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魔界侵略編
魔王の三人の王子達
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「あなた様こそが王に相応しいお方!是非とも、王の後継にはあなた様が立候補なさいませ!」
降魔霊蔵は忍びとしての特徴を活かし、魔王の城へと潜り込み、三人の兄弟の対立に奔走していた。
本来、忍びは内部から対立する勢力を瓦解させる事にも秀でていると言われている。
一般の忍びにですらできる工作がかつては頭領候補の筆頭だと言われた霊像にとっては朝飯前の事であった。
枯れ葉慣れない洋服に袖を通し、第三王子、アッシャーに他二人の対立を煽っていた。
霊蔵は世話をする傍ら、アッシャーに彼こそが正統なる魔界の伝承者だと吹き込み、他の二人の王子を簒奪者、先に生まれただけの卑怯者だと煽り、来月に開かれる『神前試合』に立候補するべきだと告げた。
『神前試合』とは暗黒神レジベリアの肖像の前で繰り広げられる魔界の王座を巡る争いとされ、常に継承権第一位、第二位の男子が争い合い、魔王の地位を奪う試合とされる。
本来ならば、ここに第三王子や女性は参加できないが、自ら立候補する事により、王位継承争いに参加できるのだ。
だが、そこに立候補するという事は死を覚悟する事であるとも言え、第三継承者や女性が立候補するのは稀である。
だが、霊蔵は自らの信奉する頭領の指示に従い、この試合に第三王子アッシャーを出すように仕向けていた。
アッシャーは髭さえ生えていない若い王子であり、それ故にシリウスは彼が辞退せずに生き残った場合にライジアや自分の統治に不満を持つ勢力が彼を担ぎ上げる事を恐れたのだ。
彼は侵入する前の霊蔵に引退同然のムガル大帝をシンボルとして担ぎ上げ、イギリスに反旗を翻したシパーヒーの乱の事を例に用いて、反対勢力にとってのシンボルを残す危険性を彼に訴えた。
これに対し、霊蔵は毛利元就に対し、朽木元綱を担ぎ上げ反乱を企んだ勢力の例を出し、頭領に確認を取った。
霊蔵の例に頭領は首を縦に振り、彼に後に『ムガル大帝』や『朽木元綱』になりかねない人物を合法的な場所で殺させるように仕向けさせたのであった。
そうして、今日ようやく霊蔵の進言のままにアッシャーは『神前試合』に出る事を父に告げたらしい。
霊蔵はクックッと笑いながら、試合の日までの一ヶ月を耳元で例の言葉を囁きながら、その気にさせているのであった。
霊蔵はこの国の付き人らしくアッシャーの着替えと洗面を助けた後に、彼が部屋の中央に置かれている天蓋のベッドの中に潜り込むのと同時に、彼の耳元で彼の好きな夢物語を囁いてやる。
アッシャーが霊蔵の語る夢物語を聞き、床に入るのと同時に彼も部屋を引き払い、彼の近くにある従者の部屋に向かおうとしていると、暗い廊下の中で足音が聞こえ、彼の元に近付いて来る。
男の姿はかつて彼が生きていた明治の帝が治める世で見た黒いスーツにズボンと言った格好であった。
霊蔵は慌てて、自分の信奉する頭領の元へと向かい、彼の元で跪き、洗脳の経過を語っていく。
シリウスは口元に微かな笑みを浮かべてから、彼の頭を撫でて、
「よくやった。霊蔵……やはり、こう言った任務にはお主のような忍びの方が向いているらしいな」
「いえいえ、流石は頭領だと言うべきでしょうな!まさか、朽木元綱を生み出す前に殺そうと考えるとは!」
「ムガル大帝かもしれないがな……まぁ、あの馬鹿王子が何に例えられようとも、私の知った事では無いがな、ともかく、一ヶ月後の『神前試合』に出る事があれば、その後に担ぎ出される事は無いだろう。私の『国盗り物語』は目障りな王子どもが死ぬ事により、ようやく完遂するのだ」
「そこまでお考えだとは……この降魔霊蔵ッ!感服致しました!」
「よせ、私は一ヶ月後の試合のためにこの城を下見に来ただけだ。お前が叫ぶ事で誰かが来て、私とお前が喋っている所を見られれば不味いからな」
そう言ってシリウスは真っ黒なスーツの懐から一個の紫色に光る水晶玉を取り出す。
シリウス曰くこの玉は魔王の城と屋敷とを自由に行き来するためにライジアが父親から渡されたアイテムらしい。
そのアイテムを使用すると、たちまち彼の頭領は煙のように立ち消えてしまう。
霊蔵はそれを見届けると、廊下の闇から感じた気配に目を向ける。
気配の主は不味いと感じたのか、慌ててその廊下から、別棟へと向かう道に向かって行く。
霊像はそれを見届けると、大きな溜息を吐いて、
