに置き、農業や狩猟で生計を立てているらしいが、たまに山に迷い込んできた木こりを襲い、荷物を奪い、身包みを剥いだ上にその死体を食べたり、人間が油断している所を狙って山の麓の村を襲っているらしい。
その様子をゴブリンは酒を片手に自慢げに語っていく。
「人間どもはなにせ、逃げるのが遅い上に力も弱い。奴らはオレらよりも倍の身長を持っているけど、取り柄はそれだけさッ!特に人間のガキを親の前で炙って殺すのなんてのは最高だったな!ハッハッハッ!!」
普通の人間ならば、ここで眉を下げたりする所だろうが、彼らはかつての世界の忍びと特殊部隊の隊員である今更、これくらいの事では動じまい。
その証拠に誰もが笑顔を浮かべ、その台詞に同調する旨さえ送っていた。
気を良くしたのか、ゴブリンは今夜の計画まで彼らに喋ってしまう。
自分とその群れは今夜、麓の村を襲い、農作物やら家畜を奪い、人間を殺し食べ尽くす算段らしい。
シリウスはそれを聞くと、もうこの小鬼を生かしておく必要はないと判断したのか、両頬をアルコールのために赤く染める小鬼の額に銃口を突きつけ、引き金を引く。
乾いた音が響くのと同時に、息が絶え、脳機関という支えを失ったゴブリンの体が地面に勢いよく倒れる。
シリウスは地面に落ちたゴブリンの体を無言で蹴り付けると、辺りの景色がみかん色の夕焼けに染まっていた事に気が付く。
シリウスは妹と二人の忠臣に自身について来るように指示を出し、森の中へと向かう。
ここに、ようやく山を降りる算段が付いたらしい。
シリウスはそんな事を考えながら、手下と共に山を降りていく。
険しい山道であったが、自分と妹は特殊部隊の出身であったし、自身に付き従う忠臣二名も元は忍びであり、険しい山を修行にしていた程だ。今更、どうという事は無いだろう。
山を下りると、目の前には真っ黒な光景の中をほんの僅かの煌々とした朱色の景色が見えた。恐らく、自分達の元に迷い込んだゴブリンという事が本当なら、例のゴブリンが夜になったのを合図に、麓の村を襲撃しているのだろう。
ゴブリンの暴れる村へと突入しようとする三人の男女を静止し、シリウスは山と村との間に存在する無数の木の中に姿を隠し、その姿を静観するように指示を出す。
三人は全員が素早く木の上に隠れ、その上から緑色の小鬼によって容赦なく蹂躙されていく村の姿を垣間見る。
ゴブリンの王と思われる男の指示により、ゴブリン達は家々を荒らし、焼き、人を殺していく。中には人間を遊びで殺している者もいた。
そして、ゴブリン達による殺戮をある程度見届けるのと同時に、シリウスは隠れていた木から降りて、村の方角へと向かって行く。
村に向かって行くシリウスの姿を見たのは村外れの家を襲っていた二体のゴブリンであった。
メイスというトゲの付いた金棒のような武器と大きな斧を携えた二人のゴブリンはシリウスの事を村人の生き残りだと思ったのだろう。
舌舐めずりをして、武器を構えて彼の元に向かって行くが、その前に彼らは全面を斬られて倒れてしまう。
何が起こったのか、分からずに二人が目を丸くしていると、シリウスは二人の近くによって、
「驚いとか?卑しき小鬼インプども……。これが私の魔法だ。『征服王の計測ザ・ルーラー』の特徴は飛ばした時間の中を移動し、飛ばした時間の中に現れた人間の残像を攻撃する事によって、未来のお前達を攻撃する魔法だ。最も、お前達にその程度の魔法が理解できるとは思わんがな……」
シリウスはそう言い終わると、背後を振り返る事なく、燃える村の中へと向かって行く。
燃える村にシリウスが突入するのと同時に、彼は自らの体に中に宿した“竜王”の力を使用し、自らの姿を異形のものへと変えていく。
黒色のゴツゴツとした鎧を纏った生物は静かに動いていき、何処からか取り出したと思われる巨大な剣を空中から取り出し、村の中を暴れ回っていたゴブリン達を圧倒的な力でねじ伏せいていく。
その後を微笑を浮かべて彼の妹は付いて行く。勿論、邪魔をしないように自身を透明人間にする魔法『透明人間の襲撃スケルトン・ヒューマン・パワー』を使って……。












「流石は頭領よ。まさか、あのような異形なお姿をなさるとは思わなんだわ」
霊蔵はそう言って、自身の妖魔術『無常剥がし』をという地面や物質を引き剥がすという術で、ゴブリン達の足元を引き剥がし、足元の無くなり動揺したゴブリン達に手裏剣を当てるという遊びを郊外の辺りで繰り返していた。
「そうだな。流石というべきだろう……やはり、あのお方こそが我らが頭領に相応しいお方よ」
時雨誠一郎は黙々と自身の妖魔術『霧雨伝来』という周囲に目に見えない程の小さな雨が降り、やがてそれらの雨が地面の近くに集まり、霧となり相手の視界を奪うという魔法であった。
彼らのような過去の忍びは魔法の事を妖魔術と称しているが、『魔法』という名前が彼らが生きていた時代には無かったために便宜的にそう呼んでいたのだ。
目の奪われたゴブリン達は誠一郎にとっての恰好の獲物であり、一匹、一匹着実に彼の刀によって仕留められていた。
誠一郎が最後の一匹を無言で叩き斬り、手に持っていた刀を鞘に収めて、霊蔵に向き直ると、クナイを持った霊蔵はニヤリとした顔を浮かべて、
「おいおい悪かったって、時雨殿。後、一匹だから堪忍してくれぬか?」
霊蔵はそう言うと、もう一度ゴブリン達に向き直り、地面を自身の魔法で剥がし、飛び上がった小鬼を始末する。
残った小鬼を始末すると、霊蔵は誠一郎の方向に改めて向き直り、思い切り手を叩いて、
「では、こちらも終わったし、頭領のおられる方向に向かおうかのぅ。時雨殿」
いつもの不気味な笑顔が暗闇の中で、より際立って見えたように感じ、誠一郎は内心気味悪がったが、流石は忍びというべきだろうか、その態度をおくびにも出さずに随行する。
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