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トーナメントに向けてのリチャードさんの動き

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その日の放課後は結局、自宅に帰るのは女性陣のみであり、殆どの男性陣がそろそろトーナメントの日が近い事から、学園に残って自主稽古に励んでいた。
その中には勿論、サミュエル、ガブリエル、ディビッドの姿もあった。
団長は一応、俺の稽古を付けてくれた後に、今度はリチャードを相手に魔法の稽古を始めていく。
魔法同士のぶつかり稽古というのは俺も初めて見たのだが、中々に面白い。
俺はリチャードから借りたノートから目を離し、二人が互いに両手を広げて、魔法を放ち、牽制する様を眺めていた。
俺も一応は『祈りの光』というかくもヒロインっぽい魔法を持っているのだが、ただ自分や周りを聖なる光で包むというだけのものであるため、俺は使う気になれず、いつも選択肢から外れていた。
乙女ゲームというだけあり、それ相応の魔法が使えるのだが、光に包まれるだけの魔法など誰得であるのだ。
インターネットの通信サイトを利用して、アクセスした相手の今いる場所に現れ、地獄に流したい人間を相手が告げたら、首に赤い糸の付いた人形を渡し、それが切れると、容赦なく相手を地獄に流す可愛い少女の様な魔法が欲しい。
今の俺の声で言えばサマになるに違いない。
「いっぺん、死んでみる?」
俺は思わず相手を地獄に流す際の決め台詞を放っていた。
思ったよりも嵌っていたので、俺はその前口上も告げてみる。
「闇に惑いし、哀れな影よ。人を貶め傷付けて」
うん、完璧だ。ちゃーんと綺麗な声で再生されている。
だが、そんな台詞を喋っていたのが、いけなかったらしい。
二人がギョッとした目でこちらを睨んでいた。
すると、俺は頭をかいて、
「い、いやだなぁ。こ、これは昔、読んだ冒険小説に書いてあった台詞ですよ。いやだなぁ、私が本当にそんな何処ぞの閻魔さんの様な事を言うとでも?」
だが、リチャードは魔法の修練を中断し、俺の元へと向かう。
わざと表情を髪に隠して、向かってくるので、俺からすれば不気味いでしかない。
何を言われるのかと思って、俺が体を震わせていると、彼は突然、目を輝かせて、俺の手を握り締めて、
「す、素晴らしい!なんて、格好の良い台詞なんだ!その台詞使ってもいいかな?」
版権元は俺ではないのだが、一応許可は出しておく。
そうなると、彼が今度、書くのはあの台詞を上手く活用できそうな、必殺仕置人とか、黒天使たち(直訳)みたいな話になるのだろうか。
俺はその旨を伝えると、彼は満面の笑みを浮かべて、
「それは面白そうだね。キミのそのアイディアをもらってもいいかな?」
一応は俺は頷いておく。それで、彼のやる気が出れば御の字である。
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