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やはり、ここは誠心誠意を出して説得するしかないでしょう!

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俺は夕食を取りながら、ペーターと脱出案を練ったのだが、どの方法もあの脳内最高評議会の出した以上のものは出ずに完全に手詰まりとなってしまう。
どうしたものかと頭を悩ませていると、俺は昔、今の俺と同じ様に監禁されて、捕らえられた小説家が主人公のホラー映画の事を思い出す。
彼の脱出方法は確か、監禁したファンの女性を言葉で油断させ、彼女の望むままの話を書いて、彼女に気に入られ、彼女が油断させ、最後の方で、彼女に強請られて書いた原稿を燃やし、彼女に精神的なダメージを与えて脱出したのではなかったのだろうか。
それを利用すれば、戦えるのではないだろうか。
そこから、俺はある考えを導き出す。やる事はこの作品の主人公と同じ事なのだが、あの作品と違うのは言葉は油断させて、倒すためではなく、脱出のために使うという点にあるだろう。
つまり、言葉で彼を脈絡させ、俺とペーターの二人を逃してもらうという事に他ならない。
そうするためには、あの太った男との会談の場所が必要だ。
と、いうのも、後年に『ヤンデレ』と呼ばれる存在の先駆けとなり、何度も何度も監禁された主人公の元を自らの足で訪ねた彼女とは異なり、貴族様なので、自ら訪れる事はせず、代わりにあの執事を遣わせるので、彼と会話を交わし、脈絡させて落とすためには会談の場所は自然と必要になる。
なので、それを申し込む必要があるだろう。理由は何なりと付けられるから、適当な理由をあの執事に告げれば良いだろう。
そう考えて、俺はベルを鳴らす。表向きの用件としては、ペーターを部屋に返すためである。
そして、彼がペーターの肩を落とし、部屋から出ようとした時だ。
咄嗟に思い出した様に声を掛ける。用件は先程、考えたものを告げただけであるが、彼にとっては予想外であったらしく、一瞬、あっと叫ばんばかりに口を開いたが、すぐに元の笑顔を浮かべて、
「了解しました。ご主人様にはその様に述べておきます。ですので、今日のところは安心してお休みくださいませ」
と、頭を下げて部屋から出ていく。
俺は彼が出ていくのを見計らい、再び脳内最高評議会を開き、明日の会談の場所で話すべき事を語り合っていく。
脳内最高評議会が一段落したところで、俺は今度は先程、読めなかった冒険小説に目を通していく。
冒険小説の内容はなんと、あろう事か、脱出ものであった。
内容はアルカトラズ監獄……ではなく、この世界の何処かにあるとされる暗黒大陸にあるという魔法の監獄からの脱出である。なんと、まぁ皮肉な事だろう。
監禁されている身でこんなものを読むなんて、最高だ。自然と口の右端が吊り上がっていく。面白くてたまらない。
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