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私、評論には自信がありますので!

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「これまでとは違う。画期的な冒険小説ですか?」
夕食の際に、リチャードが語ったその言葉をエミリオに話すと、彼は興味を持ったらしく、思ったよりも食い付いた。
「そうなのよ。どんな内容の話になるのか、私には見当もつかなくて……」
エミリオは俺と同じ冒険小説好きであり、これまでに読んだ量も俺より上だ。
だからこそ、俺よりも目が富んでおり、彼が勧める小説はどれもこれも面白い。
また、評論も一流だ。時に、俺は前世のマンガやアニメを小説に擬えて説明するのだが、俺の説明だけであるのに、冷静な口調で、キャラクターの分析やストーリーの分析を行い、例え見た事のない作品であろうとも、良し悪しを付ける。
特に、彼が興味を持ったのは実在の馬を擬人化し、美少女にしたゲームで、これは彼曰く二重丸であるそうだ。
やはり、男子派こういうゲームが好きなのだ。俺は少ししかプレイできなかったが、異世界でも同志が出来た事をオレは感謝した。
そん彼だからこそ、俺の迫真の作戦を話したのだ。
「私が、お嬢様のご友人の小説の評論をですか……?」
目をパチクリとさせながら、信じられないと言わんばかりに口を開けて、俺を見つめていた。
だが、俺は口元を笑いの形に歪めて、
「ええ、私はエミリオならば、彼に適切な判断を下し、彼に自信を与える事ができると思ってね」
「御言葉ですが、お嬢様、私の評論は時に毒舌になります。以前、お嬢様が勧めた作品をボロクソに点した事がありますよね?」
それを聞いた瞬間に、俺の頭の中に苦い思い出が蘇っていく。
あれは以前、俺が生前に素人が集う小説投稿サイトに投稿した小説を他人が書いたという体で説明したのだが、彼はそれをことごとく酷評し、バッサリと「つまらないですね」と吐き捨てたのだった。
一応は自分で書いた話だったので、暫くの間、モヤモヤが消えなかったのを覚えている。
俺でさえ暫く掛かったのだから、あれをリチャードが言われたのならば、どうなるのだろうか。
完全に打ちひしがれて、家にでも引きこもったりするのだろうか。
俺がそんな事を考えていると、この案はやめた方がいい様な気がした。
あまりにも『賭け』頼りであるからだ。
上手くいかなった時の保障は個人的にはできない。
だが、俺の中で開かれた緊急脳内最高評議会で、副議長俺が慰め役として、ロージー嬢を呼べば良いと判断し、その案は議決される事になった。
俺はエミリオに休日に友人を家に呼ぶ事とその時に友人の接待をする事を伝え、最後に厳格な評論をするという事を釘を刺した。
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