「はぁ~まさか、おれの忍びとしての腕が落ちているとは思わなんだなぁ、付けてきていた相手の気配も見抜けぬとは……」
と、両肩を落としたものの、彼は直ぐに気を取り直したらしく、いつもの笑顔を取り戻し、部屋の中に戻り、自身の部屋に用意されている立面鏡を眺め、自身の珍妙な格好を改めて一瞥する。
妙な記事の茶色の上着にボタンというものを使用した白いのシャツに黒色のズボン。
霊蔵はこの衣装を初めて着た時には違和感を感じたものであったが、忍びたるもの我慢するべきだろうと奇妙な衣装を着ていたのだ。
霊蔵は立面鏡で今の自分を満足するまで見終えると、明日も仮初の主人の面倒を見るために早めに床に着く。
霊蔵は夢の中でかつて、恋い焦がれた二人の見る目麗しい男女を思い描く。
霊蔵は束の間の幸せを噛みしめながら、夢の世界へと旅立っていく。
「計画は順調らしいわね?シリウス?」
「ええ、お嬢様……先程の確認の折に霊蔵の元へと参りました所、あなた様の兄、アッシャーが神前試合に参加するとの事……」
「素晴らしいわ」
ライジアは素直に称賛の言葉を新たな下僕に与え、自らは紅茶を片手に本を読み解いていく。
この世界の実用書らしいが、シリウスにとってはどうでも良い。
彼はライジアに付き合いながら、共に紅茶を飲んでいく。
その時に扉を叩く音が聞こえた。ライジアが入室を許可すると、扉をくぐって彼と同じ髪の色を持つ美しい女性が姿を表す。
「失礼致しますわ、お兄様、落ち着いて聞いてくださいませ、先程まで街を歩いていたドロシーから仕入れた情報なのですが、近々お嬢様の屋敷を魔王様がお訪ねになるらしいですわ」
その言葉を聞き二人の両眉が上がったのをシャーロットは確認した。
が、彼女はかつての世界最強の帝国の特殊部隊の副隊長を務めた女である。
これ程の事では動じない。彼女は魔王来訪の折を淡々とした様子で語っていく。
どうやら、二日前に決まった事らしく、ライジアには隠して訪れるらしかった。
普通に考えるのならば、娘から父へのサプライズと言ったものになるのだろうか。
が、状況が状況だけに魔王の視察は自分達への警戒の可能性も高い。
警戒心と焦りを顔に浮かべるライジアとは対照的に、シリウスは寡黙な顔で何かを考えていた。
そして、カップに残っていた紅茶を一気に飲み干すと、静かな声でライジアに向かって言った。
「蝮と呼ばれた男の話はご存知でしょうか?いや、知らないでしょうな。なので、今から話しますよ。我々の作戦名『国盗り物語』の由来となった小説に登場する人物なのですからな」
降魔霊蔵は忍びとしての特徴を活かし、魔王の城へと潜り込み、三人の兄弟の対立に奔走していた。
本来、忍びは内部から対立する勢力を瓦解させる事にも秀でていると言われている。
一般の忍びにですらできる工作がかつては頭領候補の筆頭だと言われた霊像にとっては朝飯前の事であった。
枯れ葉慣れない洋服に袖を通し、第三王子、アッシャーに他二人の対立を煽っていた。
霊蔵は世話をする傍ら、アッシャーに彼こそが正統なる魔界の伝承者だと吹き込み、他の二人の王子を簒奪者、先に生まれただけの卑怯者だと煽り、来月に開かれる『神前試合』に立候補するべきだと告げた。
『神前試合』とは暗黒神レジベリアの肖像の前で繰り広げられる魔界の王座を巡る争いとされ、常に継承権第一位、第二位の男子が争い合い、魔王の地位を奪う試合とされる。
本来ならば、ここに第三王子や女性は参加できないが、自ら立候補する事により、王位継承争いに参加できるのだ。
だが、そこに立候補するという事は死を覚悟する事であるとも言え、第三継承者や女性が立候補するのは稀である。
だが、霊蔵は自らの信奉する頭領の指示に従い、この試合に第三王子アッシャーを出すように仕向けていた。
アッシャーは髭さえ生えていない若い王子であり、それ故にシリウスは彼が辞退せずに生き残った場合にライジアや自分の統治に不満を持つ勢力が彼を担ぎ上げる事を恐れたのだ。
彼は侵入する前の霊蔵に引退同然のムガル大帝をシンボルとして担ぎ上げ、イギリスに反旗を翻したシパーヒーの乱の事を例に用いて、反対勢力にとってのシンボルを残す危険性を彼に訴えた。
これに対し、霊蔵は毛利元就に対し、朽木元綱を担ぎ上げ反乱を企んだ勢力の例を出し、頭領に確認を取った。
霊蔵の例に頭領は首を縦に振り、彼に後に『ムガル大帝』や『朽木元綱』になりかねない人物を合法的な場所で殺させるように仕向けさせたのであった。
そうして、今日ようやく霊蔵の進言のままにアッシャーは『神前試合』に出る事を父に告げたらしい。
