上 下
82 / 105

頑張れ、グレース!男爵家の悪役令嬢(←笑えないから)

しおりを挟む
あの誘拐事件以来、俺は暫くの間、精神的、体力的な休養を命じられ、自宅に籠らさせられていたのだが、まもなくその期間が開ける事になる。
俺は玄関で、トランクを持って来てくれるエミリオからそれを受け取ると、馬車へと乗り込む。
馬車の御者であるペーターとエミリオが暫くの間、睨み合っているが、やがて、互いに埒があかないとあかないと、判断したのか、互いに顔を背け、馬車を走らせていく。
馬車の窓から馬に乗った剣を腰に下げた男とすれ違う。
あの事件で、王国の治安が見直され、こうして、騎士団の男たちを治安維持のために、見回りに行かせているというわけだ。
俺は懸命に務めを果たす騎士団のお兄さんに手を振る。
お兄さんは萎縮した様子で慌てて手を振り返す。
俺はそのままお兄さんに微笑み掛けると、トランクを探り、冒険小説を読む。
後で、エミリオ本人から直接聞いたのだが、彼も俺同様に冒険小説が好きらしい。
今では、万が一にも考えづらいが、もし、破滅しそうになれば、彼に拾ってもらうのも悪くはないかもしれない。
完璧の王子のサミュエルの事だから、俺へ向けている思いが全て演技であるという可能性もあり得なくはない。
俺はそうなった場合の考えを頭の中で夢想していく。
場所は卒業記念パーティー。
大勢の人の前でオリビア嬢は一旦弾劾され、それを呆然と見ている俺。
そんな俺の前で、彼はオリビア嬢が俺にしたという事を大衆の前で、挙げていき、俺に求婚を申し込む。
そこで、俺はなんとか拒否しようとし、しみどもろな様子になっていく。そして、最後には俺がオリビア嬢を虐めていたという事になり、サミュエル王子によって弾劾されてしまう。
そして、ついでに俺に迫った事は俺の親父の横領を暴くためだと白状し、衛兵に俺と親父を共に連れて行くように、俺はそこで叫ぶのだ。
「嘘でしょ、これ……夢よ。夢に決まってる」
それに対し、サミュエルはあの端正な顔で俺を嘲笑した後に、俺に人差し指を突き付けて叫ぶに決まっている。
「ところがどっこい!夢じゃありません!現実です!はいッ!これが、現実!終わり、終わり、敗者確定!地獄行き決定!」
そう、某有名ギャンブル漫画で、主人公が攻略に勤しんだパチンコ店の店長の様な台詞を。
やはり、その場合は牢獄か、地下の強制労働かのどちらかであろうから、俺はその衛兵を70年代のカンフー映画のノリで、倒し、衛兵から奪い取った剣を振り回し、親父を連れて逃げる予定つもりなのだ。
だが、その剣の腕も暫く休んでいて、鈍っているかもしれない。
今日の稽古で、それが指摘されないか、それが不安である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

一体だれが悪いのか?それはわたしと言いました

LIN
恋愛
ある日、国民を苦しめて来たという悪女が処刑された。身分を笠に着て、好き勝手にしてきた第一王子の婚約者だった。理不尽に虐げられることもなくなり、ようやく平和が戻ったのだと、人々は喜んだ。 その後、第一王子は自分を支えてくれる優しい聖女と呼ばれる女性と結ばれ、国王になった。二人の優秀な側近に支えられて、三人の子供達にも恵まれ、幸せしか無いはずだった。 しかし、息子である第一王子が嘗ての悪女のように不正に金を使って豪遊していると報告を受けた国王は、王族からの追放を決めた。命を取らない事が温情だった。 追放されて何もかもを失った元第一王子は、王都から離れた。そして、その時の出会いが、彼の人生を大きく変えていくことになる… ※いきなり処刑から始まりますのでご注意ください。

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

自分の描いた作品世界に転生するとは

山家
恋愛
気が付いたら、自作の恋愛漫画の世界の登場人物の一人に、私は転生していました。 そして、原作者である自分の設定に翻弄される羽目になり、自分が悪戦苦闘する羽目になりました。 原作者を舐めるな、と言いたいですが、自分の設定の酷さに、自分の心が折れてしまいそうです。 そうしていたら、相方の作画家も転生してきたようです。 私達は共にこの世界で幸せになれるのでしょうか。 (基本的に、それぞれの主人公視点で描いていますが、違うところは、幕間となり、それぞれの登場人物視点になります)

婚約破棄されてしまった件ですが……

星天
恋愛
アリア・エルドラドは日々、王家に嫁ぐため、教育を受けていたが、婚約破棄を言い渡されてしまう。 はたして、彼女の運命とは……

処理中です...