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誘拐事件の顛末について

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エミリオはやがて、顔を上げると、俺に満面の笑みを向けて言った。
「さてと、お嬢様、どう致しましょうか?誘拐の主犯である父が倒れた以上は、私にこれ以上、あなた様を拘束する義務は必要ありません。それに、騎士団との約束もあります。ですので、あなた様はすぐさま、解放しなければならないのですが……」
会話の内容から察するに、彼は元々、騎士団と密約を結び、全てを知った上で父親の悪行を監視して、機を見て、俺を助け出すつもりだったのだろう。
そして、仲間たちが何か、動いてくれたのか、父親に対する決定的な証拠を掴んだのかは分からないが、絶好のタイミングと判断して、父親に薬を盛ったのだろう。執事に扮していたのも、容易に薬を盛りやすいという目的もあったのかもしれない。
そのまま、何か言いたそうな口調であったのだが、彼はそこで口籠ってしまう。彼の視線に注目すると、その先にあるのはテーブルの上の多くの食事。
どうやら、騎士団に連れて行かれる前に、食事をしたいという事なのだろう。
私は彼のこの後の境遇を思うと、少し気の毒になったので、首を縦に動かし、彼に同席を許可する。それに頭を下げて、感謝の言葉を述べて、父親が座っていた席に座る。
しかし、今の状況で、何が面白いのかと問われれば、彼が俺よりも遥かに爵位が上の公爵家の令息であるのにも関わらず、未だに丁寧語を用いて話している事と、執事としての態度を崩していない事だろう。全く、奇妙なやつだ。
俺は思わず笑い声を漏らしてしまう。
そんな奇妙な執事と俺は会話を交わしていく。
奇妙な一体感に包まれていたのも束の間。
扉を壊される音が聞こえて、俺は慌てて背後を振り向く。
扉を開けて入って来たのは、サミュエル、ガブリエル、ウィニー、デビッド、ロイヤル、オリビア嬢、クロエの七人であった。
クロエは俺を見るなり、瞳から透明の液体を溢し、椅子の上の俺に勢い良く飛び付く。
椅子を倒し、俺に覆い被さる事になったのだが、まぁ、可愛い女の子に抱き着かれたので、悪い気はしなくはない。
ずっと、抱き着いているクロエをオリビア嬢は慌てて引き離し、腕を組んで、俺を睨むと、
「あなた、私たちがどれだけ心配したのか分かってますの!?ウィニー殿下などはここ数日、食事も喉を通りませんでしたし、私も、それは、それは、ありとあらゆる手を使いましたのよ!」
「そうですよ。あなたに何かあったらとぼくたちは心配で溜まりませんでした」
あの完璧王子のサミュエルが悲しそうな声でそう言ったのが意外であった。
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