霊蔵はクックッと笑いながら、試合の日までの一ヶ月を耳元で例の言葉を囁きながら、その気にさせているのであった。
霊蔵はこの国の付き人らしくアッシャーの着替えと洗面を助けた後に、彼が部屋の中央に置かれている天蓋のベッドの中に潜り込むのと同時に、彼の耳元で彼の好きな夢物語を囁いてやる。
アッシャーが霊蔵の語る夢物語を聞き、床に入るのと同時に彼も部屋を引き払い、彼の近くにある従者の部屋に向かおうとしていると、暗い廊下の中で足音が聞こえ、彼の元に近付いて来る。
男の姿はかつて彼が生きていた明治の帝が治める世で見た黒いスーツにズボンと言った格好であった。
霊蔵は慌てて、自分の信奉する頭領の元へと向かい、彼の元で跪き、洗脳の経過を語っていく。
シリウスは口元に微かな笑みを浮かべてから、彼の頭を撫でて、
「よくやった。霊蔵……やはり、こう言った任務にはお主のような忍びの方が向いているらしいな」
「いえいえ、流石は頭領だと言うべきでしょうな!まさか、朽木元綱を生み出す前に殺そうと考えるとは!」
「ムガル大帝かもしれないがな……まぁ、あの馬鹿王子が何に例えられようとも、私の知った事では無いがな、ともかく、一ヶ月後の『神前試合』に出る事があれば、その後に担ぎ出される事は無いだろう。私の『国盗り物語』は目障りな王子どもが死ぬ事により、ようやく完遂するのだ」
「そこまでお考えだとは……この降魔霊蔵ッ!感服致しました!」
「よせ、私は一ヶ月後の試合のためにこの城を下見に来ただけだ。お前が叫ぶ事で誰かが来て、私とお前が喋っている所を見られれば不味いからな」
そう言ってシリウスは真っ黒なスーツの懐から一個の紫色に光る水晶玉を取り出す。
シリウス曰くこの玉は魔王の城と屋敷とを自由に行き来するためにライジアが父親から渡されたアイテムらしい。
そのアイテムを使用すると、たちまち彼の頭領は煙のように立ち消えてしまう。
霊蔵はそれを見届けると、廊下の闇から感じた気配に目を向ける。
気配の主は不味いと感じたのか、慌ててその廊下から、別棟へと向かう道に向かって行く。
霊像はそれを見届けると、大きな溜息を吐いて、
「はぁ~まさか、おれの忍びとしての腕が落ちているとは思わなんだなぁ、付けてきていた相手の気配も見抜けぬとは……」
と、両肩を落としたものの、彼は直ぐに気を取り直したらしく、いつもの笑顔を取り戻し、部屋の中に戻り、自身の部屋に用意されている立面鏡を眺め、自身の珍妙な格好を改めて一瞥する。
妙な記事の茶色の上着にボタンというものを使用した白いのシャツに黒色のズボン。
霊蔵はこの衣装を初めて着た時には違和感を感じたものであったが、忍びたるもの我慢するべきだろうと奇妙な衣装を着ていたのだ。
霊蔵は立面鏡で今の自分を満足するまで見終えると、明日も仮初の主人の面倒を見るために早めに床に着く。
霊蔵は夢の中でかつて、恋い焦がれた二人の見る目麗しい男女を思い描く。
霊蔵は束の間の幸せを噛みしめながら、夢の世界へと旅立っていく。
「計画は順調らしいわね?シリウス?」
「ええ、お嬢様……先程の確認の折に霊蔵の元へと参りました所、あなた様の兄、アッシャーが神前試合に参加するとの事……」
「素晴らしいわ」
ライジアは素直に称賛の言葉を新たな下僕に与え、自らは紅茶を片手に本を読み解いていく。
この世界の実用書らしいが、シリウスにとってはどうでも良い。
彼はライジアに付き合いながら、共に紅茶を飲んでいく。
その時に扉を叩く音が聞こえた。ライジアが入室を許可すると、扉をくぐって彼と同じ髪の色を持つ美しい女性が姿を表す。
「失礼致しますわ、お兄様、落ち着いて聞いてくださいませ、先程まで街を歩いていたドロシーから仕入れた情報なのですが、近々お嬢様の屋敷を魔王様がお訪ねになるらしいですわ」
その言葉を聞き二人の両眉が上がったのをシャーロットは確認した。
が、彼女はかつての世界最強の帝国の特殊部隊の副隊長を務めた女である。
これ程の事では動じない。彼女は魔王来訪の折を淡々とした様子で語っていく。
どうやら、二日前に決まった事らしく、ライジアには隠して訪れるらしかった。
普通に考えるのならば、娘から父へのサプライズと言ったものになるのだろうか。
が、状況が状況だけに魔王の視察は自分達への警戒の可能性も高い。
警戒心と焦りを顔に浮かべるライジアとは対照的に、シリウスは寡黙な顔で何かを考えていた。
そして、カップに残っていた紅茶を一気に飲み干すと、静かな声でライジアに向かって言った。
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