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ありとあらゆる脱出方法が潰されて、絶望しているのですが……

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エミリオに代わり、新たに派遣されたエルフのメイドの名前はレイアというらしい。
何処ぞの某有名宇宙戦争映画のお姫様と同じ名前だったので、俺はおかしかった。
だが、あくまでも顔は平静を保ち続けた。人の名前を笑うなんて、失礼極まりなく、相手からしても、あまり愉快ではないだろうから、黙っておいたのだ。
俺は朝から、俺の面倒を見るレイアにペーターに会いたいという旨と、また会食をしたい旨を伝えると、彼女はペコリと頭を下げて、台車を押してその場を去っていく。
もう一度、あの時と同じ作戦を取ろうかと思い、ペーターを練習相手に呼び、またしても一日を利用して練習に励む。
そして、いよいよ訪れた夕食の席。
俺は懸命に弁舌を振るう。拳を振るい、声を震わせ、相手の魂を揺さぶる様な演説を心掛けたのだが、相手はニヤニヤとした顔を浮かべて、ワインを飲んでいく。
またしても失敗かと、肩を落としたのだが、いきなり、俺の目の前に座る首元を抑えて、地面の上に倒れ込む。
俺が慌てて駆け寄ろうとすると、
「大丈夫です。御安心を、ご主人様はいや、父は少し、薬で体を痺れさせられただけですから」
背後に立っていたのは雷の紋章が描かれた薬瓶を持ったエミリオの姿。
どうして、執事のエミリオが主人に対して、害を加えたのだろう。
「やり過ぎです。エミリオ様、お父上が死んだらどうなさるおつもりでしたの?」
その声で、私は隣に立っているレイアの存在と彼が倒れている男の息子だという事に気が付く。彼女は明らかに眉根を寄せて、エミリオを詰っていた。
だが、彼はヘラヘラとした顔で笑って、
「へーき、へーき、この国の転覆を目論んだ男ですよ。それに、死んだら、死んだらで、更に私に有利に動くんじゃあないんですか?最も、私はこの家が没落したとしても、食べていける自信はありますが……」
エミリオの言葉を聞いて、納得する自分がいる。エミリオの執事スキルはあまりにも高く、俺に対する態度やその仕事ぶりは貴族の子息という事を微塵も感じさせられなかった。
恐らく、彼ならば、何処の家に雇われても、生きていけるだろう。
エミリオは席の上で呆然としている俺の元に近寄ると、改めて頭を下げる。
「改めて、名乗らせていただきます。私の名前はエミリオ、エミリオ・ガラバ。この国で名高いガラバ公爵家の息子です。身分を偽ったのは、魔法学園で、評判のあなたを身近で拝見し、会話を交わしてみたかったからです。父に無理を言って、あなたの執事をさせてもらっていたのですよ。最も、名前だけは本当の名前を名乗らせてもらいましたが……」
エミリオはそう言うと、俺の右手を手に取り、その手の甲に口付けを落とす。
柔らかい唇が手の甲をつたい、俺の全身で感じていく。
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