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甘えるな!司○!そんなにも悩むのなら、真実を惑わせる鏡なんて割ればいいだろう!!

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リチャードは結局、その日はうじうじとしたままだった。妹の方は立派だというのに、どうして、この男はこんなにもヘタレなのだろう。
こんな姿を見たのが、俺が生前好きだった馬の擬人化ゲームの某人気キャラクターであるのならば、「お兄様最低」と見切りをつけるだろう。
やれやれ、情けない。俺は居た堪れなくなり、リチャードに発破を掛ける事にした。
だが、俺の懸命の説得にも関わらず、彼は意気消沈した表情のままだった。
その後、教場での授業中にその姿を見かけたのだが、やはりというか、なんというか、その表情に翳りが見えた。
重い溜息を吐きながら、羽根ペンを動かしている姿が妙に痛々しかった。
放課後、いつも通り、剣の修行をしていると、ふと、今日は元気を取り戻している団長の姿を見て、俺は修練終わりに、団長に相談してみた。
「あの、団長、実はですね……」
と、切り出し、俺は昼間のリチャードの事を伝えていく。
団長は俺の隣にどかっと勢いよく座ると、相槌を打ちながら、俺の話を懸命に聞いてくれた。
そして、話が終わると同時に、座った時と同じ様に勢いよく立ち上がって、
「成る程!それならば、しごいてやろうではないか!明日、その小僧をオレの元に連れて来い!ビシバシと鍛えてやる!」
そう言った団長の目は実にキラキラとしていた。
それを苦笑いで聞く俺。こうなってくれば、流石の彼も少し気の毒に思えてしまう。
俺は翌日になり、リチャードを見つけて、彼に団長の事を伝えた。
「き、キミってさ、どうして、そんな余計な事をするんだよ!ぼ、ぼくは絶対に受けないからね!」
立ち位置はあの最強のシスコン兄貴なのだが、性格は世界的に有名なタイムトラベル映画の覚醒する前の主人公の親父だ。
俺が呆れた顔で彼を見つめていると、
「そ、それに、あの団長は厳しいって事で有名じゃあないか!ぼくは正直に言えば、そんな人の修練など受けたくないね!」
そう言った彼の声は震えていた。そして、焦って去ろうとしたためか、彼は体を滑らせて、地面の上に思いっきり大の字になってしまう。
俺は慌てて彼に手を貸し、彼が起き上がるのを助けたのだが、その際に彼の懐から一冊のノートが落ちた。
俺がそれを拾うと、彼は慌てた様子でそれを引ったくり、ハァハァと息を荒げて、
「こ、これはぼくが書いてる冒険小説なんだ。と、言っても、下手をすれば、その範疇を抜け出して、全く未知のジャンルの小説になるかもしれない……」
「へぇ~それってどんなものなの?」
「ひ、秘密だよ!」
と、彼は顔を青ざめてノートを大事そうに両手で抱えて去っていく。
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